君はいったい?

カンツェラー

第1話 いつもと違う通学路

これは、大学2年生の菅原勉(カンバラツトム)が初夏の頃に、

大学への通学途中に体験したにわかには信じられないひとときの記憶。


今日はいつもよりだいぶ早く家を出たな。

大学に着いたらカフェに直行して、予習でもしておくか。

「にしても今日は暑いな、5月ってこんな暑かったか」

ん?こんな道あったか。

「ほっそ、でも通れなくなさそうだな。見た感じ、駅までの方向に延びてるみたいだし、行ってみるか」


道は徐々に大きくなり、人一人分が二人分になった。

道の左右は高層ビルに挟まれているような道だ。

おかげで薄暗いが、だんだんと街頭の光がこの道に前から差し込む。

「もうすぐで道を抜けるか」

でもこんな朝の10時過ぎにここまで薄暗いもんか?

さっき小道に入るまでなんて、街頭の光なんて全く必要のない明るさだったぞ。

細道を抜け出す最後の一息が、意外と長い。

「まだか?」

そしてようやく小道を抜けた瞬間、勉は目にしたその光景に息をのんだ。


そこは、夜の中華街。ガヤガヤとした人混みと賑やかな屋台。人が多く行き交う混雑した道には、原付バイクがいい速度を出して走っている。

「ん?ここってどこ?」

勉は全く今の状況が掴めない。

一旦元来た道を戻るのが最善だと思い、振り返ろうとしたその時、

20年ほどの人生で今まで見たことのない、可愛い女性が目の前を横切った。

髪は黒髪で長く艶やかだ。シャンプーがほのかに香る。

見惚れた勉に気づいた彼女は一度だけこちらを振り返りウィンクした。

そしてまた真っ直ぐに歩き出した。

「声、かけちゃおうかな。あと、ここがどういうところか聞いてみよう」

彼女の早歩きは、追いつけそうで意外に追いつけない。


彼女の進行方向には、中国らしい集合住宅があった。

そして、その中へと消えた。

「さっきのウィンクには、意味がある笑」

勉は諦めずにその建物のゲートを潜り、中へと入った。

麻雀に勤しむ親父たちを横目に直進する彼女。

真っ直ぐ進んだ先に10段ほどの階段があり、その先にドアがあった。

「そこが目的地?」

彼女が中に入った。

「んー、インターホン鳴らすか...」

ドア周辺をくまなく探したが、どうしてもインターホンが見つからない。

ノックを三度にわたってしたが、応答がない。

ドアノブを回した。

「回った、あ、開いた」

流石にこれはいきすぎかと内心思いつつも好奇心に負けた。


「ここは図書館、なのか..?」

薄暗くも、見えない訳ではない本棚ばかり並ぶ道をゆっくりと進む。

少しずつ歩く速さが増す。

「えっ!」

ずっと続いた本棚道を抜けると、そこに広がった光景は、

ローマのコロッセウムのような広大な空間だった。

「あんな集合住宅の一室にこんなことって」

「こんなことって?」

「!!!」

後ろから若い女の声がした!

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