私の愛した光

三郎

第1話:私は普通ではない

 LGBT。性的少数者。同性愛者などの、異性愛者ではない人たち。日本ではGLやBLという文化が栄えているから、彼らに対して寛容だと言う人がたまにいる。そんなの嘘だ。本当だったら「お前ホモかよ」なんて笑い声が教室で飛び交ったり、両親がLGBTという言葉を聞いただけで顔を顰めたりしないはずだ。


月華つきかはこんな風になっちゃ駄目よ」


 母は言う。こんな風とは、何を指しているのだろう。トランスジェンダー? 同性愛者? バイセクシャル? それとも、それ以外? ——きっと、母にとってはどれも同じLGBTという普通ではない人なのだろう。


「聞いてた? 月華」


「ん……何? ごめん。考えごとしてた。最近、部活の後輩との関係で悩んでてさぁ」


 聞こえなかったふりをして話題を逸らす。昔、母に聞いたことがある。『王子様になれば、お姫様と結婚できるの?』と。母言った『女の子はお姫様にはなれるけど、王子様になれないのよ』と。私は続けた『お姫様はお姫様と結婚出来るの?』と。母は言った『お姫様は王子様と結婚するのよ』と。嫌だ、お姫様と結婚したい。そう駄々をこねる私を母は叱った。『そんなこと言うと変な子だと思われるからやめなさい』と。きっと母はあの日から、私を普通に育てようと必死になっている。だからこうやって、LGBTのニュースを見るたびに釘を刺してくるのだろう。


『LGBTの人達も、我々と何も変わらないですよね』


 テレビの中でコメンテーターが言う。早く権利が認められると良いですねと他人事のように言って、次のニュースに入る。適当なこと言いやがって。何がLGBTの人達だ。LもGもBもTも、それぞれ違う問題を抱えてる。まとめて語られるべきではないと、私は思う。だからトランスジェンダーと同性愛者をイコールで結びつける人が後を絶たないんだ。

 そう思っていた私も、無意識のうちに友人達が性的少数者ではないと決めつけていたのだが、それに気づけたのは大人になってからだった。中学生の私は、一人で悩みを抱え込んでいた。一人の女の子に対する恋心を必死に隠して生きていた。バレたら狩られると思ったから。普通のフリをして生きていた。そして、堂々と性的少数者であることをカミングアウトして生きる人達に嫉妬していた。私は隠さないと生きていけないのにと。

 カミングアウトをしないと勝手に異性愛者だと決めつけられる。そんな世の中に苛立っていた私もまた、決めつけていた。私が恋した女の子は、身も心も女の子なのだと。

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