第4話 ランゴバルド冒険者学校

西域。


人類文明の中心地は、ものごとの進み具合もとんでもない。


気が付いたときには、ぼくたちは機械馬の引く馬車に載せられていた。


学校ってなに?


というギムリウスの素朴な疑問をうけて、説明してもだめだと思ったのか、アウラさんは、道中で説明するからと、言って、呼んでおいた馬車にぼくらを乗せて、ランゴバルドの「冒険者学校」へと向かったのだ。


「とりあえず、亜人のお嬢さん以外は、学校の意味はわかるわね?」


「通ったことはないが、人間はそういうところで、集団で学習するというのは知っている。」

アモンが答えた。

「だが、冒険者資格と学校の関連がわからない。学校に通うと冒険者になれるのか?」


「ランゴバルドは冒険者の国、と言われていてね。

冒険者を育成するための学校があるの。


だから、いまのあなたの質問に対する答えはイエスよ。


冒険者学校を卒業すれば、真鍮級、成績がよければ鉄級の冒険者として、即時登録が可能よ。」


「・・・その・・・学費は?」


聞きたくはなかったが、ぼく以外にだれも質問しないだろうから、ぼくが聞くしかない。


「無料よ。ちなみに寮もあるから、寝泊まりや食費もタダ。」


「それはずいぶんと太っ腹だな。」

リウの目は、十代の坊やのそれではなく、冷徹な為政者の目つきになっている。

「そうまでして、冒険者を育てたいのだな?」


「ランゴバルドに恩のある冒険者を育てたい、でしょうね。正確に言うと。」


アウラさんは、にぃっと笑った。


「そしてわたしは、わたしとわたしのギルドに恩を感じてくれる優秀な冒険者がほしいの。

ここまで明け透けに話せば信用してもらえるかしら?」


「確かに助かるな。今夜の宿も決まっていなかったのは事実だ。」

リウは大きく頷いた。


「でも学校というからには、決まった期間、教育を受けないといけないわけですよね?」


仲間たちはぼくを心配性だと笑ってくれるが、ぼくは心配せざるをえない。

だって、学校だぞ。集団生活だぞ。


「ランゴバルドはもともと教育に熱心でね。」

アウラさんは、窓をあけるとタバコに火をつけた。

いや、ぼくの知っているタバコではないのかもしれない。ただよう煙はいままで嗅いだことのない香りがした。

「読み書きくらいマスターするのが義務教育よ。それでも家庭の事情や住んでいたのがとんでもない僻地で、それもままならないまま職を求めてここにたどりつく人間も多いの。


そういう、人間は冒険者にでもなるしかない。


でも、わたしたちは、字も書けない、読めない、契約書の意味もわからない冒険者はほしくないの。


そういう最低のことから丁寧に教えてくれるのが、冒険者学校。」


「ぼくらはそのくらいはできます。」


「出来る人間には、そのうえのことも教えてくれる。

貴族を相手にしたときの手紙の書き方、それぞれの場面に応じたドレスコード、貯蓄と投資の仕方、税金の上手な支払い方等々………ね。」

「何年くらいかようんですか?」


「決まってない。

だいたいは3年くらいかしら。

15くらいで入学して18で卒業。そして、真鍮級の冒険者として、デビューできる。

ルトくんやリウくん、ギムリウスちゃんにはちょうどいいんじゃないかしら?


実際には年代はもっとバラバラよ。


あなたたちもそうだけど、故郷で無資格のまま冒険者を、してたけど、あらためて西域で活動するために資格を取りたいってひともけっこう多くて、まあ、ずいぶんなおっさんもいるわ。

逆に食い詰めて故郷の村から流れてきた子なら、それこそ十にもならない子供もいる。

そういう子は、さっきも言ったけど読み書きから教えるので、3年くらいじゃあ卒業できないわね。


逆に早いひとだと半年って記録もあるわよ。」


「半年かあ。」

ぼくは、仲間たちを見やって心の中でため息をついた。


「それは例外中の例外。

ちなみに彼女は、卒業と同時に銀級で、デビューしたわ。」


「そんな、ことが出来るんですか?

いったいなにもの…どこかの王族とか?」


「彼女の場合は在学中の実戦演習で迷宮を制覇してしまったらホントに例外よ。

ミトラを中心に活動してたけど、君たちと入れ違いくらいに、魔王宮に向かったはず。


斧使いのアウデリアって冒険者よ。」


「ところで、その冒険者学校って遠いの?」


そろそろあたりは暗くなってきて、ロウはいちだんと生き生きしてきた。

陽光にも、ビクともしない彼女もやはり夜の方が好きなんだろう。


「もう着いてるわ。」


アウラさんは、外を指さした。

さきほどから、代わり映えのしない壁がいつ果てるとも無く続いていた。

「入口まではもう少し。ランゴバルト東街区の丘陵、ほとんどを校舎とその付属設備が占めるの。

在校生は約四千。」


グランダの王立学院だって立派なものだと思っていたが、在校生は200程度だった。


「連絡はしてあるから、このまま入学試験を受けてもらう。」

「テストがあるんですか!?」

「落とすためのテストじゃないから安心して。

あなたたちに最適の教育プログラムを組むためのものだから。

まさか、名前もかけなくて、そこからスタートなんてことはないわよね?」


冗談でいったのだと思うけど笑えない。


街灯の灯りに浮かび上がる門は、レリーフを施された立派なものだった。


馬車も楽にすれ違える広さがある。


門番の姿は見えなかったが、扉はひとりでにしずしずと開いた。


「いちいち、正門から出入りするんですか?」

と、ぼくが聞くと、アウラさんは、おもしろそうに

「出入り口は一箇所だけなの。昼間は門自体を開けたままだけどね。

理由は」


理由は、馬車が門をくぐった瞬間にわかった。


おいおい、また、なのか。


と、リウが拗ねたように言う。


これを人間が作ったのか?

たいしたものだ。


と感心したようにつぶやいたのは、アモンとロウ。


「わかるの?あなた方。」


驚いたようなアウラさんに、ぼくは下をむいたまま答えた。


ああ、ここは迷宮ですね。

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