第27話 俺たちが茨木 愛宕をより知るまで
「それってどういう意味ですか?」
「えーと私が付き合えない理由かな」
「その人とですか?」
「ちがうちがう。私のことだよ。私は付き合っても上手くいける気がしないの」
「それはどうしてなんですか?」
「ちょっとそれは恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけど……」
「教えてください」
文殊は机を挟んで向こうにいる茨木さんにドンッと迫る。
確かに俺がずっと気になっていたことだ。いや、おそらく俺だけじゃない。この場にいる全員が気になっていたことだろう。
「俺も知りたいです」
「ええーそんな見ず知らずの私の事でそんな熱くならないでよ」
「うちは見ず知らずじゃないでしょ?」
「まあそうだけど。わかった言うから」
そして茨木さんは「コホン」と咳払いをする。
「まだ梨花にも言ったことがないんだけど……」
「私は……」
俺も自分の鼓動が早く高鳴っているように感じた。
今から、一切検討がつかなかった渡辺さんが振られた答えを聞ける。
「うん」
「私はね。そのーちょっとダメな子が好きなの」
「???」
「といいますと?」
あまり意味がわからなかったので問い返す。
本当に意味がわからなかったから。
「ダメな男の子っているじゃん。ドジっちゃったりとかそういうのが多い子。私はそういう子がむちゃくちゃ好きなの。愛おしいっていうかなんていうか。これ誰にも言ってなかったんだけどね」
「へえー」
みんな他人事のような反応をする。
あれほど聞きたがっていた答えがまさかすぎて全員なんて返せばいいかよく分かっていない。
「そ、そうだったんだー」
「ちょっと梨花。引かないでよ」
「ヒイテナイヨビックリシタダケデ」
「もうだから言わなかったの!」
「じゃあ、前言ってた。物の貸し借りの時が1番ドキドキしたって言ってたのは?」
「私のもの1日に2回借りたんだけど、その2つとも返さず持ち帰ったりとか」
……絶句。
いや、流石に俺がそんなことされたら絶対嫌だけどな。物返さない人とか特に嫌だわ。しかも、1日に2個ってどうなってんだよ一体。
ってかなんでそれで好感度上がってるの。普通縁切るレベルだよそれ。
「じゃ、じゃあ水族館デート楽しみって言ってたのは?」
「デートとは別に言ってなかったと思うけど、そりゃ1日も一緒に入れるんだよ。何するかわかんないじゃん? もしかしたら間違えて水槽の中に入っちゃったりとか」
「そんなことはしないでしょさすがに!」
いや、何を期待しているんだこの人は。
想像以上のやばさだった。どっちも。
もはや1番お似合いだろこの2人。
「あのーさっきはあまり茨木さんの事を知らないのにお2人がお似合いだとか言って失礼しました。でも、改めて言わせてください。すっごくお似合いですよ2人とも」
「えぇえー。改めて言うの!?」
「私もすごくお似合いだと思います」
「
もしかしたら今未来を視れば結末は変わっているんじゃなかろうか。
これほどまでに匂わせをしといて、占い中にもよく分からないミスをした渡辺さんがデート当日、大層なミスを犯すに決まっている。
茨木さんと目が合った瞬間俺は意識が吸い込まれる。
…………
なん……だと。
結末が変わっていない。視えた景色はほんの数分前渡辺さんで見たものと全く一緒だった。
何故だ、なぜなんだ。
あ。
ここで1つ俺は答えが分かってしまった。
そう間違いなく俺が占いをし、俺たちがアドバイスをしたことだ。
こう考えると全ての辻褄があい、疑問が解消される。
1番不可解であった今の剛くんという言葉。
それは恐らく、渡辺さんがデートでとんでもない失敗をするのを期待している茨木さんに反して、渡辺さんは完璧にこなしてしまったのだろう。俺たちのアドバイスによって。
いや、でも待てよ。占いでは普段通りが1番という占い結果が出たはずなのにどうして普段通りじゃないんだ。
もしかしてあの人俺らのアドバイス忘れたんじゃないのか。
ただ、告白はすることだけを覚えて。
「ってかもう5時30分じゃん。教室に荷物置いてるし、一応教室に戻っといた方が良い気がするから私は先に帰るね」
「みんなもこの事を口外しないでね絶対に。あと梨花。もし剛くんって子に会っても絶対に言わないでねこんなこと、本当に。本当にね!」
「うん。わかったー」
「適当な返事しないでよ。絶対だからね」
「わかってるって」
「じゃあね、皆も」
そのまま茨木さんは教室を出ていってしまった。
ここで皆さんに悲報を説明しなければ。
「行っちゃったね」
「まさかあーこがあんなんだったとは。あれがキヨアキくんの言ってたあーこと話さなければ2人の恋路は成功しないってこと?」
「違う。恐らく俺の見立てでは2人は付き合えない」
「えっどうして?」
「俺らが占いをしただろ。ということはつまり?」
全員がその言葉を聞いた途端、ある程度は察したようで。
「占いをしたせいで、渡辺さんは失敗をしたってことかい?」
「ホントだ。じゃあ、どうするの? このままじゃ2人は良くないまんまになっちゃうよ」
「じゃあ、俺たちが残されたすることはただ一つだな」
「何するの?」
「金曜日。俺らが盛大に邪魔をしよう」
「へ?」
自分でも何を言っているかよく分かっていないが、このまま失敗してしまうくらいならば俺たちがバレないように何とか渡辺さんをドジらせる。
多分これしか方法はない。
「渡辺さんが失敗するように私達も当日水族館に行くの?」
失敗する(告白は成功させる) なんかよく分からなくなるな。
「まあ、そうするしかないだろ」
「でも、場所とか時間わかんないよ」
「場所ならうちは知ってるよ。多分品川水族館って言ってた気がする。時間は金曜日午前授業だからその後だと思うけど。聞いとこうか?」
「まあ、俺らが来るってバレないように出来るなら頼みたい」
「おっけー」
「一応俺らももう帰るか。そろそろいい時間だしな」
「そうだね。あ、私明日学校帰ったらそのままバイトだからクラブ行けない」
「うちも別のバイトがあるの」
「僕も」
芦屋は周りをキョロキョロ見渡しながら、流れに乗じる。
「おい、お前はバイトしてねえだろ」
「明日はずっと前から予約していて心待ちにしていたラーメン屋にようやくいけるんだ」
「そうかよ。じゃあ行ってこい」
俺だってラーメンが好きだからな。
芦屋の気持ちは凄くわかる。
「明日はじゃあ俺と花山さんだけどどうする?」
「私はしたいよ。だってあれができるじゃん」
「え? 華泉ちゃんあれって何?」
「ふふ。秘密」
口に人差し指を当てて可愛らしい笑顔で言う。
破壊力が半端じゃねえ。
「じゃあ、おつかれ」
こうして俺たちの一日目のクラブは無事終了……はしなかったが、とりあえず終えることは出来た。
これからの卜占部がどうなるのかそれはまだ俺には分からないが、ただ楽しい日常が待っている。そんな予感だけはしている。
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