第014話 三島をチンピラにしてみゆきちに絡んでもらおうぜ! それを俺が助ける


 田中さんの提案でシュートを決めた俺はみゆきちに挑む事に決めた!

 意味わからんね……


 妹と田中さんとの作戦会議を終えた俺は翌日の金曜日、授業を終えると、さっさと教室を出て、図書館に向かう。

 そして、事務のおばさんと交代し、受付に座った。


 しばらくすると、みゆきちもやってきて、俺の横に座る。

 そして、ノートを取り出し、何かを書き始めた。


『早いね』


 みゆきちがノートを渡してきたので、読むとこう書いてあった。

 俺はすぐに返事を書きだす。


『今日は金曜だしねー。テンション上がっちゃって』


 俺はそう書くと、みゆきちに返した。


『明日休みだもんねー。来週からはテスト勉強しないとだけど』


 俺はそれを見て、一瞬、返事が書けなかった。


 うーん、いきなり来たなー。

 まあいいか…………

 どっちみち、今日誘うつもりだったし。


『だねー。あのさ、良かったら来週、一緒に勉強しない?』

『来週? 部活も休みになるし、いいよー。いつする?』


 さすがに毎日はないだろう。

 俺だって、それくらいはわかっている。

 そもそも、みゆきちと俺とでは成績が違う。

 もちろん、俺の方が悪い。

 当然だね。


『来週の金曜とかどうかな? 受付中にもできるけど、その後にこの前のファミレスにでも行こうよー』


 二人っきり作戦!


『いいよー。あ、木曜くらいにアリアともやるんだけど、おいでよー』


 みゆきちって、ホンマにええ子やな…………

 バカとバカの面倒を見てくれるんだもん……


『アリアの勉強を見てやるか…………』

『うーん、実際、小鳥遊君って、どのくらいなの?』

『平均60点ぐらいかなー』


 具体的には計算してないからわからないが、そんなものだと思う。

 いいやつは80点を超えるし、ダメなのは赤点だ。


『アリアと変わんないじゃん』


 知ってる。

 なお、田中さんもそんなもん。


『アリアにも過去問を恵んでやるか…………』


 良いヤツだし、相談に乗ってもらってるしなー。

 しかも、今朝、本当にバスで一緒になった。


 本当に良いヤツだと思う。

 きれいな足を見せてもらったし、過去問くらいは回してやろう。


『生徒会長のだっけ? 私も見せてよー』


 ん?

 何を今さら…………


『もちろんだよー。みゆきちに見せるために生徒会長に解説まで書き込んでもらったし』


 冗談で言ったんだけど、本当にやってくれるらしい。


『え? 生徒会長って3年だよね? 受験あるし、迷惑なんじゃ……?』

『俺も冗談で言ったんだけど、解説する方が勉強になるんだってさ』


 勉強の上級者すぎて意味わかんなかった。

 志望大学がどこか知らないけど、もう受かるんじゃね?


『そういうものかな……? ありがたいんだけど、悪いねー』

『ちゃんとお礼は言っとくよー』

『お願い。さすがに3年生のクラスに行く勇気はないし』


 というか、来られても迷惑だろう。

 過去問を流しているのはみゆきちだけじゃない。

 田中さんもだし、三島にも流している。

 というか、多分、他所のクラスのヤツにも流すだろう。

 何せ、俺や妹が生徒会長から過去問をもらっていることは同中なら大抵の人間が知っている。


『みゆきちは律儀だなー。田中さんなんて、ずっと昔から回してるけど、生徒会長にお礼を言ったことなんてないのに』


 同じ小中高だから何度も会ってるだろうにねー。


『そういえば、小鳥遊君は田中さんとずっと同じクラスなんだっけ?』

『そだよー。小鳥遊、田中だから出席番号順だと前後になるし、奇跡だね』


 美人は3日で飽きると言うが、田中さんは飽きない。

 まあ、子供の頃から知ってるし、子供を美人と呼ぶかは微妙だったが。


『仲良いんだよね?』

『そこそこにはねー。あまり遊んだ記憶はないんだけど』

『そうなの?』

『あの人、芸能界に入るために忙しいから』


 色んなレッスンとヒトカラが忙しいようだ。


『なるほどねー。田中さん、あだ名通り、本当に美人だもんねー』

『美人で有名な田中さんね。誰も異論を唱えないw』


 本当に美人だもん。


『田中さんと付き合おうとは思わないの?』


 …………どうした?

