チー牛男子はチー牛魔王に成り果てました〜妖魔の力を得たチー牛男子は強者たちを捻じ伏せる~

六天舞夜

第1話 チー牛魔王と渾名された日

 とある高校の昼休み。


 中途半端な長さのダサい髪型に洒落っ気のないメガネをかけた男子生徒は教室の窓から外を見つめている。


 昼休みともなれば友達同士で談笑もするだろうが、この男子生徒にとっては周りの人間の他愛ない談笑も喧騒に感じる。


 なぜなら男子生徒には友達が1人もいないからだ。


 今も誰とも話すことなく昼休みが終わり喧騒が静まることだけを考えて窓の外を見つめている。



―だが、他人の声は否が応でも耳に入る―


 「ねぇアイツずーーっと外ばっか見てるよ。キモっ!」

 「窓ガラスがかわいそう」

 

 男子生徒を罵る声の先には女子生徒と男子生徒の集まるグループがいた。


 イケメンと美女の4人グループ。


 「麻生まおうだろ。高校入学から一ヶ月も経ったのに友達もいねぇなんて異常だろ」

 「ワタシが声をかけてあげよーかな」

 「辞めろって。勘違いされてストーカーされんぞ」


 麻生まおうというのは窓の外を見つめている男子生徒の名字である。


 麻生晃太まおう こうた


 これが男子生徒のフルネームである。


 「ストーカーさせて警察に突き出して退学させるのもおもしろくね?」

 「アハハ!それバズるかも!!」

 「美少女JKが挨拶しただけでチー牛からストーカーになった件!!」

 

 グループの男女は思い思いに麻生まおうをバカにして大笑いしている。


 「ねぇねぇ、ところでさってなに??」


 グループの中の1人の女子生徒がというネットスラングを知らなかったのか仲間に尋ねた。


 「んだよチー牛も知らねぇの?ほらよ」


 そう言って1人の男子生徒はスマホの画面に典型的なチー牛の写真を出して女子生徒に見せつけた。


 女子生徒もへ〜と頷く。


 「似てるだろ?てゆーかそっくり」


 麻生まおう自身にも自覚は痛いほどあり、たしかに麻生まおうは典型的なチー牛顔をしている。


 「ホントだウケる!!」


 またしてもグループの連中は大笑い。

  

 麻生まおうからしてみれば他人の顔について談話して何でそんなに笑えるのか分からない。


 だが何でもいいから早く終わってほしいと願うのみであった。


 「チー牛の麻生まおう…チー牛麻生ぎゅうまおうってアダ名、面白くね!?」


 1人の男子生徒が勝手に麻生まおうのアダ名を閃く。


 「ちーぎゅうまおう??何それ?」

 「いや、だからさ西遊記に登場する牛魔王とチー牛の麻生まおうをかけてるってことだよ」

 「よく分かんないけど面白いかも〜」


 飽きもせずにグループの連中はまたしても他人の渾名あだなを決めて大笑い。


 高校1年生の5月、こうして麻生まおう晃太の渾名あだなは頼みもしないのにチー牛魔王となったのであった。

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