女になってしまった友人と俺との物語。

清水裕

第1話 4月・出会い

「あの、先程からずっとそちらにいますけど、どなたかを待っているのですか?」

「ああいや、ちょっと友達を待――って……」


 四月、一年前に病気で入院してしまった幼馴染みの友人(男)が久しぶりに遊ぼうぜとLINEしてきた。

 それに対して俺は元気になったのかと思いながらも、久しぶりだから遊ぼうと返事して待ち合わせ場所の駅前で待っていたけど、待てど暮らせどあいつは来ない。

 何度かLINEを送ったのに既読スルーをされ続けて、諦めて帰るかと思っていると女性が話しかけてきた。

 誰だと振り返った瞬間、俺はその女性に一目惚れしてしまった。


 だって当たり前だろ? なにせ、お淑やかな女性が好きの俺の前に大和撫子を体現した女性が立っていたのだから。

 黒くサラサラした流れるような腰下ほどある長い髪、俺よりも頭一つ低い身長、誰が見ても美人と思える顔立ち、パッチリとした目から覗く色は黒に近い茶色、プニッとした赤い唇、ワンピース越しの体つきはつるぺったんだけど……とっても和装が似合いそうだ! 特に着物とか!

 だからだろう、理想の女性を見た俺は迷わず手を握ってしまっていた。


「す、好きです! つきあってください!!」

「へ……?」

「あ、いや、その、えっと、一目惚れで……じゃなくて、そうだけど、ああ……!」


 手を握られたまま女性はポカンとした表情を浮かべる。

 その顔を見た瞬間に俺は自分のしでかしたことに気づいて手を離し、頭を抱えた。

 というか、出会った瞬間に告白するってどこのバカだよ! 俺だよ!!

 そんな頭を抱える俺を見ているのか、女性はその場から離れる様子はない。……それどころか。


「――ぷっ」

「ぷ?」

「ぷっ、あははははははっ! お前なあ、なんで出会ったその場で告白なんかする? バカじゃねーのか?」

「は、え? え?」


 さっきまでお淑やかな印象だった女性は、俺を見ながら腹から笑っていた。

 その瞬間、さっきまでの大和撫子なイメージがガラガラと崩れ去り……固まる俺に一頻り笑い終えた女性は口を開く。


「はー、笑った笑った。てか、気づけよなー。……いや、普通気づかねーか」

「え? え? だ、誰だ?」

「誰って、ボクだよボク。遊ぼうって誘っただろ?」

「……え?」


 固まる俺に女性はスマホを見せる。

 そこには俺と友人のLINEの画面が表示されていた。

 え、どういうことだ? もしかして、この女性が友人を騙ったとか?

 そんな俺の視線で何を考えているかを理解しているのか女性は口を開く。


「違う違う。ボク本人だよ。ま、簡単に言うとさ……病気は治ったけど、代わりに女の子になったわけ。どう、可愛いでしょ?」

「…………は、はいぃ?」


 友人を名乗った女性を前に、俺は間抜けな声を上げた。


 ……これは、俺と女になってしまった友人との物語。

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