第46話 大物協力者、発覚

「園遊会はとても楽しかったわ!」


戻ってからまで、私ははしゃいでいた。


マーガレット様とまたお会いできた。

あの時のお友達とも再会できた。


「僕としては微妙だった」


あらら。旦那様も、騎士団だけではなくて、学校時代のご友人と親交を深められて楽しそうだったのに?


「今度はあなたがヘンリーと仲が良いという別のデマが広がった」


「デマではありません」


私は即座に否定した。


私は嘘がつけないのだ。


「仲良しさんです」


「なんだ、それは?」


「ヘンリーが、そう名付けたのです」


正気の沙汰かという顔をしながら、旦那様は言った。


「どうせヘンリーのことだ。別な事件を期待してるんだろ。どんなに待っても次の事件なんか起きないぞ?」


「私も起きないと思いますし、起きてもらっても困りますわ」



貴族であれば、マーガレット様が開催したような大園遊会こそが後世に語られるべき理想のパーティであり、誰もが思い浮かべる正しいパーティのあり方であるはずだった。


それにもかかわらず、私たちの珍パーティは、なんとも複雑な話だが、皆さま方から大変なご好評をいただいていた。


なんなら、再度の催しはないのですかというお問い合わせも一件や二件ではなかった。


死別に伴う披露の会なんか、そうそうするものではないと思う。


誰が相続するのか、ラムゼイ伯爵の性格があんなだったので、最後まで公表されずだった。

そのため、潜称者というのか、実は真の相続人は自分なのだなどと言いだす者が出るかもしれなかった。

実際、そんな騒ぎは何回も起きたことがある。


私たちの襲名披露パーティは、そのせいもあって敢行せざるを得なかったのだ。


マーガレット様の大パーティの前に行われたのも、実は下心があって、あの大パーティの後なら、みんな、私たちの珍パーティのことなんか忘れてくれるんじゃないかと期待したのだ。



「そんな詐欺みたいなことが起きたら、ヘンリーが大喜びでここへ通い詰めになりますけどもね」


マーガレット様の大パーティーとは、比べ物にもならなかったが、ささやかな私たちのパーティーには、それなりの意味があった。



だが、それが済んだので、私たちは館と庭の改築に本格的に乗り出した。


「本当は黒字なんだけど、それは黙っておいた方がいいわね」


アーサー神妙にうなずいた。


「少なくとも、門の前の大穴はお金をかけても早く修繕しないと。何気なしに中に入っただけで、馬車ごと穴に落ちで、ウマもろとも重傷を負うだなんてやりきれないよ。誰も呼べない」



もちろん、本当に親しい友達、マーガレット様なんかは別だった。事情を知っていたので、使用人用の門から平気でやって来た。


「これからは遠慮なく押しかけられるわ!」


「そうなのよ。あなたが男性嫌いをやっていると、私たち、旦那様がいるのが妙に肩身が狭くて」


散々女学生時代に、自分の理想はこんな男性だ、とか、イケメンじゃなきゃ絶対イヤと宣言していた面々だ。それが実際に結婚したのは……確かにイケメン揃いというわけではない。


「裏切り者ってわけね!」


私は微笑んだ。


「でも、旦那様は優しいのよ」


彼女たちは言った。


それぞれにとって旦那様はみんな特別な人。たった一人の大切な人。


あなたのことを思うと心配で、事故やひどい目に遭わないか、まるで自分のことのように心配。


私に出来ることってないかしら? あなたを守りたい。


「あなたに何かあったら、及ばずながら、私も戦いますから!」


旦那様……ではなくてアーサーは、なんとも言えない顔をした。


「どうやって? どうやって戦うつもり?」


「それは……姉のアマンダも夫を助けていますわ。いろんな噂を仕入れて、義兄に提供していますもの。私も……」


「シャーロット」


アーサーは私に向かって真面目な顔で言った。


「あなたは何もしなくていい。一生懸命なその気持ちだけでいい。あなたが暴走して、まずいことになったらと思うと居ても立っても居られない」


「大丈夫ですわ! あなたのためならなんだって……」


アーサーは付け加えた。


「人間、向き不向きがあって……」


「でも……」


「事務仕事が出来る。それだけだって重要な事なんだ。僕を助けてくれる。本当は、何もしなくてもいい。いてくれるだけでいい。守るのは僕の役目だ……それにね……僕には、あなたはいろんな人たちから助けられているように思えるんだ」



あのラムゼイ伯爵家の披露パーティの時、最後に王立修道院付属女学院から、こっそりおしのびでお越しになられた修道院長様が、声をかけて下さった。


「世間は狭いわね。ラムゼイ伯爵夫人と私は親友だったのですよ」


修道院長様は何とも言えないゆかしげないつもの様子で話しかけてくださった。彼女は王弟殿下の娘で、夫の公爵が急な病気で亡くなったあと、修道院に隠遁されたのだ。


「あなたが継いでくれてうれしいわ。レベッカの作った庭を再現していくれとラムゼイ伯爵は遺言したそうですね」


庭の方はどんなに頑張っても早期の復活は難しい。私は修道院長様の言葉に緊張した。


「とんでもない息子だったけれど、母のことを大事にする気持ちは残っていたのですね」


穴ぼこだらけの庭の話ではなかったらしい。母を大事にしない彼女の息子に対して、少々思うことがあったようだった。


修道院長様は微笑んだ。


「あなたの旦那様は、あの時あなたを見染めたようね」


「え?」


「だって、わかりますもの。あの時、旦那様は気がついたのよ。おとなしくていうことを聞くだけの娘が理想じゃないってことに」


そ、そんなにもわかりやすかったの? 私には全然わからなかったけど。


「それはそうでしょうけど。あなたは必死だったもの。何にも気づいていなさそうだったわ」


大人の余裕で、修道院長様はやわらかく微笑んだ。


「あなたと来たら、夢中になって必死で努力する……私は、あなたの旦那様があなたの魅力に気がついてくれて、とてもうれしかった。かわいらしい少女の表面だけではなくて、本質に惹かれてくれた。だから、全面的に協力したの」


全面的に協力した……?


「旦那様は、修道院に何回も問い合わせをしてきたのよ。修道院長の私が教えることはできなかったから、こっそり騎士団長の夫人になったマーガレットに伝えたの。彼は真剣だって」


優雅に伴の者を引き連れて去って行く院長夫人の後ろ姿を、私は呆然として見送った。

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