第43話 ラブコメの波動

 応募してきた人数は意外と多い。

 起業が全国ニュースになったのも理由だろうか。まさかニュースになるとは思わなかったわ……。

 ただでさえ注目の的である男性Vtuberがまた何かした、というのが世間の認識らしいが、こっちからすれば注目の的であることなど知らないし、知っていたとしてもいつもと変わらず配信するだけである。

 

 再三言ってるが、俺は変わらん。お前らが変われ。

 

 というのがポリシーである。

 これ以上俺に成長の余地はない。進化はするけど。

 何が違うか簡単に説明すると、世間の認識とかは地道に経験値を取得してチマチマレベルアップを計る。

 だが、俺はレベルアップをせずともどんどん自力で進化していくような形だ。そしてその進化の形は自分次第。


「どうせ異世界転移みたいなもんだし、チートの一つや二つが欲しかったけど……男だったこと自体がチートみたいなもんか」

 

 望んでないけどな。

 だからといってTSは御免被る。

 まあ、バチバチの異世界に転生したところで小市民でビビリの俺が果敢に動けるか、と言われれば全力でNOなのでまだマシだと考えるしかない。今更だしな。


「応募一万人か……。コロン曰くこれでまだ少ない方らしいし」


 一回目だから様子見を図る人が多いらしく、初っ端から攻めたこの一万人は少ない方であるそうだ。世間からすれば言葉は悪いが生贄。大人など特に慎重に違いない。金銭面も重要だからな。

 新規企業で、なおかつVtuberという知名度の低い職業を応募してくれたこの一万人には感謝しかない。


 とは言え採用は二人。

 事務所メンバーからは採用は一任されてるし、分からんかったら勘で選べとのこと。適当すぎやしないか。



「あからさまに怪しい人は事前に弾いてくれたし、書類審査時点で残り五十人まで絞った。あとは面接か」


 就寝と配信の時間以外全てを消費して何とか選定した。次会以降は誰かに手伝ってもらおうと決心した。

 俺と近しい思考ということで、開発者に手伝ってもらうのが一番だな。無警戒でいると襲われるからそこは注意だが。

 仲嶺に殺されちゃうから(俺が)やめてほしい。


「面接、するかぁ……」


 というわけで一週間後に五十人の面接を行うことにした。



☆☆☆


「……ちゃんと寝てますか?」


「一応な」


 仲嶺がお茶を淹れ、俺の顔色を見て心配する。

 他の雑務とかを仲嶺だとか神連だとかに委任している以上、上司の俺が情けない行動を取るのは下に示しがつかない。

 あ、ここで言う下はてぃんてぃんな?


「これから面接ですけど仮眠を取っては? 午後からですし、まだ4時間ほどありますから」


 徹夜でやってたけど、もう8時過ぎだったのか。

 確かにこれは寝ないと体に不調をきたしてしまう。働き詰めも結構だが、倒れられるのが一番困るもんな。


「んー、寝たいけどエナドリのせいで眠くないんだよなぁ……。横になっても寝れなそう」


 いつも元気な息子も徹夜とのせいでくたびれている。

 せめて心のてぃんてぃんだけは熱くそびえ立たせたいものだが、疲労が襲いかかってくるせいでそうもいかない。

 念願の仕事だけど、その内容がブラック企業も真っ青な生活スタイルなんよ。


 前述の通り疲労が激しいのも事実。

 無理にでも体を休める必要がある、と判断した俺はニヤリと意地の悪い笑みとともに仲嶺に言った。


「あー、仲嶺が膝枕してくれたら寝れるかもなー」


「──良いですよ」


 冗談めかして言ったのだが、当の仲嶺を照れも慌てもせずに、にこりと微笑んで即答した。

 断られはしないだろうと思ったが、なんの反応も無しとは。

 少し驚いて茫然としていると、仲嶺が心なしか青筋を浮かべて続けた。


「起きた時に何か大切なものが奪われているかもしれませんが、それでも良ければ」


「え、なんか怒ってる?」


 仏頂面時代の仲嶺より表情が読めない。

 しかし、明らかに今の仲嶺は怖い。笑いながら怒っている。


「春樹様は本当に馬鹿なんですか? 女の前で寝ることがどれだけ不用心なことか……。私だから安心とか思ってるかもしれませんが、そんなに油断していると……お、犯しますからね!!」


 やはり最後は照れた。

 保護官という職務に就きながらもその言葉を発するということは、意味として重い。

 

