第012話 実は三島は田中さんにフラれたことがある(小4)


 バスケ部の練習は男子も女子も終了した。

 先に終わった男子は三島以外は皆、片付けも終わり、更衣室に行ったようだ。


 女子はまだ片付けている。

 というか、おしゃべりしながら片付けているので遅い。

 こういうところは高校でも変わらないようだ。


 俺と田中さんは三島と共に体育館の中に入り、さっきまで男バスが練習してたコートで話をしていた。


「田中さんが体育館にいるのにすげー違和感あるわ」


 三島がバスケボールを指で回転させながら言う。


「なんで? 普通に体育も出てるし、違和感なんかないでしょ」

「女子と男子で違うからなー。あ、制服だからかな? ウチの男子共が田中さんがいるって色めきだってたよ」

「俺が連れてきた!」


 感謝しろ!


「お前のことは『あいつ、ガチじゃん』って、皆が言ってたな」


 ストーカーちゃうのに…………


「やっぱり皆、そう思うよね。女子の方もそう思ってるし」


 俺は田中さんにそう言われて、後ろの女子コートをバッと振り向く。

 すると、何人かの女子バスケ部員は視線をサッと不自然に逸らした。


「げ、マジだし…………後でみゆきちに弁明しておこう」

「今、言えば?」

「みゆきち、携帯を持ってないだろ」


 さすがに練習中に携帯は持ち込まないと思う。


「直接言う気はなしっと…………ダメだこりゃ。ねえねえ、三島君、ここから入る?」


 田中さんは俺の評価を一段階下げた後、ゴールを指差しながら三島に聞く。


「入んない」


 三島が苦笑しがら答えた。


 俺達が立っているところは3ポイントのラインよりもさらに1メートル以上も離れている。

 入る確率は低い。


「三島、お前ならいける。ここからシュートして、入ったら田中さんに告白するんだ」


 昔、そんなドラマか漫画があったような気がする。


「何か意味あんのか、それ?」

「三島君、ごめんなさい」

「しかも、やる前からフラれてるし! 秒だし! これじゃあ小鳥遊じゃん!」


 おいこら!

 誰が秒でフラれた小鳥遊君だ!


「いいから行け。いや、待て。じゃあ、占ってやろう。入ったら浅間先輩と上手くいく。外れたらダメ」

「お前、最悪なことを言うんだな」

「浅間先輩って?」


 田中さんは浅間先輩を知らないらしく、聞いてくる。


「図書委員の先輩。こいつ、その人が好きらしい」

「へー。じゃあ、行ってみよっか!」


 田中さんも乗ってきた。


「いや、お前ら、ひどいよな」


 三島はそう言いながらも持っているボールを2回ほどバウンドされると、ゴールに向かって構えた。


「遠っ!」

「頑張ってー」


 田中さんが応援する。


「三島ー!! 左手は添えるだけだぞー!!」

「うるせー! お前、それで審判に注意されたんだろうが!」


 三島は俺のアドバイス(妨害)に文句を言った後、構え、シュートを放った。

 三島が放ったボールはきれいな放物線を描き、ゴールのリングに当たる。

 そして、何回か跳ねた後、ボールは無情にもゴールの外に落ちていった。


「惜しい! これはいいとこまで行くが、失敗すると見た!」

「残念…………」


 俺と田中さんは残念そうに言う。


「俺、今日ほどお前らが嫌いな日はないわー」


 三島が心無いことを言っていると、田中さんが歩いて、転がっているボールを取りに行く。

 そして、ボールを掴むと、笑顔で俺を見た。


「あ、帰ろ!」

「待てや、キャプテン!」


 俺は嫌な予感がして、帰ろうとすると、三島が俺の肩を掴んだ。


「元な。もうバスケ部じゃないから!」

「1年の頃からの自称エースだろ」


 全部、中学の時の話だよ!


「はい。小鳥遊君」


 田中さんはかわいい笑顔で俺にボールを渡してくる。


「マジ?」

「小鳥遊君、占いをしよう。春野さんとどうしたいか悩んでいる君のための占いだ。入ったら春野さんと上手くいく。外れたらダメ」


 田中さんがそう言うと、俺は無言でボールを受け取った。

 俺はバスケボールを見て、ゴールを見る。


 なんだろう?

