第2話 人気者の噂

 次の日の昼休みがやってきた。

 その間、特に樋口さんと何もなかった。昨日のことは無かったことになっているのだから、そりゃあ何か起こるわけでも無いのだけれど、それでも僕の関心は彼女に向いていた。

 彼女は何事もなかったように友人グループと談笑しながらお弁当を食べている。いつも通り、昨日の彼女の動揺は無かったかのようだった。

「隙アリっ!」

 僕の弁当に箸が刺され、唐揚げを取られる。犯人は僕の親友だ。

「............。」

「おい、なんか反応しろよー、おーい」

「......なあ、荒川あらかわ。樋口さんってどう思う?」

「なんだよ急に。まぁ、樋口は美人さんだよな。勉強もできるし、真面目で優等生だよな」

「......うん」

「おいおいおい。俺、お前が今何考えてるか分かるぜ」

「ん、勘違いだからやめとk」

「お前、気があるんだろ〜」

 その一言でため息が出る。

 中学生というものは、何事も色恋話に発展しがちだ。ただ僕は昨日の真相が知りたいだけなのに。

 僕に下心はない、いやほんの少しだけだ。

「まぁ、やめとけって。樋口は可愛いかもしれないけど、やっぱ高嶺の花じゃね?」

「だから違うって」

「おうおうおう、俺たち親友だろぉ〜?」

「はぁ......」

 樋口さんについて知りたいと思ったけれど、聞く相手を間違えたようだ。

「じゃあお前さぁ、樋口さんから告白されたら断るのか?」

「......いや、そんな状況あり得ないから」

「お前ちょっと間があったぞ!!」





 僕が次に目をつけたのは樋口さんの仲良しグループのひとりだった。放課後の教室、1人になるタイミングを狙う。

「森川さん、ちょっといい?」

「ん、どしたの?」

 彼女は放課後はよく教室では一人でいる。親の迎え待ちだと小耳に挟んだことがあった。

「いや、ちょっと樋口さんのことなんだけど」

「えッ!コトコトの事について!?」

 その時、森川さんの目つきが変わる。具体的には今日の昼の荒川と同じだ。

 面倒なのでもう無視して話を進めることにする。

「樋口さんって人形とか好きだったりする?」

「......いや?部屋にぬいぐるみとかはあるけど特別好きってわけじゃ無いと思うよ」

「そ、そうなんだ」

 そういえば昨日の人形はゴシック調のドレスを身にまとっていたな。

「ゴシック好きとかは?ゴシック人形とか」

「うーん、持ってるとこは見てないかも」

「......そうなんだ」

「ちょっと待ってよ、君って春夏冬あきない君だよね」

「?、うん」

「なに、もしかしてコトコトの事好きなの?」

「......それさっき荒川にも言われたんだけど」

「コトコトの誕生日に人形とか贈ろうと思ってる?思っちゃってる!?ぶっちゃけあんまりだと思うよ?」

「違う違う、そう言うんじゃ無いから」

「じゃあなんなの??」

「それは......」

 口止めされてるからなぁ。それにこうやって探りを入れているのもグレーゾーンだ。もしかしたら半殺しぐらいにはされるかもしれない。

「なぎなぎは最近サメのキーホルダーとか欲しがってたよー?」

「いや、本当にそういうのじゃないから。樋口さんの誕生日も知らないから」

「6月13日」

 あと4日後のなのか。クラスの美女の誕生日、覚えておこう。


 ......という冗談はさておき。


「樋口さんって最近変わった所ない?」

「なんか、探偵みたいだね。でも、んー、特には感じないけど。あ、でも......」

「え、なんかあるの?」

「いやぁ、流石に私の口からは言えないかな。本人に聞いてよ」

「分かった。ありがとうね、明日聞いてみるよ」

「頑張ってね、応援するから!それにコトコト彼氏居ないよ!居たことも無いよ!!」

 凄い良い情報を聞けた......じゃなくて、どうでもいい情報だ。

「本当に違うから。ちょっと気になってる事があるだけで」

「へー、気になってはいるんだぁ」

 ニマニマと森川さんは笑っていた。心底この状況を楽しんでいる様子だった。凄い何か過ちを犯した気分だ。気軽に声を掛けるんじゃなかった。

「一応言っておくけど、本当に違うからね!?」

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