第30話 グリム様と結ばれました

グリム様と話しをしているうちに、屋敷に着いた。さすがに今日は疲れた。


「それではグリム様、おやすみなさい」


「…ああ…おやすみ…」


グリム様と別れ、自室に戻る。カリーナに手伝ってもらいながら、着替えと湯あみを済ますと、そのままベッドに入った。そういえば!


ふとベッドから起き上がり、引き出しからある物を取り出す。そう、ダニエルに婚約破棄されたとき、グリム様が手渡してくれたハンカチだ。すっかり渡しそびれていたのだった。


このハンカチ、明日にでも返そう。


その時だった。


コンコン

「マリアンヌ、夜分遅くにすまない。まだ起きているだろうか?」


この声は、グリム様だわ。一体どうしたのかしら?


一旦ハンカチを引き出しにしまい、急いで部屋のドアを開けると、グリム様の姿が。


「どうかされたのですか?」


そのまま部屋に招き入れた。どうやらグリム様も寝る準備をしていた様で、寝間着姿だ。


「いや…その…もしマリアンヌが嫌でなければ、しょ…初夜を行いたいと思って…」


真っ赤な顔でそう言ったグリム様。今、初夜って言ったわよね…


「もちろんイヤならいいんだ!そもそも、今日は疲れているよな。すまない」


そう言って部屋から出ていこうとするグリム様の腕を掴んだ。


「私は大丈夫ですわ。だから、その…」


私も恥ずかしくなって、そのまま俯いてしまう。そんな私をグリム様が優しく抱きかかえて、そのままベッドに寝かした。


「本当にいいのか?」


真剣な表情で聞いてくるグリム様に向かって、コクリと頷く。もう、恥ずかしいのだから何度も確認しないほしい。でも、グリム様らしいわね。


そんな事を考えているうちに、一気に唇を塞がれた。そしてそれは、どんどん深くなっていく。


完全にキャパオーバーだ。このまま激しく抱かれるのでは…そう心配したが、その後はとても優しかった。ゆっくり時間をかけて、まるでこわれものを扱う様に…


心の準備が出来ておらず、戸惑う事も多かったが、それでもやっと大好きなグリム様と結ばれたことが、何よりも嬉しかった。事が済むと、グリム様がギュッと抱きしめてくれた。この温もりがまた心地いい。そのまま、ゆっくりと眠りについたのだった。




翌日、目が覚めると赤い瞳と目があった。


「おはよう、マリアンヌ、体は大丈夫かい?」


「おはようございます、グリム様。はい、大丈夫ですわ…でも、恥ずかしいです」


昨日はグリム様に沢山かわいがってもらった。そして今、私たちは何も着ていない状態なのだ。やっぱり恥ずかしくてたまらない。


「俺たちは夫婦だ、そんなに恥ずかしがる必要は無い」


そう言うと、ギュッと抱きしめてくれたグリム様。このままずっとこうしていたい、そう思うほど、グリム様の腕は心地いい。


「マリアンヌ、初夜の日はすまなかったな。あの日、俺を待っていてくれていたのか?」


ふと旦那様が、そんな事を呟いた。忘れもしないあの日、確かにグリム様を朝まで待っていた。


「はい、待っておりました…」


「やっぱりそうだったんだな…言い訳になるかもしれないが、俺はあの時、マリアンヌに嫌われていると思っていたんだ。マリアンヌが嫌がる事はしたくないと、あえて部屋を訪ねなかった。でも、そんな思い込みのせいで、結局君を傷つけてしまったんだな…」


確かにあの時は、ショックだった。でも、今ならわかる。グリム様は、私の事を考えてあえて初夜を避けたという事を。


「グリム様、気にしないでください。あの日、私を気遣ってくださったのでしょう。これからはこんなすれ違いがない様、何でも言葉にしていけばいいのです」


「そうだな、これからはちょっとした事でも、言葉にしていこう。さあ、そろそろ起きないといけないな」


そう言うと、ベッドから起きて着替えを始めたグリム様。私も着替えないと!急いで近くにあった服をかき集め、ベッドの中で着替える。


「マリアンヌ、ベッドの中で着替えなくてもいいぞ。お前の体は、昨日隅々まで見たからな」


そう言って旦那様が笑っている。ちょっと、そんなストレートな表現をしないでよ。恥ずかしいじゃない!


「いくら体を見られていたとしても、恥ずかしいものは恥ずかしいのです。とにかく、着替えが終わるまで、向こうを向いていてください」


「わかったよ」


笑いながらも、向こうを向いてくれるグリム様は、やっぱり優しい。急いで着替えを済ませ、2人で仲良く食堂へと向かう。


外ではカリーナが待機していたが、特に何かを聞かれることはなかった。きっとカリーナも、私たちが結ばれた事を知っているのだろう。なんだか恥ずかしい…


いつもの様に朝食を食べ、グリム様をお見送りする。


「グリム様、行ってらっしゃいませ」


「ああ、行ってくる。なるべく早く帰って来るから」


そう言うと、私の唇に口づけをしたのだ。使用人も大勢見ている前で、口づけをするなんて…


顔を真っ赤にして固まる私に対し


「マリアンヌからは口づけをしてくれないのかい?」


なんて言っている。私から口づけをしろですと?そんな恥ずかしい事、出来る訳がない。そう思いつつも、惚れた女の弱みなのか、グリム様の期待に答えたいという思いから、グリム様の唇に自分の唇を重ねた。


「ありがとう、マリアンヌ、愛しているよ」


そう言い残すと、そのまま馬車に乗り込んでいった。完全にキャラ、変わっていませんか?そう言いたくなるほど、今日のグリム様は甘々だ。


結局キャパオーバーに陥った私は、グリム様が乗った馬車が見えなくなってからも、しばらくその場に立ち尽くすのであった。

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