第24話 俺はどうすればいいんだ~グリム視点~

家に帰ると、彼女が出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、随分早かったのですね。なんだか顔色がよろしくない様ですわ。まさか、体調でも崩されたのですか?」


心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。俺の心配をしてくれるのか…なんて優しいんだ。やっぱり、彼女を失いたくはない…


「心配をかけてすまない。でも大丈夫だ。今日は疲れたから、もう休むよ」


そう伝え、そのまま部屋に戻ってきた。着替えを済ませ、ベッドに横になる。


ふと今日ダニエルに言われた言葉を思い出す。


確かにダニエルは彼女を裏切った。でも、今日真剣な顔で俺に訴えてくるダニエルの姿を見たら、もしかしたら俺ではなくあの男と一緒になった方が、彼女は幸せだったのではないか、そんな気がしてならない。


「俺は本当に駄目だな…好きな女性すら、幸せに出来ていない…彼女の為に、俺は身を引いた方がいいのか…」


ポツリとそんな事を呟く。でも…俺はもう、後戻りできない程、彼女の事を愛している。きっと俺はこの先、彼女なしでは生きていけないだろう。


彼女の太陽の様な明るい笑顔、柔らかく温かい手、側にいてくれるだけで感じる、温かい気持ちを、俺は知ってしまったのだから…


その日は色々と考えすぎて、ろくに眠る事が出来なかった。


翌朝、いつもの様に彼女に見送られ、騎士団へとやって来た。


「グリム、今日のお前の顔、いつも以上に恐ろしいな。何かあったのか?」


人の顔を見るなり、顔を引きつらせながら失礼な事を言うデービッド。昨日の出来事を、デービッドに話した。


「俺はダニエルの言葉を聞き、本当に俺の側にいて彼女が幸せになれるのか、本当はダニエルと結婚したかったのではないか、そんな事ばかり考えてしまうんだ」


「なるほど。確かに初夜をすっぽかしたり、夜会に連れてかなかったり、マリアンヌちゃんを避けたりと、やる事成す事最低だもんな。よし、マリアンヌちゃんの為に、離縁してやれ。そして、ダニエルの元に送り届けてやれ」


何を思ったのか、そんなふざけた事を言い出したデービッド。


「ふざけるのも大概にしろ!確かに俺は、彼女にとっていい夫ではないかもしれない。でも、誰よりも彼女を愛しているんだ!そもそも、平気で彼女を傷つけた男の元に、なぜ俺が送り届けないといけないんだ!」


「なんだ、お前。既に答えが出ているじゃないか。お前はマリアンヌちゃんと離縁したくないし、彼女を傷つけたダニエルになんて渡したくないんだろ。だったら、その思いを貫けばいいだけだろう。何をウジウジ言っているんだ。気持ち悪い奴だな」


確かに俺の中で、既に答えが出ているのかもしれない。でも、もしダニエルと彼女が出会ったら。そして、ダニエルが彼女に気持ちを伝え、彼女がダニエルを受け入れたら…


そう考えると不安でたまらない。


「でも、お前の気持ちはわかるよ。相手は誰にでも優しく、貴族界でも評判の男だ。かたやお前は、目が合っただけで令嬢が悲鳴を上げて逃げていくような、恐ろしい男。ダニエルにマリアンヌちゃんを取られるのではないかと、不安になるよな。でも、お前たちはもう夫婦なんだ。とにかく、ダニエルには会わせない方がいいかもしれないな」


デービッドの言う通りだ。とにかく俺はもう、彼女なしの人生なんて無理だ。でも、もし彼女がダニエルを選ぶのなら、その時は…


イヤ、やっぱり無理だ!とにかく、今まで以上に彼女との距離を縮め、さらにダニエルと彼女を会わせないようにしないと。よし、そうと決まれば、夜会には絶対に連れて行かない様にしないと。


そう決意したのだが…


「最悪だ…グリース公爵家の夜会に招待された。ぜひ奥様も一緒に連れてきてほしいとの事だ」


グリース公爵家は父上の代から交友があり、以前両親が王都に遊びに来た時、一緒に挨拶に行った家だ。俺の妻に会いたいと、あの時も言われたのだった。


「さすがに公爵の誘いを断る訳にはいかないもんな。ダニエルも来るだろうが、お前が側にずっといれば、話しかけてこないだろう。俺も出来るだけ気にかける様にするから」


頭を抱える俺の肩を叩きながら、そう慰めてくれるデービッド。公爵家の誘いを無下にする訳には行かない。とにかく彼女を紹介したら、すぐに帰ろう。絶対にダニエルに会わせないようにしないと!


ものすごく気が重いが、仕方ない。

でも、万が一ダニエルと彼女が再会して、そのまま盛り上がってしまったら…


考えれば考えるほど、悪い方向へと進む。

万が一、ダニエルに彼女を取られたら、俺はこれからどうやって生きていけばいいのだろう…

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