第14話全権委任状

「君は呪われ子ではないのかね、ハザン殿」

 東の大国の王宮で国王フリート・ロードシュバイツが重々しく尋ねる。僕とアイクルとシズは国王玉座の前で控えていたその時である。大国の使者から首都に呼びだされて、開口一番この台詞である。少なくとも驚いていた。調査済みだったのだろう。

「同じ外大陸に追放され、出自も明らかではない。それも同年齢だ、孤児院から行方不明になっていてその先はわからない。だがその才覚と力でのし上がってきた君だ、理由があるはずだ。もう一度聞こう。君はテファリーザ王国の呪われた王子ではないかと」

 荘厳な玉座の間に貴族達のざわめきが波紋の様に広がる。

「頷けますね、これだけの才覚一般人とは思えません」

「隠れていたか、呪われ子、大国に仇成あだなす者、あの地方を発展させるなど、他に考えられない。何かの陰謀かも知れない」

「水面下で独立運動が流行っているとか油断できませんな」

「まさか、ハザン殿が呪われ子だったとは!!?」

 場が静まるまで待つ。大国の要望でこの首都まで来たのだ、この扱いはない、改めて抗議する。「それはどの証言で分かるものでしょうか?国王様にお聞きしたい」


 僕は怒りで一杯の様子で我慢しているように見せている。貴族の中にはレイド監督官もいる。あの男が調査したに違いない。目線を逸らすので間違いないだろう。

「呪われ子は特徴的な黒いまなこをしていると聞く。医者に鑑定させたい。見せてくれるだろうか?」思慮深い王を演じながらも何かを虎視眈々と狙っているように見える。

「いいでしょう、それで疑いが晴れるのなら、それと証拠がなかった場合、列車の技術提携の話はなかったことにしてもらいますよ、国王様」

「少し待ってくれ、ハザン殿には西の大国メラトラ女王のフリゲートナイツ国の間を取り持って欲しいのだ。長い軋轢の歴史に終止符を打つのはそなたしかいないと思っている。そなたが呪われ子だったとしても優遇措置は取るつもりだ。それを考えて鑑定を受けて欲しい」国王はわずかに動揺しているように見える。

「さすがに屈辱ですね、両大国の『ハザン商会』の支店に十万人ほど雇用させようと思っていた所です。人材が国内で育ってきたので、増員計画を立ててこの扱いですか、技術供与も喜んで受けようとしていたのです。国王様は何を考えているのでしょう?私がもし呪われ子だったとしたら『ハザン商会』本部に返してくれるのでしょうね」

「茶番ですね、ハザン様の出自を明らかにして態度を決めるのでしょうが、『ハザン商会』の元テファリーザ王国の資本力欲しさに思えます」アイクルが念話で話す。

「しかし、もし呪われ子だったと誤認させたいとしたら、目的は何でしょう?もう一度国に揺さ振りをかけるためでしょうか?」シズも念話で話してくる。


「そうだな、支配下に置くためにあの地方の全てが欲しいように思える。医者の鑑定も正しく見るかどうかわからないね」アイクルとシズに再び念話で答える。三人で打ち合わせをしていた。この局面をどう乗り切るかだ。

「いいですか、外大陸まで影響がある『ハザン商会』の責任者が呪われ子など不名誉でしかありません、医者の鑑定は受けましょう。ただ虚偽の場合、両大国の支援は一時凍結させてもらいます」

「待ってくれ、ハザン殿失礼した、医者を呼ぶので待っていてくれ、両大国に劣らないまでに成長した『ハザン商会』に両国の和平を取り持って欲しいのだ。路線の連結の具体案もすでにフリゲートナイツ国と協議済みだ。二つの大国があの呪われた土地を介して物資や客員を乗せて走る計画だ。そなたの商会にも利がある。どうだろう、受けてはくれまいか?」

「それは両大国の繋ぎ役になってくれということですか?確かに爆発的に両大国は発展するでしょう。元王国では道路の舗装整備も終わっています。確かに我々にも利がある話です。しかし、それが呪われ子とどういう関係があるのですか?」

「医者が準備できた。ハザン殿、これは外交的に由々しき問題なのだ。もしそなたがテファリーザ王国の正しい後継者だったら、あの国は復活しかねない、国と国との関係も変わっていく。この大国も飲まれかねない財力だ。支配下に置かれてしまうかもしれない。確認のためだ、間違っていたらあの地方の全権委任状を与えよう。それで東の大国との関係を取り持って欲しい。いいだろうか?」


 僕は深く考えている様に見せて「それは西の大国も同じような条件でしょうか、全権委任状とはどの程度の物でしょう?」

「もちろん全てだ。西の大国も同様に和平を望んでいる。戦乱の歴史に終止符を打つ英雄であって欲しい。成し遂げたなら更に優遇策を考えよう。あの地方で『ハザン商会』の力が振るえれば強力な繋ぎ役になる。だが呪われ子の場合侵略されかねない、ここは歯止めなのだ。医者の鑑定を受けて欲しい」

