ドラゴンブレス

くにすらのに

プロローグ 脳破壊ボイス

「お兄ちゃんは小学生にドキドキする変態さんなんだね」


「おぅふ」


 女の子の部屋で両手を縛られ、目隠しをされた状態でこんな言葉を耳元でささやかれたら変な声が出てしまうのは当然のことだ。

 甘くてトロトロしたロリボイスは脳細胞を確実に破壊していく。人生が狂っても構わない。そう思わせるだけの力が彼女の声には宿っている。


「でもでも、イブキは本当にお兄ちゃんが変態さんかどうかわからないな。自分のお口で自己紹介はできる?」


「じ、自己紹介?」


「僕はロリコンの変態不審者ですって。覚えられるかな? コミュ障で根暗なお兄ちゃん」


「バカにするな。僕はロリコンの変態不審者です!」


「くすくす。そんなこと言って恥ずかしくないの? 死にたくならないの? 本当にダメなお兄ちゃん。イブキ以外の子に発情したらダメだからね」


「うん!」


「本当に返事だけはいいんだから。じゃあ、今からテストするね」


 顔の右側に掛かっていた生暖かい気配が消えると、今度は左側にその気配を感じる。別の人間が僕の側に現れた。視界が遮られているからかすかな音で状況を想像するしかない。


「あらあら。蛙部あべくんはロリコンだったんだ。せっかくお姉さんのおっぱいに甘えさせてあげようと思ったのに……ロリコンはおっぱいに興味はないわよね?」


 大学生くらいだろうか。高校生の僕からすればまさにオトナのお姉さんと言えるセクシーな声が耳から全身を駆け巡る。

 たしかに僕はアニメではロリキャラが好きだけど、おっぱいが大きいお姉さんキャラも大好物だ。

 ここは自分の主義を曲げてでもお姉さんのお誘いに乗っかりたい!


「おっぱい大好きです!」


「ふふふ。大きな声出しちゃって。そんなにおっぱいが大好きなの? ロリコンなのに?」


「ロリコンなのにおっぱい大好きです!!」


 自分でも何を言ってるんだろうと思う。でも、本心をさらけ出さなければいけない理由が僕にはある。恥ずかしい言葉を放っても死ぬわけじゃない。逆に、恥ずかしいことを言わなければ死ぬかもしれない。


 僕はそういう状況に置かれている。正確にはそれは勘違いで別に殺されることはないんだろうけど相手が相手だ。実はヤの付く自由業なんだと言われたら信じてしまいそうな人を相手にしている。


「本当にどうしようもない子ね。それじゃあご褒美に」


「え? まさか本当に」


 正直に性癖をさらけ出したご褒美におっぱいチャンスが巡ってくるのならカミングアウトしたかいがあったというものだ。

 別に全校生徒の前で叫んだわけじゃない。秘密は守られている。人生何が起きるかわからないものだ。


「はい。あーんして」


「へあ? あ、あーん?」


 再び現れた幼女に言われるがまま口を大きく開くと、舌先に甘いものが触れた。おっぱいってこんなに甘いんだ……でもなんとなく固いような。

 まさかコリコリに固くなった……!


「って、飴じゃん」


「喉にいいんだよ。生姜たっぷりなのにはちみつの甘さもあっておいしいんだから」


「生姜たっ……かっっっら!!!!」


 視覚を封じられているせいか味覚がいつもより敏感になっている。そこに初体験の濃厚な生姜の刺激が襲ってきたら悶絶してしまう。


「暴れるな。私の秘蔵ののど飴なのに」


「僕は別にそこまで喉を大切にしてないから!」


「そう? ロリコンの変態不審者とかおっぱい大好きとか大声で叫んだんだからケアした方がいいんじゃない?」


 まったく生意気な幼女だ。なんて口が裂けても言えない。

 なぜならこの声の主はクラスメートで隣の席に座る女子で、しかも目つきが恐い。

 もちろん飛び級とかではなく同い年だ。


 そんな同級生がなんでロリボイスを出せるのかと言えば才能としか言いようがない。地声がこれなんだから。


「ふふふ。お姉さんがお口の中をフーフーして冷ましてあげようか?」


「マジで!? お願いします!」


「するわけないじゃん。私がするのは声だけ。そういうプレイはお店に行ってやりなさい」


「そのお姉さんボイスで僕の心を弄ぶな! ったく、一体どこからその声が出るんだか」


「うん? 喉よ。喉。私のこの鍛えた喉!」


 この部屋には僕と彼女の二人しかいない。それなのにロリとお姉さんがいるのはなぜか。答えは簡単、彼女がロリボイスとお姉さんボイスを使い分けているからだ。

 地声のロリボイスと、そのロリロリで甘々な声からは想像もできない妖艶な声を出す喉は一体どれほどの研鑽を積んだのだろう。


 僕はその努力に惹かれてこうして彼女の練習に付き合っている。そう、あくまでも自発的であって断じて脅迫されているからではない。

 

実際、耳が幸せなんだから文句は言えないんだよ。あの日、僕の脳は彼女の声によってトロトロに破壊されてしまったんだから。

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