第10話 俺が世間の狭さを知るまで

「今からラーメン作るんでちょっとまって貰っていいですか?」


「私たちはいいけど、キヨは本当に作れるの?」


「まぁ、多分。でも、一応さっき作ってみたけど親父の作った方が美味いと思いますけど」


「私はキヨくんが作るラーメン食べてみたいよ」


 うひょ、まじですかなどとテンションが上がって言いかけたが何とかそれを寸止めする。


「ねえ、さっき色々聞いてたから文殊みことがキヨアキくん?と仲が良いのは分かるんだけど、何で華泉けいは面識あるの?」


 文殊が俺のことを天元てんもとさんに紹介してくれていたのだろうか?

 まあ、確かに何でこんな奴が女優なんかと面識あるんだよって話だな。


「あぁ、それはね。さっき占いしてもらった時に文殊ちゃんに出会ったって言ったじゃん。その時占いをしてくれたのもキヨくんなの」


「じゃあ、キヨアキくんは占いも出来るんだ。すごー。うちチョー占い好きなんだけどさ、今度占ってよ」


「何占って欲しいの?」


「金運」


「まあ、多分できますよ」


「まじで! チョー嬉しんだけど」


「じゃあ、私たち座っとくね」


 ありがとうと言い、3人の姿が見えなくなった。

 責任感と期待を背負い、精一杯頑張らせていただくとする。



 とりあえず完成はした。

 見た目の面では、先程よりはかなりの上達を見せている。

 3人分を急いで作ったため、少し味の面では不安があるが。


「文殊ちょっと来てくれ」


「はーい」


 座敷に座っている文殊を呼び、ラーメンを一緒に持っていくよう指示する。


「これがキヨの作ったラーメン何だよね?全然昔と変わってないじゃん」


「まあ、見た目はな。味はかなり不安だが」


「私からしたらキヨがラーメンを作ってくれたってことだけですっごく嬉しいけどな」


「……」


「どうしたの?感動して泣いちゃった?」


「一言余計だっつの。でも、ありがとう」


「どういたしまして。じゃあ、これ持っていこっか」


「そうだな」


 座敷で待っている2人にラーメンを運ぶ。

 2人に「おいしそう」や「すごーい」などと言われ、俺としてもテンションが上がる。


 ガラガラ


 そうこうしているうちに芦屋が来た。


「すまない。遅れてしまって」


「全然大丈夫だ。気にするな」


「翔満くん、久しぶり」


「櫻井さんこんにちは」


「じゃあ、俺は準備するからそこら辺に座っといてくれ」


「分かった」


 もう一度厨房に戻り、準備に取り掛かろうとすると厨房の裏のドアが開いて親父が帰ってきた。


「今までどこ行ってたんだよ」


「ちょっとした散歩だ。それより作ってみてどうだ?」


「まあまあだよ」


 実際に今作ってわかったのは全く親父には及ばないということだ。

 このままだったら芦屋にもガッカリさせかねない。


「それより、俺のラーメンを清明の友達にも食べてもらうってことを伝えたのか?」


「いや、まだ伝えてねえわ」


「じゃあ、先にそれを伝えてこい。俺が先に作ってやる」


 そう言われた俺はカウンターに座っている芦屋の方へ向かう。


「芦屋、ラーメンのことなんだけど俺の親父が作るラーメンと俺のを食べ比べてくれないか?」


「あぁ、もちろんいいとも」


「そうか、それなら良かった。それで質問なんだけど俺が作るラーメンには何かが入っているって言ってたがなんだと思う?ちょっと俺思い出せなくて」


「流石に僕も分からないよ。でも、君がラーメンを作り出してから変わったと言うよりも君が作るラーメンが少ししてから変わったって感じがしたね。もちろん君のラーメンを作る腕が上がったのもあるだろうが。何かあったんじゃないのかい?君がその何かを入れるようになったきっかけが」


 きっかけ……きっかけか。

 いや、もしかしたら


「なあ、お前が店に来てた日って何曜日が多かったとかあるか?」


「基本土曜日の昼に来てたね。今でも、来るとしたら土曜日の昼が多いよ」


「それだよ。それ」


 思い出した。

 俺は土曜日の時だけ、あの人が来るからという理由で入れていたんだあれを。


「よーし、できたぞー」


 そう言って親父は俺と芦屋の元へとラーメンと小鉢を持ってきた。


「小鉢に入れて、食べてくれ。一応この後清明もラーメンを作ってくれるからな。君達も清明の友達だろ。俺の作ったラーメンを食べてみないか?」


 サラッと審査員を増やしてんじゃねえ。

 こっちだって勝てる気がしねえんだよ。


「私も食べてみたいですー」


「あれ、君は華泉ちゃんか?」


 えっ親父と花山さんは知り合いなのか?

 それともファンだったり?

 まあ、俺の家にはテレビがないから俺はあまり知らなかった訳だが。

 親父もそんな知ってるとは思えない。


「はい、そうですけど」


「そうか、前写真で花山に見せてもらった時よりも大きくなってて分からなかったよ」


「お父さんと知り合いなんですか?」


「ああ、昔からちょっとな」


「なるほど。だからか」


 何かがわかったかのように手をポンッと叩く。

 可愛い。

 それに「どうしたの?」と文殊が尋ねる。


「前占ってもらった日あるじゃない。その日、ラーメン屋さんの前を通ったら、お父さんが私にすごーくびっくりした感じで【1度ここのお店で占いをして貰ってきてくれないか】って言われて」


「あぁー清明が占いをしてたときか。そりゃ、あいつも俺がラーメン屋を辞めて占いを始めたって思ってビビっちまったのかな。それにしても娘に行かすんじゃなくて俺に直接会いに来ればいいっつうのに」


「ホントですね」


「保名さん、華泉ちゃんと知り合いだったんだ……」


 知られざる関係が明らかになり、文殊は空いた口が塞がっていなかった。

 花山さんと天元さんはラーメンを小鉢に入れ、親父が作ったラーメンを食べ始める。


「うーん、美味しい」


 親父がドヤ顔MAXでこっちを見てくる。

 うぜえ。

 芦屋は黙ってただただ味わいながら食べているようだ。

 まあいい。俺はあれを使い、正々堂々親父と勝負してやる。


「じゃあ、次は俺が作るな」


 さあ、ここからは俺の番だ。
















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