第14話 初湯の記憶

考えてみればしたる不思議はないのかも知れない。

母親の胎内は36~38℃の恒温に保たれている。

冷気を求めてデパートを人が賑やかす時代、夏場の病院に冷房が普及してない事も多かったようだが30℃を超える事もそうそうになかった。


濡れ風船を擦るような鳴動の後に凍えるように寒く感じた事も、その後の産湯を熱湯のように感じた事も、鼻を弄られて苦しかった事も、記憶の補完による捏造の産物かも知れない。


見えた物は何ひとつない、何かの研究によると赤と緑を最初に認識するようになるらしいが、私の記憶では明→赤→青→暗という一次元的な認識であった。


胎内で聞こえた音と言えば、貝殻を耳に宛てた時のような血流音とゴポゴポギュルギュルと言った腹虫音、母親の金切り声くらいだったように思う。


いずれにしても、前世や胎内記憶という物があるのならば、気絶でもしていない限り失念する事は不可能に思われるほど鮮烈であった。

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