第二話 復号化《デコード》、完了だ!

 私が例の暗号の書かれた方眼用紙を差し出すと、あやめちゃんは一通り目を走らせてから立ち上がった。


「なるほど、この暗号コード復号化デコードすればいいんだな。やってみよう」


 そのまま家電いえでんの横にあったメモ帳を手に取ると、ダイニングテーブルに移動する。

 私はあやめちゃんと並んでイスに座ると、一緒に暗号の紙をのぞき込んだ。


 方眼のマス目には、ひとマスにひとつずつ、タテ五個 × かけるヨコ十六個のマークがえがかれている。

 そのマークは、ハート、ダイヤ、クローバー、スペードの四種類……つまりトランプだ。

 そして合計八十個のマークの下には、ヒントが書かれていた。


――――――――――――――――――

 TO 佐島さん

 次の暗号を解読せよ


 ♣♣♡♠♢♡♢♠♣♣♡♣♠♢♡♣

 ♣♣♢♡♣♣♣♣♡♢♢♢♡♠♡♣

 ♣♣♢♡♣♣♣♠♣♡♣♢♡♠♡♣

 ♣♣♢♡♣♢♡♣♡♡♣♢♡♠♡♣

 ♣♠♣♠♡♢♡♠♣♡♣♡♠♡♠♡


 ※ヒント1:♡…0、♢…1、♣…2、♠…3

 ※ヒント2:スイッチはオンかオフしかない

――――――――――――――――――


「このヒントが復号化デコードキーになりそうだが……何か、その男子が最近ハマってることとか、印象に残ってる話はないか?」

「ハマってるっていえばやっぱり今は謎解きっていうか、将来は謎解きクリエイターになりたいとかは言ってたけど……」

「なるほど。他には?」

「他に、何かあったかなぁ……」


 私はさらに頭をひねり……そして、この暗号を渡された日にあったことを思い出した。


「そういやこれもらうちょっと前に、一、二、四、八、十六って、十万とかまでずっと暗算で二倍の数字言い続けてた! すごくない!?」


 私は前のめりで言ったけど、でもあやめちゃんは、なぜか変な顔をする。


「一人で?」

「うん。帰りの準備しながらずっと言ってた!」

「けっこう変わったヤツなんだな、その男子……」


 なぜか呆れたような顔をするあやめちゃんに、私はすかさず反論はんろんした。


「ヘンじゃないよ、暗算早くてすごいじゃん!」


 そりゃあ大人のあやめちゃんには簡単かもしれないけれど、小五的にはすごいんだってことが全然分かってない。

 するとあやめちゃんは、急にニヤリと笑って言った。


「知花、もしかしてその男子のこと、好きなの?」

「べっ、別に好きとかじゃないし!」

「そっかそっか」


 ニヤニヤしながらうなずくあやめちゃんに、私はムキになって声を上げた。


「だから、本当に好きとかじゃないし! むしろいっつも百点自慢してきてムカつくぐらいだし!」

「はいはい分かった分かった! ……それはとにかく、その二倍のやつ、暗算っていうより二のべきじょうだなぁ。小学校のプログラミング授業って、二進数バイナリも習うの?」

「バイナリってなに?」

「簡単にいえば、文字が0と1しかない言葉かな。機械が理解できる文字って、実は0と1の二つしかないんだ。『プログラムをコンパイルする』って聞いたことある?」

「聞いたことない……」

「ああそっか、最近のトレンドはスクリプト言語だから、コンパイルいらないのか……」


 あやめちゃんはアゴに手を当てて何やらブツブツ言ってから、手元のメモに1と0ばっかりたくさん並べて『111110100』と書いた。


「コンパイルっていうのは英語で翻訳ほんやくって意味なんだけどね、人間の命令を機械に分かるように翻訳すると、0と1だけで書かれた文章になるんだよ。例えばこれは、私たちが普段使う数字なら『五百』って意味だね」

「へぇ……そっちの方が長くて読むの大変そうなのにね。そういえば、寿々木くんロボットプログラミング教室に通ってるんだって」

「ならヒントにもオンかオフしかないってあるし、バイナリ説が有力だな。教室かぁ、最近の子はうらやましいねぇ。私が子どもの頃は小学生がパソコン好きなんて言ったら、すぐにいんキャあつかいだったのに」


 あやめちゃんはそうしみじみと言いつつ首をふってから、あらためてテーブルの上の方眼用紙を指さした。


「さて、じゃあこのマークに割り当てられてる数字を、バイナリにしてみようか。四つの文字をバイナリで表すには、少なくとも二桁必要だ。では二桁の二進数に変換してみると、まずハートは0だから『00』、ダイヤは1だから『01』、クラブは2だから『10』、スペードは3だから『11』だな。なんでそうなるかは……まあ、気になるようならネットで『二進数』って調べてくれ」

「わかった」


 10100011010001111010001011010010

 10100100101010100001010100110010

 10100100101010111000100100110010

 10100100100100100000100100110010

 10111011000100111000100011001100


 私はようやく全部のマークを0と1に置きかえると、あやめちゃんの顔を見た。


「できた! えっと……これ、機械に読ませたらいいのかな?」

「いや、その必要はなさそうだ。その『1』のマス目だけ、ぜんぶ黒でぬりつぶしてごらん? ――復号化デコード、完了だ!」

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