 医者が進み出て眼球を見て行く、しばらく検査して医者は首を横に振る。玉座の間がほっとした空気に包まれる。「やはり、違っていたようだな、呪われ子は十八年前に死んでいたらしい。こちらの調査に不備があったようだ。テファリーザ王国の復活はないらしい。ハザン殿申し訳ない。この大国も必死なのだ。そなたの技術に追いつくのに日進月歩している。レイド監督官、君の調査報告には誤りがあったらしい。大国の舵取りを危うく間違える所だったぞ、この責任どうしてくれる!!?」

「国王、ハザン殿は元女王と生き写しだと元テファリーザ王国では有名です。更に元女王が生存している噂もありました。調査報告によりますと場所も特定しております。後から調べさせれば見解の不一致が見つかるかと思われます」

 

 フリート国王は玉座で思案している。この監督官の処分をどうするか、悩んでいるように見えた。「国王様、全権委任状有難く頂戴致します。レイド監督官も多忙の身、調査報告にも誤りがあったのでしょう、両大国の和平の件つつしんでお受けさせていただきます。メラトラ女王にも働きかけ、技術供与を進めていきます。成し遂げられたときの優遇策も取り急ぎ書面にて届けさせます。呪われ子も天国で無事安心しているでしょう。それでは私達は仕事があるので、これで失礼させていただきます」玉座の間から去る僕達。それを憎しみの目で見つめるまだ若い貴族のレイド監督官がいた。

「これはレイド監督官、ハザン殿に救われましたな、疲れていらっしゃるのでしょう」

「国王様レイド監督官の調査は杞憂きゆうでしたな、これで両国の和平が実現すれば、国力が何倍にも膨れ上がるでしょう。長い平和の時代が築かれます」

「『ハザン商会』の支店にも技術者が膨れ上がります、全鉄道計画も順調ですな」

「国王様、再調査の権限をお与えください。私の誇りが立ちません」

 怒りのままにレイド監督官が国王に進言する。

「レイド監督官お前は何を見ていたのだ?呪われ子の特徴はなかったではないか、今更全権委任状は取り消せぬ、元女王が生きていたとしてもハザン殿がいる状況で何が出来る?レイド監督官お前を解任する。若く有能で家柄も良い若者だと思っていたら、とんでもない不始末だな、しばらく牢獄で頭を冷やすがいい。衛兵連れて行け!!!」


「国王様私の仕事は間違っておりませぬ、必ず証拠を見つけます。どうかもう一度確認を取らせて下さい。お願いします!!」

「黙れ、この責任から逃れるつもりか、貴族の名誉も考えよ、『ハザン商会』は外大陸全域に影響力を持つのだぞ、力の差を思い知るのだな」

「くそっ、こんなはずでは、調査員は何をしていたのだ、邪魔でもされたか、くそっ必ず返り咲いてやるぞ、ハザン!!!」

 衛兵に連れて行かれるレイド監督官。

「あの若者には珍しい誤りだったな。しかし、元女王と瓜二つだな。他人の空似か、偶然にしては出来過ぎているな、一応調査して置け、レイド監督官の部下も捕まえておけ、大願の東の大国との和平にはハザン殿とあの地方が必要だ。しっかり技術提携を準備して置け、外大陸からの労働者たちも集めさせろ、メラトラ女王に書状を送れ、全権委任状の話だ、あの地方は『ハザン商会』の本部に任せる。税収も期待できるな、発展すれば車の両輪のように上手くいく。ハザン殿なら乗りこなすであろう」

 上手く行ったようだと僕達は安心して四輪車に乗って移動している。その前後をガダン兵士長の車両が続いている。

「レイド監督官は更迭されたようだな、しかし全権委任状か東の大国にも確認をとらないといけないな、和平の話か、鉄道も連結する形で両大国の国民が自由に行き来できるな。またテファリーザ王国は発展しそうだ。優遇策でどこまで引きだせるかな」

「ハザン様、渡りに船でしたが、独立運動はどうされます?今の住民に不満などありません。ハザン様も立ち上がる機会は近いのではないのですか」

「私も思います、事実上の自治権です、それ以上の優遇策を引き出さなければいけません。ハザン様にはできると思いますよ」

 アイクルとシズは相談するように話している。

 ロードシュバイツ大国の首都は洗練されていて都会の雰囲気を出している。その中をアイクルが運転する四輪車が走っている。道路も舗装されていてテファリーザ王国の技術の流出が見て取れる。四輪車も蒸気船も、古代魔術の金属製で、魔法薬の試薬品と蓄電池のハイブリッド構造に進化している。すでに技術の流れは進んでいる。カイルとセイラが入れ込んでいた。首都にも盛んに最新モデルの車が走っている。技術の流れに大局を見失ったなとこの国の国王に同情するかのように静かに僕は呟いていた。

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