第22話 俺たちの占いが始まるまで
「では、そちらの席におかけください」
俺は先程まで梨花が座っていた席に座るよう指示する。
「名前をお伺いしても宜しいですか?」
「2年3組の
「そうですけど、どこで知ったんですか?」
「階段のとこに張り紙貼ってあったじゃないすか。それ友達と見てたら一条先生に声掛けられて悩み事あるなら行ってみろって言われて来たんすけど」
文殊の作ってくれていた(知らぬ間に)ポスターが集客効果を持っていたようだ。
先生が1枚噛んでくれているおかげでもあるが。
「私のやつ役にたったんだ」
「みたいだね」
花山さんが文殊に笑顔で話す。
それを見た渡辺さんは椅子を大きくずらして、思わず立ち上がる。
「え!?
「どうも。花山です」
花山さんは手を前に置き礼儀正しくペコっと礼をする。
「俺マジで花山 華泉のファンで色フラの頃から知ってて」
「ホントですか? そんな前からのファンだなんて私も会えて嬉しいです」
「握手してもらってもいいですか?」
「はい、もちろん」
なんかアイドルみたいな感じになっているが、これが花山 華泉の知名度や凄さというやつなのだろう。
身近すぎて忘れていたが。
それよりも聞き馴染みのない単語が出てきたので静かに文殊に聞く。
「色フラって何?」
「色づくフラミンゴっていうドラマだよ。華泉ちゃんの初めてのレギュラー作品なんじゃないかな。私もこの時にこんな可愛い子いるんだって思って知ったし」
ドラマのタイトルなのか。そのなんとかフラミンゴ。
どういうドラマなのか気になるな。まず、ジャンルはなんだろう。
そんなことはどうでもいいのだが。
「花山さんって本当に凄い人だったんだね」
俺以外にも時代に追いつけていないやつがいた。
「お前もあんまり詳しくない感じか?」
「名前を聞いたことがあるくらいだったね」
「はあー。男子全然ダメ。大丈夫? 猿人?」
前とちょっとちげえじゃねえか。
「2人とももっと華泉ちゃんについて知った方がいいよ。次までに色フラ見て勉強ね」
「ちょっと文殊ちゃん。恥ずかしいからやめて」
さっきまで渡辺さんと話していた花山さんがこちらへ来ていた。
花山さんは頬を赤く染めながら、ぷりぷりとした声を出して文殊の肩をトントンと叩く。
うーむ。あざとかわいい。
皆がはしゃいでる中、ただ1人なにか深く考えている様子の人が気になった。
「どうしたんだ梨花。何かあったのか?」
「うーん。ちょっと考え中」
「おう、そうか」
何か考え中らしい。
梨花があんなに真剣に考えている姿は初めてみた。
まあ、それほど気にする必要もないか。
とにかく、占いを始めなければ。
「あの、渡辺さん。それでどうしてここに?」
「そうだ、忘れてた。後輩に……しかも花山 華泉がいる場ですっげえ言い難いんだけど、俺明後日好きな人と水族館に行くことになったんだけどそれのアドバイス貰えないかなって。上手くいく自信がなくて」
さっき花山さんに俺たちが後輩であることを聞いたからなのか渡辺さんがタメ口で話してくれるようになった。こちらも渡辺さんがタメ口できてくれる方が喋りやすい。
そして、なんて良い相談なんだろうか。
尊すぎる。俺より1つ年上のはずなのに何故か俺にも母性が目覚めそうだ。
皆幸せそうなポワポワとした空気が流れる。
「ちょっと、誰か何とか言ってくれよ」
「おっもいだしたーー」
渡辺さんの不安そうな声に反応したのはこの場の空気をぶち壊す梨花だった。
「剛くん。君が剛くんか。うんうん」
にっこにこの梨花が何度も渡辺さんの名前を呼ぶ。
え、知り合いなの? そんな雰囲気なかったけど。
「え、誰? 俺の知り合いにこんな金髪のギャルみたいな人はいないんだが」
知り合いじゃなかったあああ。
「うちは
「茨木さんのことを知ってるのか?」
「うちとあーこ(愛宕)は長い付き合いだし」
「そうなのか。でも、なんで君が俺を知っていることになるんだ?」
「そりゃあ、まあちょっとそれは言えないけど
……」
そんな意味ありげなふうに言ったら誰だってわかってしまう。
その愛宕さんも多分渡辺さんのことを梨花に話していたのだろう。
だから、梨花は直接見た事がない渡辺さんの名前を聞いてもパッと心当たりが思いつかなかった。そしてデートの話になってようやく思い出したのだろう。
「まあ、よく分からないけど初めましてなんだよね。よろしく天元さん」
わかってないのかこの人。結構鈍感じゃないか!?
「梨花でいいよ」
「よろしく、梨花」
「他の人は?」
「俺が占いをする安倍です。こいつが芦屋でそいつが桜井」
「花山です(2回目)」
「へえー。よろしく」
「じゃあ、1度その話詳しく聞かせてもらいましょうか」
俺たちの占いがこれから始まる。
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