大切が違うから

「俺は、美咲が大切なんだよ。だから、こんなのに引っ掛かって傷ついて欲しくないんだよ。」


「大切、大切って、だったら俺と付き合ってくれてもよかったじゃないか」


美咲さんは、椎名さんの言葉に本音を言った。


「付き合う?なんで、俺と美咲が?昨日の答えか、決まったならするよ。彼氏の前だけどいいのか?」


バシャ…


俺は、怒りで水をかけてしまった。


「なにするんだ、仕返しか」


「飲みすぎだから、頭冷やした方がいいと思って」


そう言った俺を椎名さんは、睨みつけた。


「美咲、別れるべきだよ。」


「別れないよ」


「俺に相手にされなかったら、誰でもいいのか?」


「誰でもよくないよ、るいだからいいんだよ。」


椎名さんは、頭をふった。


「大切にしてるって、わかんないだろ?口では、何だって言えるんだよ。俺は、美咲が大切だから言ってるんだよ」


「しーちゃんの大切と月の大切は違うよ。」


「そんなの違うに決まってるだろ?」


「仕事仲間として、これからもよろしく。だから俺は、しーちゃんとはもうプライベートは、過ごさないから」


「なに、それ?本気で、こいつがいいの?」


「そうだよ」


美咲さんは、力強く言った。


俺には、この人が何を言いたいのかわからなくなってきた。


「あっそ。じゃあ、もういいわ。俺、美咲には幸せになって欲しかったんだけどな。」


そう言って、立ち上がった。


「美咲、俺にたいしての気持ち。まだ残ってるなら捨ててよ。そう言う恋愛的な気持ちは、いくら綺麗な美咲でも嫌だから」


「ちょっと待てよ。そんな言い方ないだろ?」


俺は、歩きだそうとした椎名さんの胸ぐらを掴んでいた。


「あのね、当たり前だよね。普通の感情きもちわかる?橘さんには、わからないよね?」


「当たり前とか普通ってなんだよ。椎名さんと同じだろ?女に恋してるのとかわらない。」


「あー。橘さんって女好きから男に乗り換えたタイプね。俺は、そうならないから…。周りにいても何とも思わないんだよ。だけど、自分を好きってなると話しは違うよね?そういうの嫌だなって、大人だから気持ち悪いとかまでは言わないよ。ただ、嫌なだけ。」


そう言いはなった目が冷たい。


「詩音を大切なのは、嘘なのか」


「嘘じゃないよ。仲間として、友達として大切だよ。幸せになって欲しいとも思ってる。ただ、俺への気持ちがあるなら捨ててって話。さっきも言ったけど、嫌だなって話」


「もういいよ、月。離してあげて」


俺は、そう言われて椎名さんから手を離した。


「美咲、こんなやつやめとけよ。美咲は、綺麗な顔してるんだからもっと違うやつがいるよ。」


「それでも俺は、るいが好きだから…。だから、今日呼んだのはしーちゃんに昨日の件は出来ないって伝える為だから。俺は、今

、月が大切で大好きだから」


「あっそ。ならよかった。じゃあ、帰るわ」


椎名さんは、美咲さんを見ずに手をあげて帰って行った。


店の扉が閉まった。


「カッターシャツもスーツも、染みになっちゃうよね」


美咲さんは、タオルでまた俺の服を拭いてくれてる。


俺は、美咲さんを抱き締めていた。


「月君、もう終わったよ」


「終わってないよ。辛いんでしょ?傷ついたんでしょ?」


「あー。」


美咲さんが、泣き出した。


「華や晴海の言う事は、聞くもんだね。二人が反対してたのは、こうならないようにだったのかな」


美咲さんは、俺を抱き締める。


「大切、大切って言われる度に、苦しかった。極めつけは、嫌だなだって。本当は、気持ち悪いって思ってたんだよ。ずっと、俺の事」


「気持ち悪くなんてないですよ。」


美咲さんは、俺から離れた。


「キツいね。俺、しーちゃんと一緒に働けるかな。でも、働かないといけないよな。プライベートと仕事は、別だよ。しーちゃんの作る料理にお客さんもついてる。何より、この店には必要だから…。でも、明日会うのキツいよ。」


美咲さんは、テーブルの上のワインを片付けながら泣いてる。


俺は、それを見ている事しか出来なかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る