第3話 クズの交渉の仕方

 早速やって来たのは、性欲が最も渦巻く夜の街、娼婦館。


 入口の用心棒が俺を睨む。


 もう20歳となった俺に問題はないはずだが、何となく客ではない事を悟ったのだろう。


「俺はベリアルという。店長に会わせて欲しい」


「…………消えな」


「ふ~ん。そんな事言っていいのか? お客様が誰も来なくてもいいのか?」


「はぁ?」


「そうだな……まあ、信じて貰えなさそうだから、今日は手始めに見せてやるよ。明日また来るから良く考えておけよ」


 ギラギラした視線の用心棒を後にして、俺は娼婦館から少し離れて、そこに向かう道の脇に隠れる。


 獲物を待つかのように、道に入る人々を睨み続ける。


 さて、最初に入るのは92%か。中々高いな。男性の性欲って平均すると60%だ。それに比べて32%も高いなら中々強い性欲の持ち主だろう。


 では早速0%。


 次に来る太ったおっさんはなんと98%。お前も0%にしてやる。


 おうおう、二人ともすっかりやる気ない顔に変わったな。


 何が起っているのかも知らずに娼婦館に入るが、あいつら……何も出来ないぞ。


 お~また客か~。


 それにしても意外と娼婦館に来るやつ、多いんだな?


 これはガッポリ稼いでそうだな…………このまま来る客全員を性欲0%してやる。


 その日は明るくなるまで、来る客全員を性欲0%に変えてやった。




 ◇




 次の日の夜。


「よう!」


「…………貴様。何をした」


 この用心棒、声がめちゃ低くくてドスの利いた声が中々の迫力だ。怒っているのも合わさって中々に凄い。


「おいおい、いいのか? 今日同じ事になるぞ?」


「…………来い」


 諦めたようで、娼婦館の中に俺を連れて入る。そう言えば、ここに入るのは人生初めての経験だな。


 こういうスキルの持ち主だから、こういう場所をわざと遠ざけていたから。


 中は俺が思っていたよりもずっと綺麗でゴミ一つ落ちてないし、何ならホコリ一つ落ちてない。こんなに綺麗にしているとは思いもしなかったな。


 ホールを歩き、客用の廊下ではなく、防がれたカーテンを開けると別な廊下が現れる。


 恐らくここが従業員がいる場所なんだろう。何となく性欲の強い雰囲気が伝わって来る。


 俺がスキル『性欲』を授かってからか、数値を見ずとも空気だけで強い性欲の持ち主がいる場所を嗅ぎ分けれるようになっている。そのがそう言っているんだ。


 廊下を進んでいくと、とある部屋の前に止まった用心棒は扉のノックをする。


「支配人。例の奴を連れて来ました」


「入れ!」


 部屋の中に入ると、ホール程ではないが、広い部屋で一番奥にお婆ちゃんが一人、その周囲を囲うように沢山の女性達が俺を睨んでいる。


 よし、すかさず女性達は全員性欲0%だ。


「おい、下衆。こっちに来い」


 怒る女達が俺に指図をする。


 どいつもこいつも俺を馬鹿にして……!


「そんな態度でいいのか? お前らの仕事は俺が握っていると言っても過言ではない。今度はお前らを仕事が出来ない身体・・にしてやったぞ」


「っ!」


「やめておけ。ベリアルと言ったな? そこに座んな」


 きっとこのお婆ちゃんが支配人なんだろうか。


 指示されたように向かいのソファーに座り込むと、一人の女性が凄い嫌そうな表情でお茶を出してくれる。


 かー! 嫌そうに出されたお茶、うめぇー! 更にこんな美人達に睨まれながら飲むのも悪くないな?


「ベリアルとやら。何が望みだ?」


「お金と仕事。それと復讐」


「…………昨日のあれ・・は何だ?」


「そうだな。説明するのが難しいが、俺のスキルで人の性欲・・をコントロール出来るんだ」


「性欲を……コントロール?」


「昨日ここに来る客の性欲を全て0%にしてやった。凄かっただろう?」


 そう話すと、支配人の隣の美人さんが怒り出す。


「凄かったじゃないわよ! あんたのおかげで昨日は散々な目にあったんだから!」


「俺のを見せてやる」


 美人さんと後ろに立っている用心棒の性欲を300%に変える。


「っ!? あ、あんた。私に何をしたの!?」


「ふっ。土下座して怒鳴ってすいませんでしたと謝るまで、治してやらないぞ。用心棒さんにはサービスな」


 先程とは明らかに表情が変わる。一言で言えば、ものすごくモジモジしている。


 昨日は全く出来なかっただろうから、色々溜まっているんだろう?


 そして、不思議な事に、性欲が強くなると他の性欲が強いやつを嗅ぎ分けれるようになる。


 支配人以外は全員が性欲0%に比べて、この場には美人さんと用心棒さんだけが300%だ。つまり――――


「も、もう我慢出来ない!」


「くっ!」


 二人は人目もはばからずに抱き合うと、用心棒が部屋に置いてあるベッドに彼女を運ぶ。


 その異様な光景に支配人の目が光る。


「これが終わるまで話す事はない」


 俺は後ろから聞こえる喘ぎ声に笑みを浮かべ、支配人や女達を眺める。


 みんな少し顔色が良くないな? いくら娼婦と言っても人前でただやる動物・・みたいな行動は決してしないはず。


 寧ろ、彼女達は高いプライドがあり、そういう事を商売としているプロだ。


 そんな彼女があんな目にあっているんだから、驚くのも無理はないだろう。


 後ろの音がどんどん激しさを増していく。


「もうよい。お前を雇ってやる」


「ふ~ん。でもそれじゃまだ弱い・・な? あの女に泣きながら土下座されるまでやめられないぜ」


 支配人の目が怒りに染まっていく。


「勘違いするなよ。俺は交渉に来たんじゃない。お前らを利用しに来たんだ。仕事が欲しいのも金が欲しいからではあるが、ここでやりたい事があるからだ。対等な関係だと勘違いして欲しくはないね!」


 よし、後ろが一発終わったようだな。


 用心棒さんの性欲を300%から0%に戻す。


「え!? ギアン? ど、どうしたの?」


「…………すまない。これ以上はやれない」


「そ、そんな! 私はまだやり足りないわよ!」


「す、すまん……………………起たないんだ」


「私が頑張るから!」


 2回戦に入りたい美人さんは用心棒のソレを一生懸命に起こす。が、一向に起きない。


 男に性欲0%にした場合、どんな状況だろうと、絶対・・に立たない。


 一生立たない身体になるんだ。


「これが俺の力だ。理解して貰えたか?」


「…………ああ」


 後ろで頑張っていた美人さんが俺の前に身体を乗り出す。


 いや、せめて服着ろよ。目のやり場に困るだろうが……。


「お、お願い! 治してください! 先程は怒ってごめんなさい!」


「うむ。よかろう」


 美人さんの性欲を元の130%に戻す。


「これで元通りだ。支配人さんよ。俺の力はこんな感じで色々変えられる。それにこの力にはもう少し秘密がある。それは仕事の時に見せてやる」


「…………分かった」


「俺に対する報酬は全て支配人さんに任せる。対等ではないと言ったが、俺は自分の仕事には責任を持つから無理難題も言わないので、よろしく頼む」


「既に無理難題を言っているが、貴様に目を付けられた時点で我々の負けだな。まず今日一日の仕事ぶりを見せろ」


「おうよ」


 すっかり元通りになって服を急いで着る美人さんは、自分が行った事を思い出したように顔が真っ赤になって肩を落とした。



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