「油断って言っても、俺がこんな提案すんのは仲嶺だけなんだがなぁ……。コロンはあらゆる意味で信頼はしても信用はしないし、開発者なんかもっと危ない。神連は前科あり。うん、多分、一番安心できんのは仲嶺だな」


「んなっ……そ、それは……いえ……ぐぬっ」


 仲嶺はかぁと顔を真っ赤にして、何かを話そうとしてやめた。最後に残った表情は、負けたと言わんばかりの悔しげな姿である。

 そして、チラチラこちらを見ながら桃色のツインテールを弄っている。


 その仕草を他でもないロリである仲嶺がすることによって可愛さの相乗効果を生み出す。


 ちなみに安心できるという意味に他意はない。

 ただ、信用と信頼、両方してるのは仲嶺だけだろう。そこに俺の恋心が介在しているかは……ご想像にお任せする。


 色恋沙汰に関係しているとは仲嶺も思っていないだろうから、純粋に照れている。怒っているか仏頂面がデフォの仲嶺だ。良い表情を見れたと満足した。


「まー、お前に色々言われて俺も危機感を養ってる最中なんだよ。でも、残念ながら仲嶺だけは警戒できない。こればっかりは諦めてくれると助かる」


「なんで春樹様はそう、勘違いさせるような言葉をチョイスするんですか……」


「あー、さが?」


「天然のドSじゃないですか」


 仲嶺は尚もぐぬぬ、という表情でため息を吐いた。

 俺がどうしようもないことに気づいたのだろう。いつものように諦める、という結論に行き着いたに違いない。

 そう、俺が仲嶺に警戒心を抱けないことは諦めてくれると助かる。


 ……合法ロリなんて見た目がアウトだろ、と思っていた俺もなかなか洗脳されてきたな。

 まあ、子どもっぽい部分に萌えているわけでなく、時折見せる大人の表情に胸を高鳴らせてるわけだからきっとセーフだ。

 あとは性格だな。申し分ない。

 俺が前の世界で仲嶺に会っていたら惚れていてもおかしくないほど人間ができている。性格がクズと名高い俺とは真逆である。


「ま、絶対に結婚しなきゃいけないって状況になったら、お前を選ぶくらいには好きだな」


「絶対わざとですよね?? 嘘か本当か……いえ、多分本当だからたちが悪い! 私も好きですけど!? どうすれば良いって言うんですか!!」


 最早逆ギレの域だった。

 ん? 何気にサラッと告白されてない? 


 鈍感系じゃないし、薄々勘づいてはいたけども。


 すると、仲嶺が口走った発言に気づきサァと顔を青くさせ言った。


「今のは……聴かなかったことには……」


「無理だねぇ」


「ですよね……」


「というか、ギャグ世界に生きてる俺なのに急にラブコメの波動が飛んできたな。茶化したらダメ?」


「ダメです」


「ですよね……」


 お互いにお手上げ状態だった。

 なんだこの状況。


 その場に立ちすくんだまま気まずい沈黙が流れる。

 俺が言ったことは嘘一つない心の声だが、却ってそれが仲嶺を刺激してしまったのが今回における事件(?)の理由だ。

 ようは、俺がいらんことを口走ったせいとも言えるが、このまま仲嶺の誤爆を誤爆としたままではいけないだろう。

 とは言っても、一番信用、信頼し、淡い恋心が無いわけでもない。振るのは惜しい。そう考えていた。


 だが、今俺は、俺たちは非常に忙しい。

 目的を叶えている中途駅に停まっている状態だ。そんな中色恋にかまけている暇が……あるにはあるけど! これから先、俺が人気になれば危険が増す。そうなれば、仲嶺ともし恋人関係にあった場合、嫉妬の対象になるのは仲嶺だ。

 ……いや、対象になっても全員ぶっ飛ばすだろ。


 

「あー、保留ってことで。まだやること多いし」


「まあ、そうですよね……」


「でも、答える時はおざなりじゃなくて、ちゃんと答えるから待っててくれ」


 このまま行くとオッケー以外あり得ないんですけどね!


「はい……!」


 仲嶺は不安もあるだろうが、俺の決意に感化されたのか満面の笑みで頷いた。

 それは純粋で子供っぽさもあったが、そんなこと関係なく俺は仲嶺の笑顔に魅了されてしまった。



 俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない俺はロリコンじゃない。

 



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