第41話 クイズゲーム配信 #癖に生きるモノ

 開発者と7時間ほど話した後に、俺は配信の準備を進めるため、今日のネタを厳選していた。

 

「しまった。話しすぎてネタを選ぶの忘れてた」


 いつもストックを何個か用意して、そこから選ぶというのが俺の配信スタイルである。咄嗟に思いつく奴はマジでバケモンよ。創意工夫に満点を与えたい。

 

 それにしても開発者との会話は盛り上がった。

 互いの性癖の話からてぃんてぃんへの愛について。好きな漫画とか小説だったり──これは大体オススメされた側だが──語り尽くせないようなことをずっと話していて楽しかった。

 

 途中俺が隙を晒してあわや熊撃退スプレーの出番だったが、指先を触らせて事無きを得た。しゃぶらせてはいないぞ。

 これで一応約束を果たしたことになるが、当の開発者は全然満足していないよう。なんだよ、このいつ犯されるかのチキンレースは。

 不本意だが俺のリスナーなら襲われないと分かった数日後にこれだよ。開発者はかなりの例外だと思うがな。ガチ勢って怖い。



 俺はをチラリと見てため息を吐きながらスマホの画面に目を落とした。


「今日はこのネタで行くかぁ。近々コラボする予定だし、いつもの配信で良いだろ。下僕に俺の学を再びアピールしてやるよ。けへへへ」



 ん? なにをするかって?


 そんなの決まってるだろうよ。



 クイズだよ、クイズ。


 まあ、ただのクイズをするわけないが。

 俺の捻くれ具合舐めんなよ。




☆☆☆


「やあ下僕ども俺だ。黒樹と聞くと漏れなく性欲が減衰してしまう。黒樹ハルだ」


ーー

『ついに自虐ぶっ込んできた』

『草』

『否定はしない。そして肯定はする』

『迂遠に言った意味よw』

『い つ も の』

ーー


 うるせえ、こうしてネタにでもしないと男としてのプライドが消え失せるんだよ。仕方ないだろ。

 肥大化したプライドと欲求はどこかで発散しないと化物に変異するんだからよぉ……この世界の奴らみたいに。


「ふんっ、まあ俺が外に出ても子どもには見せられない状況に陥ることか少なくなると考えれば得だな」


ーー

『存在が十八禁なんだから外に出んなよ』

『リアル猥褻物は大人しく家に引き籠もってもろて』

『リアル猥褻物は草』

『大概人にかける言葉ではないなwww』

『黒樹人じゃないし』

『あ、そうだったわ、忘れてたwww』

ーー


「はぁー? 誰が十八禁だてめぇら。てか、いい加減俺を人間扱いしやがれ。人のオス科だぞ俺は」


ーー

『黒樹黒樹科の間違いだわ』

『俺らと同じ種族って括りにしないで。穢れる』

ーー


「フルスロットルで罵倒すんな。嫌われてないのは分かってんだけど、恐ろしいのは俺を擁護するコメントがマジで一つもねぇのよ。何かしらの陰謀を感じるわ」


 コメント見返して思ったんだけど、ガチで俺を褒める言葉とか擁護するのが一つもない。罵倒オンリー。ただし炎上してないことから下僕どもの紛らわしいツンデレだと分かる。

 ツンの威力強すぎてデレを感じない仕組みやめて?


ーー

『擁護できるとこ……ある?』

『(あるわけ)ないです』

『黒樹を褒めたら終わりだとワイは思ってる』

ーー


「俺を褒めたら終わるゲームを本人が預かり知れぬところでやるのやめろよ。少しはあるだろ! 実績とかさ。……俺がやったことって、男だとバラして自分の性癖を晒しただけか……? あれ、実績って言えるようなもん、ある?」