 急にぶっこんできやがったぞ?

 あなた、俺があなたのことを好きなことを知ってるでしょ?


『あの人と浮き合う気はないねー』


 友達だもん。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 告白されたら…………いや、今はないな。


『じゃあ、アリアは? かわいいでしょ』


 …………マジでどうした?

 すげー聞いてくるんだけど……

 今までこういう恋愛話をするような子じゃなかった。


『アリアねー。良いヤツだとは思うよー。見た目も…………まあ、いいし』


 ぶっちゃけて言うと好みではある。

 だが、それだけだ。

 これまでにもそう思った子はいた。


『ふーん……なんとなくわかった。急にこんな話をしてゴメンね』


 えー……

 何がわかったの?

 すげー気になるんだけどー。


『いや、めっちゃ気になるけど、スルーしとくわー』

『是非、そうして(笑)』

『みゆきちの心が読めるようになりたい』

『私は読まれたくないけどね(笑) ところで、今日は私の事をみゆきちって呼ぶね? アリアも山岸さんじゃないし』


 目ざといな…………


『なんとなくねー、気にしないでー。スルーしてー』

『ん-、じゃあ、スルーするよ。でも、なんでみゆきち? アリアは呼び捨てなのに』


 実を言うと、俺は男女問わず、下の名前を呼ぶことがほぼない。

 なんでアリアを下の名前で呼び捨てにしたんだろう。

 自分でもわからん。


『実は俺、今まで隠してんだけど、とある病を患っているんだ。春野さんの事を心の中で下の名前で呼ぼうとしたんだけど、無理だった。だからあだ名で呼ぶことにした』

『それでみゆきち? いや、他になかったの?(笑)』

『なかった(笑)』

『じゃあ、しょうがないね(笑) 私、みゆきちって呼ばれたの初めてだよー』


 あんまり、みゆきち感ないもんね。


『小さい頃とか何て呼ばれたの?』

『ミユキちゃんとかかなー……他には…………』


 俺達は今日も筆談で会話をする。

 だが、昨日までの筆談とは少し違っていた…………




 ◆◇◆




 私は家に帰ると、制服から着替えもせずに、ベッドに横たわり、一息ついた。


 今日も楽しかったと思う。

 だが、小鳥遊君は明らかに昨日までとは違っていた。


 相変わらず、目を合わせないし、丁寧だったと思う。

 だが、昨日までとは違い、素が出ていた。


 私の事をみゆきちと呼び、アリアをアリアと呼んでいた。

 多少の冗談や毒も出ていた。


 これまでにはなかったことだ。


 そして、何より、私を誘ってきた。

 それも小鳥遊君が他の人によくやる馴れ馴れしさというか、有無を言わさない感じで誘ってきた。

 私が即答したからすんなりで済んだが、もし、難色を示していても強引に連れていかれただろう。

 今までの小鳥遊君のアリアや田中さんとの会話を見ていると、そんな感じがする誘い方だ。


 来週の金曜日に一緒にテスト勉強しよう…………


 私は正直、意外に思った。

 実は一緒にテスト勉強をするという考えは私の中にもあった。

 だが、小鳥遊君から誘ってくる場合は絶対にアリアを間に入れると思っていたのだ。

 実際にこれまでは大抵、アリアを通していた。


 今日、アリアが小鳥遊君とバスで学校に来ていることは知っている。

 だから、また、アリアにお願いをしたのかと思っていた。

 でも、どうやら違うっぽい。


 だって、図書委員の帰りってことは2人でってことだ。


 以前、図書委員の仕事帰りにファミレスに行ったこともあった。

 だが、その時は話が盛り上がっている最中であり、中途半端だったからもう少し、話そうとなったからだ。


 小鳥遊君はいつも私から一歩引いていた。


 だが、それは昨日までらしい。

 おそらく、昨日、小鳥遊君に何かがあったのだろう。


「本当に真剣に考えないとなー…………」


 思わず、声が漏れた。


「まあ、答えは決まってるんだけどねー」


 そう、私の中で決まっている。

 私は小鳥遊君にごめんと言わないといけないのだ。

 ただ、心の準備と今後のことを考えないといけない。


「難しいなー…………でも、私が悪いんだから仕方ないよね」


 私はため息をつくと、起き上がり、服を着替え始める。

