第13話 本物の絆

「いらっしゃいませ~! 『ホーリーナイト』の名物、『ホーリーライスオムライス』がとても美味しくて、おすすめです~!」


 お店の前で可愛らしい制服を来たミーシャさんが宣伝を頑張っている。


 元々可愛らしい姿も相まって、通り過ぎる人々が彼女に目を奪われている。


 男性だけでなく、同性の女性達も彼女の可愛らしい姿に「可愛い~」と話していた。


 一組、また一組。


 広場の近くにある一等地に新しく建った飲食店『ホーリーナイト』に入ってくる。


「い、いりゃっしゃいましぇ!」


 店員として雇っているヒナちゃんが緊張のあまり、最初のお客様の挨拶にかみかみである。


 お客様は優しく笑みを浮かべ、頑張ってねと声を掛けてあげる。


 次第に店内の席は半数が埋まり始めて、一番お勧めのオムライスこと『ホーリーライス』を注文するお客様達。


「ミレイアさん。『ホーリーライス』4つ~!」


「あいよ~」


 初めてのはずなのに、緊張感一つ見せないミレイアさんは、次々調理を進めて行く。


 厨房の手伝いとして雇っているケーヤちゃんが、下準備を進め、トレイと皿を用意して、野菜や飲み物を手際よく準備する。


 ミレイアさんが調理を終え、初めてのホーリーライスが皿に盛りつけられる。


 その美味しさ・・・・を知っている俺とケーヤさんが唾を飲み込んだ。


 俺は準備が終わったトレイを持って、初めてのお客様に向かう。


「お待たせしました。ホーリーライスでございます」


 男女のカップルで、最初に女性の前にトレイを置く。


 一度厨房に戻り、すぐにもう一つを持ち、男性にも運ぶ。


「どうぞ。ごゆっくりしてください」


 カップルはすぐに「「いただきます!」」と声を出し、目の前のホーリーライスを一口食べた。


「「美味しい!」」


 二人の動向を気にしていた店内のお客様から羨ましむ視線が注がれる。


「すぐに用意しますので、少々お待ちください~!」


 雰囲気を察知したので、店内のお客様にそう話し、厨房に戻る。


 この日、昼食2時間、お客様が途切れる事はなく、銅貨12枚と少々高値だが、それに見合う美味しさに、不満を言うお客様はなく、また食べに来ると満足して帰っていった。




 そこから2時間後。


 『ホーリーナイト』の最初の大勢のお客様が到着する。


「わあ~! 店内綺麗~!」


 真っ先に入って来たセリスさんが声をあげる。


 次々入って来るミーシャさんの元仲間達が嬉しそうにミーシャさんに声をかけた。


「みなさん! 今日はいらしてくださりありがとうございます!」


 実は、ミーシャさんの送迎会を昨日・・やる予定だったんだけど、昨日出来なかった。


 何故かって………………俺と一緒に倒れていたからだ。


 そんなこんなで、せっかくなら新しいお店で自慢のオムライスを食べて欲しいと、ミーシャさんがミレイアさんにお願いすると、意外とあっさり許可を出してくれたのだ。


 既に準備されている『ホーリーライス』だけでなく、他にも次期看板メニューが次々運ばれ、彼女達も満足そうに食べてくれた。


 食事が終わった頃。


「ミーシャちゃん」


「はい!」


「私達は普段から共にいたわけでもないし、ある意味全員がライバルのようなモノだったの。それが、ミーシャちゃんの、みんな同じ仕事をして頑張っている仲間だーって言ってくれて、私達は今ではとても仲良しになれたの。これも全部ミーシャちゃんのおかげよ」


 ミーシャさんの大きな瞳が潤んでいく。


「中には仕方なく働いている子もいるけれど、ミーシャちゃんのおかげで私達は仲間としてお互いを支えて生きる事が出来て本当に嬉しいわ。だから、ありがとう。ミーシャちゃん」


「「「「ありがとう!」」」」


 仲間達から「ありがとう」の言葉にミーシャさんが言葉を詰まらせる。


「これからは違う場所で頑張るけど、私達はいつまでもミーシャちゃんの仲間なんだからね? 困り事があれば、いつでも相談してね!」


 セリスさんの言葉にミーシャさんは答える事すら出来ないほど、わんわん泣き始める。


 そんな彼女を優しく仲間達が抱き締めあげる。


「本当におめでとう。これからはお母さんと共に頑張るのよ」




 俺がクズになるまでは、娼婦というに対して抱いていた感情は、良いモノではなかった。


 スキル『性欲』で、人間の本質・・を見抜いていた俺にとって、自分の身体を商売にする彼女達を、心のどこかで下に見ていたのは間違いない事実だ。


 でも、理由はともかく、今の俺は彼女達と一緒に仕事をしていて、彼女達がどういう想いで働いているのか、間近で見る事が出来たし、彼女達が一人一人事情がある事も知った。


 今の俺は間違いなく『クズ』そのものだ。


 自分のスキルを使って、娼婦館を乗っ取ったり、復讐して大量の土地を手に入れたり、ミレイアさんを弄んで更生させようとしたり。


 でも。


 今、目の前の光景を見て思うのは、クズになる前の――――――あいつら勇者とつるんでいたあの頃の方がよっぽと『クズ』だったと思う。


 知りもしない癖に、勝手に彼女達を卑猥な目で見たりしていたから。


 それを思うと、あいつらが俺を追放した時、俺の心の中はお前らのためにやっていたんだと言い聞かせていた。


 でもそれが伝わるはずもなく、仲間を心から見る事が出来なかった昔の自分と、あいつらは、今の俺よりも余程『クズ』だったんだと思う。




「ミーシャさん。おめでとう」


 俺は目の前に泣いているミーシャさんにそう小さく呟いた。


 最初で最後の『ホーリーナイト』での仕事はこうして幕を閉じた。

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