ーー

『無いな』

『悲しい現実に気づいたか』

『ぶっちゃけお前は世間を荒らしただけであって、実績と言えるようなもんはないのよ。精々性犯罪率がちょっと減少した程度』

ーー


「性犯罪率の低下は大きいだろ。ってか、そんなことになってんの!? 俺関係あるわけ??」


 なにそれ初耳なんだけど。

 でも、これが本当ならすごくね? 救世主じゃん。


ーー

『いや。なんか、性犯罪企んで家に乗り込んだ瞬間、黒樹のこと思い出して萎えたんだと。住居侵入罪で逮捕されたけど』

『草』

『マジで性欲減衰効果あるやんけ』

『性犯罪を思い留まらせるくらい黒樹って萎えるのか……www』

ーー


「不本意だわっ! 例えその結果性犯罪率が低下しても、俺の下僕へのヘイトは上昇するが?? マジふざけんなよ。俺が性癖を満たせる相手が少なくなるじゃねぇか!」


ーー

『自分勝手やないか』

『コロンに頑張ってもろて』

『コロンがおるやん』

『頑張れコロン』

『またしても何も知らないコロン』

ーー


「確かにコロンがいるな」


 うむうむ。

 ノリは良いし、押しも弱いから下ねた言って? って言ったら羞恥を堪えながら言ってくれるであろう。


ーー

『確かにじゃなくてwww』

『どんどん被害件数黙っていくんだよなぁw』

『もう憐れだろw』

ーー



 さて、場も温まったところで今回のゲームを紹介していこう。

 俺は画面にゲームを共有させ映す。


「ほい。というわけで、今回はフォロワーの一人が作ってくれたクイズゲームに挑戦していくどー。まさか、開発者以外にゲーム作ってくれる奴がいるとは思わんかったわ。俺が配信終わった後はフリーゲームにするらしいから、是非ともダウンロードして下僕も挑戦してみてくれぃ」

 

ーー

『簡単に作れるやつだから、今回は技術力の無駄じゃなくて時間の無駄だな』

『ボロクソで草』

『黒樹に罪はあるがゲームに罪はないだろw』

『確かに』

ーー


「この身は潔白だが?」


ーー

『(ヾノ・∀・`)ナイナイ』

『(ヾノ・∀・`)ナイナイ』

『(ヾノ・∀・`)ナイナイ』

『(ヾノ・∀・`)ナイナイ』

ーー


「くっそムカつく絵文字をありがとよ!!」


 半ギレで叫んだ。

 俺は弄られキャラではないのに……。


「良いからやるぞ! はい、ゲームスタート!!」


 流れを変えるため、無理やりにゲームを開始してお茶を濁すことにした。決して誤魔化しているわけではない。うん、誤魔化して(ヾノ・∀・`)ナイナイ。


ーー

『誤魔化したな』

『誤魔化したな』

『逃げんなよ』

『そういうのよくないと思いまーす』

ーー


【第一問! おむつを履いたり、赤ちゃんや子どもになりきることに興奮することを──】

「オートネピフィリア。または赤ちゃん扮装嗜好」


【正解!】


ーー

『速い』

『クイズって、性癖のかよ!!!』

『正式名称、よくわかるなw』

『あ、これワイや……』

『たまにやる』

『この性癖保持者多いのかよw』

ーー


「まー、常識だな。何回も言うけど、人に迷惑をかけずに自重できるならどんな性癖でも受け入れるゾ。お前らも心の中で何か思っても否定だけはすんなよ。ブレインストーミングだと思え。あとは視野と見聞を広げろ」


 咄嗟に答えたけど性癖クイズとは思わなかった俺である。

 例のごとく事前確認は怠ったため完全初見。まあ、クイズを事前にやるのはカンニングみたいであれだけど、既製品ならともかく個人で作ったものだから安心のために事前確認は本来ならすべきだ。


 面倒だからやらんけど。

 これが配信者としての姿だぜ。見習うなよ(切実)



ーー

『どこの常識』

『毎回思うけど、お前の住んでる場所が魔界なのかお前自身がやべぇのか、その常識ってどこ基準なんよw』

『言ってることは正しいのに、黒樹が言うと自分の性癖を馬鹿にされたくないから、って理由そうで笑える』

『ありえるw』

『黒樹は、ほら。性癖満たしてくれる相手はコロンくらいしかいないしな?』

ーー


「お前らに関するストレスは漏れなくコロンにぶつけることになってる」


ーー

『ぶつける(意味深)』

『姉御肌だからね、コロンは。嫌だと言いながら付き合ってくれるんだろうなぁ……(意味深)』

ーー


「変な勘くぐり好きだな貴様ら」


 コロンは……なんだろう。

 恋愛関係に絶対発展しない女友達って感じがして、距離感とか雰囲気が好み。性的な魅力を感じないか、と問われればお茶を濁さざるを得ないくらいには美人ではあるのだが。

 そもそもコロン自体が俺を微妙に思っている節があるからな。


 なにせ俺によって男という幻想を壊されたわけだからな。おや、右手が疼く。


 

