取り戻した記憶~あの日の彼女の想い~

 待って待って!

 ねぇっ、待ってってばっ!

 はぁっ、はぁっ、間に合ったー・・・・向かい風が強くて、歩いても歩いても全然進まないんだもん。もう追いつけないかと思ったよ。

 それにしても、キミ、歩くの早かったんだねぇ。

 いつもは、私に合わせてゆっくり歩いてくれてたんだ?

 ・・・・優しいね。

 やっぱりキミ、モテるでしょ?

 ふふっ、照れ屋さん♪

 ほら。

 また、耳まで赤くなっちゃってるよ?

 でも、たまにはキミの方から誘って欲しいなぁ?

 いっつも先に帰っちゃうよね?

 気づけばもう、教室から居なくなっちゃってたり。

 私、もしかしてキミ避けられてる?

 え?ほんとに?ほんとに、避けてない?

 そっか。

 ・・・・キミがそこまで言うなら、信じてあげる。

 でも、たまには帰り、キミから誘ってね?

 早速明日とかでも、全然いいよ?

 ・・・・ってもう、ほんとに照れ屋さんだねぇ?

 また、赤くなっちゃってるし。


 はい、これ。

 借りてたハンカチ。

 ありがと。

 ちゃんと洗って、アイロン掛けたよ。

 あーっ!

 ちょっと待って。

 ここ、見て?

 ほら、ここ。

 ・・・・ふふっ、驚いた?

 私ね、刺繍が得意なの。

 おばあちゃんに教えてもらったんだ。

 可愛いでしょ、四つ葉のクローバーの刺繍。

 キミから貰った四つ葉のクローバーを見ながら、刺繍してみたの。

 気に入って貰えた・・・・かな?

 勝手に刺繍なんかしちゃって、迷惑だった?

 ほんと?喜んでくれてる?

 ふふっ、嬉しい。

 いやいや、そんなに広げても、刺繍したのここだけだから。

 え~?

 そんなにいっぱい刺繍なんてしちゃったら、ハンカチとしての機能が落ちると思うけど?

 畳んでポケットにしまう時にも、ゴワゴワするだろうし。

 ほら、もう畳んでしまわないと。

 今日は風が強いから、飛ばされちゃう・・・・


 あっ・・・・


 だめっ!危ないっ!!



 キキーッ!



 いったぁ・・・・あ、うん・・・・大丈夫。

 でも、重い・・・・早く、どいて・・・・てか近い、近いってばっ!

 ふぅ・・・・危なかった。

 キミは、どこも怪我ない?大丈夫?

 ・・・・良かった。

 私?私は大丈夫だよ?

 キミの全体重を受け止めて、尻餅ついて倒れただけだし。

 それにしてもっ!

 もうっ、危ないじゃないっ、いきなり道路に飛び出したりしたらっ!

 私が引っ張らなかったら、間違いなくあの車に轢かれてたよっ?!


 あっ・・・・

 そっか。

 そう、だった。

 あの時は、四つ葉のクローバーを追いかけて行ったんだったね、キミ。

 せっかく私にくれたのに、私がちゃんと持ってなかったから。

 風に、飛ばされちゃって。

 それでキミは、飛んでいった四葉のクローバーを追いかけて道路に飛び出して、トラックに・・・・

 すごい音が、して。

 キミの体が、すごい勢いではね飛ばされて。

 血だらけのキミは、全然動かなくて、私・・・・私・・・・

 キミがこのまま死んじゃったらどうしようって・・・・

 私がちゃんと、止めてたら。

 私があの四葉のクローバーを追いかけてたら、って。

 だって、四葉のクローバーが風に飛ばされちゃったのは、私のせいなのに。

 なのに、私は怪我ひとつなくて。

 キミは、血だらけで。

 私の、せいで。

 だから、私・・・・


 うん。

 思い出した。

 キミ、だったんだね。

 いつも、私のために、四つ葉のクローバーを探してくれていたのは。

 それと、私の・・・・


 ううん、なんでもない。

 良かった、キミが無事で。

 良かった。

 今度はちゃんと、キミを止めることができて。

 ねぇ・・・・確かめても、いい?

 キミが無事で今ここに生きていること。

 ちゃんと、確かめたい。

 だから。

 キミのこと、ギュってしても、いい?


 キャッ!


 ちがっ!

 逆、逆っ!

 私がキミをギュってしようと・・・・

 ・・・・えっ?

 ずっと?

 私を?

 ギュって、したかった・・・・の?

 そんな前からっ?!

 もしかして、キミの初恋の人って・・・・


 うん。

 私も。

 私もね。

 きっと、ずっと。

 ・・・・キミのことが・・・・


 温かい。

 うん。

 ちゃんと生きてる。

 キミはちゃんと生きて、ここにいてくれてる。

 良かった。

 本当に、良かった・・・・

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