5 幼馴染親友たちと幼馴染達

 2人は互いに気まずそうにしている。

 理由はお互いの些細なすれ違いだ。

 咲奈と晴斗は互いに人気がある者達だ。 

 互いが互いに浮気されるんじゃないか捨てられるんじゃないかと人気者は人気者で不安だったというただそれだけだ。

 これに気づいているのは奏だけというのが、悲しい現実だ。

 二人は互いの顔を見て戸惑っている。


「……歌うか?」

「う、うん……」


 晴斗がそう言うと、彼女は戸惑いながらも頷き二人は立ちあがり横に立つ。

 互いにぎこちない。

 歌も音程がまるであってない。

 それでもよかった。

 何かきっかけを蓮人と奏は作りたかっただけだ。

 奏と蓮人は盛り上げる。

 

「いいよ~、二人とも~!!」

「咲奈~、こっち見て~」


 そうして歌い終える事には二人は緊張が解けテンポがあっていた。


「ふぅ~」

「お疲れ咲奈」

「ありがと」


 そう言って彼女は一気に飲み干す。


「美味しい~」


 咲奈がそう言うと、奏は蓮人に目配せしてきた。

 二人きりにしたいのだろう。


「ちょっと僕はトイレに行くよ」

「行ってら~」


 晴斗に言われ、僕が出て行く。

 しばらくして、奏も出てくる。


「うまく出れたんだね」

「無理やりだけどね」


 奏は携帯が出るふりをして出てきた。

 中は晴斗と咲奈の二人きりだ。


「いつ戻ろっか?」


 二人っきりにしたのはいいが、僕らはいつ入るか様子を伺っていた。

 かといって覗くのもあれなので、奏と僕は少し外に出てふらつくことにした。

 店員さんには後で戻ってくると伝え僕らは外に出て携帯を見ると鬼のようなメッセージが送られてきていた。

 

「うん、とりあえずゲーセンいこっか」

「そうだな」

 

 カラオケの下にゲーセンがあるのでそこで時間を潰すことにした。

 

「おや、おやおやおや~?」


 そう言って奏はクレーンゲームの方を見る。

 そこには彼女の最推しの赤髪女性キャラのぬいぐるみがあった。

 

「これは、取るしかないなぁ~」


 右肩を回し、やる気満々に奏は財布の中から小銭を取り出し入れる。

 

「なんでぇ~?」


 そうして五百円ほど入れてかすりもせずに悔しそうにそう言った。 

 相変わらず、こういうの苦手だよな。

 

「うぅ、今月ピンチなのにぃ~」


 そう言って涙目で両替機の方へ向かった。

 仕方ない、協力してやるか。

 そう思い500円玉を入れ、やると1回で取れてしまった。

 自分でも驚きの運だ。

 残り四回あるな。

 こんなんだったら、100円にしとけばよかったと言いたいが後の祭りだ。

 ぬいぐるみはもう一つあったので、それを取るようにやったが運を使い切ったのか取れなかった。


「取れたぞ」


 戻ってきた奏にそう言って差し出すと、嬉しそうに彼女は受け取り、ぬいぐるみを抱きしめている。 

 その顔は幸せそうで取ってよかったと思わせるほど可愛らしかった。

 ほんと、可愛いよな。

 その姿に僕は頬を綻ばせてしまう。

 それは恋であろうが、彼女は僕に好意など抱いていないだろう。

 只の幼馴染で且つ同じ推しを持つオタク友達としか思っていないだろう。

 自分でそう思っていると悲しくなってくるが、実際の所そう思わないと告白したくなってしまう。

 今の関係を壊したくないので、必死に堪えている。

 

「ありがと、蓮人」

 

 この笑顔は狡い。

 太陽が背中から差し込むように眩しい笑顔だった。

 

「ど、どういたしまして」


 必死に表情を抑えながら、そう言うと彼女は再びぬいぐるみを見て嬉しそうに抱きしめる。 


「? あ、どれくらいかかった? 払うよ」

「あげるよ」

「そうはいかないよ、こういうのはきっちりしないと」


 そう言って彼女はぬいぐるみを抱きしめながら真剣な表情でそう言った。

 う~ん、どうしようか。

 プレゼントというのもおかしい気もするし、どうしたものか。

 そう考えていると、一つの案が頭に浮かんだ。


「今月ピンチなんだろ、またお金あるときでいいから何か奢ってくれよ」

 

 これだったら、何も問題ないだろう。


------------------------------------------------------------------------------------------

  一方その頃、咲奈と晴斗はというと、音楽を入れたのにもかかわらず互いにソファーに腰かけ、俯きながら一言も話さず俯いていた。


 (早く帰ってきて~!!)(早く帰って来いよ~!!)


