第3話 初配信

 準備は完了だ。

 マイク良し、設定良し、イケボ良し!


 ふふふ……俺という存在が全世界に発信される時は近い。

 

 黒田春樹は捨て、これからは黒樹ハルとして生まれ変わるのだ。


 バーチャルな世界へ……いざ征かん!




「はい、どうもこんにちは。魔界からやってきた黒樹ハルです。立派な悪魔目指して頑張ってる、今はまだ小悪魔の新人です!」


 待機中を解除すると、ブオンと俺のアバターが映し出される。

 そのままの勢いで、寝ずに考えた俺の設定込みの自己紹介を話すと、すぐにコメントがパソコンの画面下部に現れる。

 ふむふむ、同接50人。素晴らしいな。



ーー

『おぉ、イケボ!!』

『え、マジで男の声っぽくね!?』

『魔界……ジュルリ。そこに男はいますか』

ーー



「もちろん、男はいっぱいいるよ。でも、多すぎて可愛い女の子との出会いが無いんだよねぇ〜」


 俺にとって前の世界が魔界だがな。

 

 それはそうと、反応は上々だ。


ーー

『なにそれユートピアかよ』

『はい!私可愛いです!!』

『魔界行きてぇ!!』

『このディストピアから去りたい』

ーー


「はいはい、この世界から解脱しようとするんじゃありませんよ」


 俺の声に合わせてアバターが動く。全身ではなく上半身のみだが、ふぁ!? と驚くほどに値段が嵩張った。企業勢って相当金をかけてるんだなって分かったわ。それだけ期待値高まるってことか。すっげぇプレッシャーやろ。


ーー

『解脱は草』

『てか、マジでイケボやん』

『ちょっと拡散してくる』

ーー


 おぉ、ありがたい。


「拡散、ありがとう! 悪魔になるためには登録者が百万人必要だからね」


 デマだが。

 絶対に行かないと分かってるから言える夢である。


ーー

『悪魔になったらどうなるんですか…(゚A゚;)ゴクリ』

ーー


「増します……色気が」


ーー

『ガタッガタッガタッ……ふぅ』

『机壊れるぞw』

『百万か。日本のVtuberって百万人って何人いたっけ』

『しろねん、ありす、変態、司書、お嬢、らぶ。6人くらいか?』

『思ったより少ないな』

ーー


 あれ、前の世界より全体的に登録者数少ないな。

 層的にあまり発展してないのか? 

 これは結構由々しき事態だぞ。あんたに面白い人たちを見ていないのは人生損している。


「へぇ、じゃあ俺が7人目かな!!」


ーー

さえずるな童女が』

『辛辣で草』

『本当に男だったらなぁ。捗るのに』

ーー


「まあまあ。ほら、俺は世界で初めての男性Vtuberだからね。話題性は充分じゃない?」



ーー

『本当だったら充分どころじゃねぇ』

『世界が沸くが?』

『本当だったら、ね?』

ーー


 一部辛辣なコメントはあるが、まあ酔ってんじゃね。

 

「まあ、証明してって言われてもね。バーチャルチ◯……なんでもない」


ーー

『おいなんて言いかけた今』

『おまっ……』

『純朴な小悪魔設定はどこいった』

ーー


 宇宙そらの彼方へ?


 やべぇな。基本、脳にフィルター通して話してないから気を抜くと下ネタ話しそうで辛い。何が辛いって下ネタ話せないのが辛い。

 くっそ、キャラ設定が仇になった。


「なんでもないよ。それより!!」


ーー

『誤魔化しかたが雑で草』

『つか、同接百人超えてるじゃん』

ーー


「ふぁ!? 百人!? え、マジ!?」


ーー

『おい、キャラ』

『素が出てもイケボってどういうことだよ』

ーー


「ゴホン……まあ、今回は自己紹介的な配信だから、これからのことについて話していくよー」


 同接数が増えていたのはビビったけど、何も悪いことはないならスルーしておこう。

 

「まず、リスナーのことは『下僕しもべ』って呼ぶから」


ーー

『草』

『従わされるのか…悪くないじゃん』

ーー


 良いのかよ。


「SNSで呟く時は#下僕の独白、で」


ーー

『全世界に発信するのに《独白》なのかw』

ーー


 昨日適当に考えた。許せ。


「あとは……まあ適当に考えておいて」


ーー

『丸投げかよ』

『えっち絵のタグは?』

ーー


「えぇ……描く人いないでしょ」


 こちとら弱小Vtuberだ。支援絵なんて描いてくれる人が現れるとは思えないし、男のアレが厳しい中でR18を描く猛者が果たしているものか。

 まあ、決めておいて損は無いか。


「じゃあ#下僕の妄想(H)で、普通のファンアートの時は()を抜かすって感じで」


ーー

『よし、把握。久しぶりに描くか』

『なんか面白くなりそうだしチェックしてやるよ』

ーー


 俺にトーク力とか期待されても困るんだけど。

 精々喧しく騒ぐだけならできるがな。あとは下ネタ。ピュアだけど一度下ネタって話すと止まらないんだよな。



「これからの予定は、毎日0時に配信するよ。ほほゲーム。たまに雑談」


ーー

『毎日って、暇人かよ』

『無理すんなよー』

ーー


「いや、俺男だから、金あるし無職だから」


ーー

『あー、はいはい設定ね』

『仕事しろよ』

ーー


 ニート認定すんなよ。傍から見ればニートだけどよ。こちとらVtuberって立派な仕事してるんじゃゴラァ! 収入ねぇけど!!



「じゃあ、本日の配信はここまで! ご視聴ありがとうございました!! 下僕乙!」



ーー

『言い方ァ!!』

『馬鹿にしてんのか貴様』

ーー


 よし、ブチっとな。




 明日からまた頑張るか!!




Result!!

最大同接 134人(New!!)

チャンネル登録者 120人(+60人)

Tnitterフォロワー 236人(+36人)







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キャラ崩壊まで残り7日 

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