 そして、着替えを終えると、部屋を出て、玄関に向かった。


「ミユキー? どこか行くの?」


 玄関で靴を履いてると、お母さんが声をかけてくる。


「アリアのとこ」

「もうすぐ、ご飯だからねー」

「わかったー。ちょっと聞きたいことがあるだけだから」


 私はそう言って、玄関を出ると、隣の部屋のインターホンを押す。

 すると、すぐにドアが開き、おばさんが出てくる。


「おばさん、こんばんはー」

「あら、ミユキちゃんじゃない? アリアは部屋にいるわよー」


 おばさんはそれだけ言って、奥に行ってしまった。

 もうアリアの家に来るのも慣れたもので、こんな感じで自由だ。


 私は一人で家に入ると、アリアの部屋に向かう。

 アリアの部屋の前まで来ると、中から話し声が聞こえてきた。


 私はノックをしようとした手が止まる。


 電話中?

 小鳥遊君かな?


「ねえ? どうしてあんたら兄妹はそう黒いの? 三島君がかわいそうじゃん!」


 どうやら小鳥遊君で確定のようだ。

 というか、これはヒカリちゃんもだな。

 何を話してるんだろう?


「いや、だから、三島君はミユキも知ってんだから無理でしょ。っていうか、古典的すぎてコントじゃん………………いや、今時、どこの世界に『よーよー、姉ちゃん』って言って絡む人がいんのよ」


 アリアの声と共に『三島ならいけるってー』という小鳥遊君の声とヒカリちゃんのひーひーという笑い声も聞こえてくる。


 どうやらふざけているようだ。


 私は部屋をノックする。


「はーい?」


 アリアがノックに反応した。


「私だけど…………」

「え? ミユキ? って、はやっ! 切るのはやっ!」


 小鳥遊君は私の訪問を知って逃げたようだ。


「ちょっといいかな?」


 私は部屋の外から声をかける。


「いいよー。小鳥遊兄妹は速攻で逃げたし」


 私は許可を得たのでアリアの部屋に入った。


「電話してたのにゴメンね」

「いいよ。相談という名のふざけだったから」


 やっぱりふざけてたか。

 しかし、本当にアリアは小鳥遊君と仲が良いな……


「なんとなくわかったよ。すごい笑い声が聞こえてたし」

「ヒカリちゃんね。よー笑う子だわ」

「三島君って聞こえたけど?」

「あー、まあそれはいいじゃん。どうやらヒカリちゃんの方も三島君とは仲が良いらしくて、兄妹揃って三島君を悪者にしようとしてた」


 軽く誤魔化されたなー。


「三島君も大変ねー」

「だろうね。それで? なんか用? この時間に来るのは珍しいよね」


 よくアリアとは会っているが、それは大抵、ご飯を食べた後だ。

 食べる前はほとんどない。


「ちょっと聞きたいことがあって」

「聞きたいこと? なーに?」

「今朝、小鳥遊君と何を話したの?」


 私がそう聞くと、アリアは一瞬、目を逸らした。

 だが、すぐに私を見る。


「…………うーん、君らさー、どっちも私に探りを入れるのやめてよー。すごく板挟みなんだけど…………」


 この感じだと、どうやら小鳥遊君も探りを入れたようだ。

 というか、さっきの電話はそれだな。


「小鳥遊君も聞いてきた?」

「まあ…………そんな感じなことを聞かれたかな? 今日の筆談で何かあったの?」

「小鳥遊君がちょっと変わってた。いつも通り丁寧なんだけど、一歩引いてる感じじゃなかったね。アリアの時みたいに距離を詰めようとしている」

「あー…………」


 アリアのこの反応から見て、やはりアリアは何かを知っている。


「教えて」

「ごめんだけど、無理。ミユキが言ったらダメって言うように小鳥遊君もミユキには知られたくないと思うし」


 アリアの中で小鳥遊君の存在が大きいのがわかる。

 アリアと小鳥遊君は相性がいいんだろうなー。

 多分、私がいなければ、本当に…………


「それもそうだね。じゃあ、これだけは教えて。小鳥遊君は本気?」

「でしょうよ」


 アリアはあっさり答える。


「そっか」


 わかってはいたことだ。

 これはただの確認にすぎない。


「あのさ、本当のところ、小鳥遊君の事、好き?」


 アリアのこの言葉に私は…………


 言葉を出すことが出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る