 互いにすました顔でスマホを弄って二人が早く帰ってくるように促すが、既読無視で何も返信が来なくなり、助けが無い事を察し諦めたのだ。

 

「ねぇ」


 咲奈が喧嘩腰に声を掛ける。

 彼女はそんな気はないのだが、どうしてもこの話し方になってしまうのだ。

 悪気はない、だが中学あの頃からどうしても彼に対してこの口調で話してしまうのだ。


「なんだよ」


 咲奈は話しかけたはいいものの、話題を決めてないので彼女は口どもる。

 

「ふ、二人とも遅いね」


 必死にひねり出した言葉がこれだった。 


「そうだな」


 晴斗も緊張しているのか、そっけなく返す。

 普段、誰とでも気さくに話せる彼だが、彼女に対しては緊張してうまく話せないのだ。

 そうして再びカラオケのBGMが流れるだけの空間が場を包む。

 あれからというもの互いに距離感がわからなくなってしまった。

 昔は仲のいい一緒に居て落ち着く関係だったのに今では二人で遊ぶどころか顔を合わせる度に喧嘩ばかりだ。

 互いにそれは分かっている。

 お互いに昔の様に話し合えば、仲直りできるのは分かっているがそれが出来ないのがなんだかな~っという感じだ。

---------------------------------------------------------------------------

 ある程度時間を潰し様子見がてら二人の元に戻ると、カラオケには似つかわしくない重苦しい雰囲気の二人がいた。

 まさか、ここまで喋らないとは想定外だった。

 どう声を掛けるべきか迷う。

 

「よしよし」


 奏は小倉さんの頭を撫でて慰めていた。

 この状況でこういう事できるこいつは凄いと思う。

 そうして奏が目配せをしてきた。

 いったん離れろと言わんばかりだ。

 重苦しい雰囲気の中、彼を室外に連れ出す。

 少し離れた場所で晴斗に中で何があったのか聞くと、全くといっていいほど会話がなかったというのだ。


「……仲直り、したいんだよな?」

「したいに決まってんだろぉ~!!」


 そう言って悲壮な顔でそういう彼はイケメンというにはあまりに酷い泣き顔だった。


「落ち着け、迷惑だ」

「だってよぉ~!!」


 仕方ないな。

 こうなったら、奏と話してた作戦を彼らに承諾無しの強硬手段でいくしかない。

 

「とりあえず、一旦戻って何とかしよう」


 ここで話していても迷惑になるだけだ。

 そう思っていると、扉の前で複数の制服を着た男子生徒が扉の前で二人を覗き見ている。

 ナンパするか否か迷っている所だろう。

 

「僕の友達に何かよう?」


 真っ先に彼らの背後に向かい、爽やかな声の中に圧を込めてそう言い放つ。

 男達は彼を見ると、そそくさと自分のいたであろう部屋に戻っていった。

 こういう所は男らしいのに、どうして彼女の事になるとあぁなるのか不思議でならなかった。

 あの光景を見せれば、間違いなく小倉さんは惚れること間違いなしだ。

 まぁ、それが出来ないのが彼らしいと言えばらしいのだが。

 他の人や彼女が見ていない所ではこういうことができるが、彼女の前になるとヘタレになるのだ。

 

「全く、けしからん」


 お前、クラスの男子にそう思われてるからな。

 彼はモテるので、彼女をとっかえひっかえという悪評が男子の間で広まっている。

 それは単に部活の先輩や同級生にいいように使われているだけだ。

 彼が来るとなれば他校との合コンだって余裕で出来るらしい、羨ましい。

 中に入ると、女子二人で楽しそうに歌っていた。

 

「お、帰ってきた」


 歌を歌い終えると奏がこちらに気づき、そう言った。

 小倉さんは一瞬こちらを見たが、晴斗と目が合うと奏の方を向いていた。


「さて、それじゃ、次は~」


 そう言って彼女は僕の手を握る。

 選択した曲は奏のお気に入りのアニメソングだ。

 

「それじゃ、いっくよ~!!」


 そう言うと、僕と彼女は歌い始める。 

 もう何度彼女に付き合わされ歌ったかわからない曲だ。

 歌詞もテンポも何度も彼女と練習したので嫌でも体が覚えている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る