常連にならなくてもできる! バーよもやま話

筋肉痛隊長

Intro(ある暑い日の話)

 残暑の候、いかがお過ごしですわ?

 要町は今日も暑くて、夕方になっても蝉がうるさいですの。


 要町というのは池袋まで歩けるのに住宅が多くて、本来割と静かな町ですわ。有楽町線に乗って有楽町で降りれば、丸の内もすぐそこで便利ですの。


 そんな素敵な要町にある小さな雑居ビル。地下への降り口に『BAR メインクーン』の看板が立っているのは、要町民なら誰でも知っていることですわね。


 そこはカウンターだけの小さなバー。

 階段を降りた扉の前で、半袖シャツにロングパンツの、涼しげで気品溢れる女の子が首を傾げておりますわ。


 ……まぁ、わたくしですけれども。わたくし今、少々困っておりますの。



「『open』中なのに扉が開かないとは、どういうことですの~?」


「ばばぁ~んっ!!」


「ひゃぁぁあぁ……ちょっと! 脅かさないでくださいまし、ナツさん!」



 背後からお尻をわしづかみにされて、はしたない声が出てしまいましたわ!

 この不作法者、いえポニテ赤毛の女の子は、ナツさん。このバーの店長ですの。Tシャツにデニムとずいぶんラフな格好ですわね。



「いやぁ。早い時間から外で待ってるお客さんがいると思ったら、お蝶さんだったから、つい」


「ついじゃありませんわ、ついじゃ。お尻触るのもやめてくださいます!? 男性ならちょん切って握りつぶしてましてよ!」


「そこにいいお尻があったから、つい。まぁ入ってよ」


「入りますわよ、そりゃ。早くから開いてるのが取り柄のバーですもの。今日は遅かったですわね?」


「銭湯行ってたの、この時間は女湯空いてるからね。どうせお蝶さんくらいしか来ないし」


「わたくしだってお客様ですわ! 大体、『吉野風花よしのふうか』がどうして『お蝶さん』になりますの!?」


「だってお蝶さんって感じじゃん、縦ロールだし」


「ばっバカにしてますの、この高貴な髪型を!?」


「まぁまぁ、女手ひとつでやってるバーだから。ささ、カウンターにどうぞ。何飲む?」


「……まったく、カウンターしかないじゃありませんの。カルヴァドスのソーダ割をいただきますわ」

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