 気を取り直して次の問題に行こう。


【第二問! 裸体を晒すことに性的──】

「エキシビショニズム!! または露出狂、露出癖とか!」


【正解!】


 よし。これはサービス問題だったな。


ーー

『なんで日本語の名称より英語の方が先に出るんですかねぇ……』

『覚えたんだろ。黒樹だし』

『なるほど』

ーー


 それで納得すんのかよ。

 もうちょっとないの? 俺の深い事情とかを鑑みてさぁ。


 あ、深い事情なんてなかったわ。

 浅い考えの浅い決意だな。あるとしても深いではなく不快。あ、つまんない。


「覚えたけど何か問題あります????」


ーー

『逆ギレで草』

『Tnitterのレスバで負ける人じゃんw』

『いや、無いけどさ()』

ーー


 次!!


【第三問! 卑猥な用語を話すことに性的興奮──】

「コプロラリア! 猥語性愛! って俺やないか!」


 てぃんてぃん!!!


ーー

『認めるのかwww』

『それ言ったらワイらもやないかいw』

『みんな卑猥な言葉大好きなんよ』

『てぃんてぃん!』

ーー


「だよな。みんな好きだよな。正直、下ネタ嫌いな奴ってこの世にいないと思う。いても、コロンみたいな男性に嫌われたくない〜、みたいなしょーもな……ごほん、可愛らしい理由くらいじゃね?」


 危ない危ない。思わず本音が飛び出しかけた。


ーー

『取り繕えてねぇぞw』

『またしてもデジタルタトゥーを残されるコロン』

『あぁ、地味にコロンの黒歴史なのにw』

『人の黒歴史を抉って自分で逃げる方式』

ーー


「消せない証なら、俺もネット上に大量流入してるが。第一コロンは二次元より三次元での黒歴史の方がやべぇから大丈夫だ。今更そんな話題に上がったってナイフで刺されるくらいだ」


ーー

『しっかり重症で草』

『あ、ナイフで刺してる自覚あったんだ。悪質じゃねぇかw』

『お前の痕跡は消そうと思っても消せないわw』

『ワイらの心に刻み込まれてるもんな』

『てぃんてぃん……』

『しんみり言うなよw』

ーー


 俺は住所とか本名とか、そういう個人情報がネットに流れない限りは気にしない。そんなの本当に今更だし、Vtuberをやる上で覚悟したことだ。

 もし嫌になっても、はい消した、と自棄糞に終わるつもりもないし死ぬまで現役の気持ちでこっちはやってる。


 界隈が衰退しようと、俺は夢のために進むだけだ。


「やっぱりもっと真剣に布教するしかないな……」


ーー

『なんか、不穏な言葉が聴こえたんだけど?』

『もう十分です、もう十分です!』

『寝ぼけて授業中にてぃんてぃん! って叫んじゃうくらいには洗脳されてるから!!』

ーー


「甘いな。四六時中下ネタを叫ぶくらいには成長してもらわねば」


ーー

『人間としての役割を放棄してるじゃねぇか』

『そこまで言ったら洗脳超えてるんよ』

『倫理的にアウトすぎるw』

ーー


「やはり俺一人じゃ限界があるな。派閥を作り上げないと」


 うん。予てから進めていたことを次の段階に移行させよう。

 まずは発表。


「俺、起業するわ。Vtuber事務所作る」


ーー

『は???』

『は???』

『は???』

『は???』

『は???』

ーーー



 





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


質問が来てたので答えます。

すごい良い質問です。


リアルのVtuberの同接数より、この小説の同接数が多い理由ですが。


まず、前の世界より普及がしてないという観点で考えると、オタク界隈でコアな人気を誇っていると考えます。広く浅く浸透していない代わりに、狭く深く浸透している感じですね。

なので、チャンネル登録数に比べてリアタイで配信を見る人が多いのではと考えました。

そして黒樹は男のVtuberとして、実はネットニュースに載っかったり界隈の間で凄まじい人気を誇っているので同接は破茶滅茶に多いです。

ちなみに一般的な世間では半信半疑とともにVtuberってなに?? って感じです。

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