 さっきの三島の時よりもゴールが遠く見える。


 これ、占いじゃない気がする。

 でも、いい機会かもしれない。

 俺の悩みを解決するものかもしれない。


 上手くいくかは知らないが、入ったら頑張ろう。

 入らなかったら諦めよう。


 こんな大事なことをこんなことで決めていいのかという思いは当然ある。

 だが、そう思ってしまった。


「いくぞ……」


 俺は覚悟を決めて、つぶやいた。


 田中さんも三島も何も言わない。

 気のせいか、急に静かになったような気がする。

 隣のコートでは女バスの連中がぺちゃくちゃしゃべりながら片付けをしているというのにだ。


 俺はそれほどまでに集中していた。

 こんなに集中したのはバスケの試合でもない。


 俺は三島と同様にボールを2回ほどバウンドされると、ゴールに向かって構え、シュートを放った。


 なんとなくだが、外れるイメージが沸いてこなかった。


 俺の放ったボールはきれいな放物線を描き、ゴールに向かっていった。

 そして、ボールはリングに当たることもなく、バシュっと音を立てて、床に落ちた。


「…………覚悟は決まった?」


 田中さんが聞いてくる。


「うん。っていうか、俺、すごくね? マジで入ったし! あ、三島、悪いな! どうやら俺とお前は違うらしい」

「うぜー。そこは外せよー。っていうか、現役バスケ部の立場がねーし!」


 三島はそう言って、俺の頭を叩くが、笑っている。

 俺は何となく、後ろを振り向いた。


 俺の後ろには多くの女バスがいるが、俺のみゆきちセンサーですぐにみゆきちを発見すると、みゆきちを見る。


 そして、みゆきちと目が合った。


「あ、結婚してくださいって言いそう」


 去年の二の舞になりそう。


「やめなよ」

「さすがにそれはやめとけ」


 田中さんと三島が止めてくる。


 俺はみゆきちからそっと目を逸らした。


「目が合ったらお腹が痛くなってきた」

「……重症だね」

「……お前、なんかトラウマでもあんのか? いや、俺なら転校を視野に入れるレベルの爆弾があるけど」


 俺はトイレに行くことにした。


 逃げたわけじゃない!

 ただ、このままではまたプロポーズしそうになったから頭を冷やしてくるだけだ。




 ◆◇◆




 一度、トイレに行った後、体育館に戻ると、三島と田中さんだけが残っており、女バスは片付けが終わったようで誰も残っていなかった。


「三島、お前、いい加減に着替えたら?」

「お前を待ってたんだよ。田中さんを一人にする気か?」


 紳士みたいなことを言ってるぅー。


「お前な、そういうことを言うと、俺が悪者になっちゃうだろ」

「いや、どっちにしろ、あの場面で逃げたらダメだろ」

「小鳥遊君、マジでヘタレストーカーだったね」


 え?

 マジでコクった方が良かった?


「あの場面で告白はなくね?」

「いや、目が合って、速攻で逃げたところ」

「速かったねー」


 逃げたわけじゃないのに…………


「まあ、シュートも決まったことだし、頑張れや。じゃあ、また、明日な」


 三島はそう言って、更衣室に向かっていった。


「ヒカリちゃんはまだかな?」

「いつものように大きな声で着替えてくるんで待っててーって言ってたよ」


 想像がつくなー。


「田中さん、何食べたい?」

「何でもいい。ファミレス、行こうよ…………というか、春野さんを誘ったら?」

「今からその辺の作戦会議をしにファミレスに行くんだよ」

「さすがは図々しいうえにドス黒い男…………」


 俺はそのまま田中さんと共に妹を待った。


 しばらくすると、制服に着替えた妹が走ってやってきた。


「お待たせー。そういえば、どうして、田中さんがいるの?」

「田中さんがヒカリちゃんとご飯を食べたいってさ」

「小鳥遊君がチキンで一人で体育館に行きたくないらしくて、連行された」

「うーん……田中さんだな!」


 妹は兄より美人を信じるらしい。


「ファミレスでいいか? 奢ってやるよ」


 俺はそう言って、2人を促した。


「お母さんからお金を貰ってるもんね」


 いいから行くぞ!


「いくらもらったの?」

「3千円」

「お釣りあるね」


 仕方ない。

 ドリンクバーも付けてあげよう……

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