第7話 クズのやり方

「よう」


 俺は持っていた酒をテーブルの上に置く。


「ん? あんた…………ミーシャといた男じゃない」


「ああ」


「ふん。説教は結構よ」


「いや、説教で来たのではない」


「ふ~ん? なに?」


「噂によれば、酒が好きらしいね?」


「ふっ。こんなばばあを調べて何のつもり?」


 彼女はミーシャさんの母、ミレイアさんだ。


 真っすぐその瞳を見つめる。


 ――――性欲150%


「歳なんて関係ないだろう。こう見えても俺は年上が好きなんだぜ」


「ぷふっ。あんた。まだ成人したばかりでしょう」


 ――――性欲180%


「そうなんだ。実はあまり経験がなくてね。ミレイアさんと別れてから記憶から離れなくてな」


 ――――性欲210%


「私はあんたみたいな若いのには興味ないわよ」


 ――――性欲240%


「そうか…………残念だ。せっかく部屋まで取ってあるのだがな……」


「ん? もう取ってあるの?」


 ここは酒場兼宿屋。


 テーブルの上にここの部屋番号が書かれた鍵を見せる。


 ――――性欲270%


「ミレイアさん。顔が少し優れないが、飲み過ぎてないか?」


「えっ? そ、そんな事ないわ。私、酒には強いのよ」


「まあ、ミレイアさんがそう言うなら、そうなのだろうけど…………はぁ、ミレイアさんとなら分かり合えると思ったんだがな」


 席を立とうとすると、彼女が手で止めて来る。


「ま、待ってよ。もう少し話し相手になってもいいわ」


「本当か!? 俺はもっとを知りたいんだ」


 顔が真っ赤で、目がとろけている。


 性欲250%を超えた時に現れる症状だが、300%と違うのは、まだ辛うじて理性・・が残っている所だ。


 まあ、残っているからといって、我慢出来る人間なんて見た事ないがな。


 ミレイアさんは聞きもしない自分の事をベラベラ話し始める。


 旦那は誰かもわからず、彼女もまた誰からも愛された事がない人だ。


 まあ、だからってミーシャさんをあんな目に遭わせておいて、許されると思ったら大間違いだがな。


「あ、ミレイアさん。ごめん」


「ど、どうしたの?」


「申し訳ない……俺、あまり金を持ってなくて、部屋を取るのに全部使ってしまったんだ。だからもうこれ以上は飲めない」


「い、いいわ! 私がいくらでも奢るよ!」


 いや、それはミーシャさんのお金だろう?


「でも夜また仕事だから……ちょっと眠っておきたいし、俺はそろそろ部屋に上がるよ」


「っ! ま、待っ…………」


 ――――性欲280%


「ミレイアさん!? 大丈夫か!?」


 立ち上がりふらつく彼女にぐっと近づく。


 既に全身が熱くなっている。


「ねぇ…………私なんかで本当にいいの?」


「……もちろんじゃないか」


「…………うん」


 彼女の同意・・の下、連れて部屋に入っていく。


 中に入るや否や、俺に唇を重ねてくる。


 随分と積極的になったもんだな?


 ――――性欲300%


 そして、俺自身にも性欲300%を付与し、お互いに1時間で『性欲値条件変更』を使い『リセット』を設定。


 さあ、今夜は忘れられない夜にしようぜ。




 ◇




「ベリアルぅ……」


「ミレイアさん。悪い。これから仕事なんだ」


「う……ん…………また、会えるかな?」


「もちろんだとも。でもあまり会えないかも知れない」


「えっ!? どうして!?」


「実は俺には借金があってさ。今の仕事を続けて返さないと、あまり自由時間もないんだ」


「っ! わ、私も手伝うわ!」


「そんな……悪いよ」


「いいの! こういう時は大人に頼りなさい!」


「ミレイアさん…………」


「え、えっと。今の持ち合わせはこれしかないから、さあ、受け取って」


「え!? こんなに!?」


「うん! いいの! さあ、仕事頑張って来てね?」


「ああ。これなら明日も昼間は時間が取れそうだ」


「!? う、うちにまた来て!」


「分かった。また明日」


「うん!」


 ミレイアさんとキスを交わして、宿屋を後にする。




 娼婦館に戻って、渡された袋の中身を確認すると、銀貨9枚も入っている。


 銅貨10枚もあれば、豪華な食事が取れるので、そこから計算して銅貨1000枚に相当する銀貨10枚がどれだけ大金なのかは理解出来るだろう。


 これは恐らくミーシャさんが昨日稼いだお金だ。恐らく銀貨10枚稼いで、昨日のあの短時間で銀貨1枚分の飲み食いをしたのだろう。


 これをミーシャさんに素直に渡しても、また母に渡すに違いない。


 これから母の更生・・費用として、俺が貰うとしよう。まあ、全てが終われば、ミーシャさんに返すのもいいかも知れない。


 俺は今日も次々現れる客に条件付き性欲変化を施した。



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