第18話 お義母様の行動力はすごいです

翌朝、いつもの様に朝食を食べに食堂へと向かう。すると既に旦那様が座って本を読んでいた。ご両親はまだな様だ。


「おはようございます、旦那様」


「おはよう。昨日は色々と大変な思いをさせてすまなかった。今日からはゆっくりしてくれ」


「私は大丈夫ですわ。それに今日は、お義母様と一緒に、街に出る約束をしておりますし。せっかくなので、色々と見て回りたいと思っております」


ダニエルから婚約破棄をされてから、街に出る事はほとんどなくなっていた。せっかくなので、私も色々と見て回りたい。


「母上と街にだなんて、止めた方がいい!疲れるだけだ。俺から断りを入れておくから」


「でも…」


ものすごい勢いで迫って来る旦那様。正直ちょっと怖い。


「そんな怖い顔でマリアンヌちゃんに迫るのは止めなさい。怯えているじゃない、可哀そうに!グリム、女同士の約束に口を挟むものではないわ。別にあなたに付いてこいと言っている訳ではないのだから、いいでしょう?」


この声は、お義母様だ。


「彼女が行くなら、もちろん俺も行く!母上と2人きりになんて、恐ろしくて出来ないからな」


「あら、残念ね。今日はあなたはお父様と一緒に、グリース公爵家にご挨拶に行く予定になっているのよ」


ニヤリと笑ったお母様。さすがに公爵家に挨拶に行くとなると、旦那様も断れないだろう。でも、お義母様は行かなくていいのかしら?


「母上、わざと俺が来られない様にしたな!それなら街に行くのは別の日にしてもらう!いいな!」


「それはどうかしら?」


「とにかく、今日は街へはいかせないからな!」


お義母様に向かって叫ぶと、ものすごく不機嫌そうな顔で食事を初めた旦那様。相変わらず、旦那様のお父様は空気だ。


食後、旦那様と旦那様のお父様を見送る。


「いいか、絶対に彼女を連れ出すなよ。いいな、分かったな。お前たち、母上が暴走しそうになったら、体を張ってでも止めろ!念のため、護衛騎士を多めに付けておく」


お義母様と使用人たちに必死に訴えている旦那様。使用人たちは真剣に聞いているが、お義母様は、明後日の方向を向いている。これは聞いていないわね…


「やっぱり心配だ」


そう言うとなぜか私の手を引き、そのまま部屋へと戻ってきた。


「俺が帰るまで、申し訳ないが部屋から出ないでほしい。いいね、分かったね」


そう言うと、部屋から出て行った旦那様。旦那様に付いて部屋から出ようとしたのだが、護衛騎士が3人待機していて、外に出る事は出来なかった。


旦那様はそこまでして、私とお義母様を2人きりにしたくないのね…私は大丈夫なのだけれど…


窓の外を見ると、旦那様たちが乗った馬車が走り出すのが見えた。どうやら無事出掛けた様だ。


仕方ない、本でも読むか。そう思い本を読んでいると、誰かが窓を叩く音が…


でも、ここは2階よ。一体誰が…


それでも窓の外が気になって、窓を開けると


「マリアンヌちゃん、こんなところからごめんなさいね」


「え…お義母様」


なんと、上の部屋からロープを垂らして、私の部屋まで降りて来ていたのだ。


急いで部屋へと招きいれた。


「あぁ、手が痛いわ。やっぱり年甲斐もなくこんな事をするものではないわね。さあ、一緒に街に行きましょう」


どうやら私と街に行くために、わざわざロープを伝ってきた様だ。でも…


「お義母様、ここまでして私を誘いに来てくださったことは、とても嬉しいです。でも、もし万が一ロープが切れたり、支えきれずに落ちてしまったらどうするおつもりだったのですか?これからは、あまり危険な事はしないでくださいね」


そう伝えた。ちょっと生意気だったかしら?でも、お義母様にもしもの事があったら、旦那様に顔向けが出来ないし、何より私も悲しいわ。


「マリアンヌちゃん、あなた、私の心配をしてくれているの?ありがとう。本当に優しい子ね。そうね、次からは、騎士をなぎ倒して来る事にするわ。そっちの方が、効率がよさそうだものね」


え…騎士をなぎ倒して…なんだか発想がおかしすぎて、つい笑ってしまった。そんな私を見て、お義母様も笑っている。2人で笑っていると


コンコン

「奥様、どうかされましたか?」


外で控えていた騎士が、ドア越しに声を掛けてきたのだ。


「さあ、こんな事をしていても仕方ないわね。街に行きましょう」


「はい、では早速参りましょう」


2人で部屋から出ると、目玉が飛び出るのではないかと言うくらい、大きく見開いた騎士たちがいた。


そりゃそうだろう、いるはずのないお義母様がいるのだから。あまりの衝撃に、固まったまま私たちを見送る騎士たち。すると今度は、クリスに出くわした。


「大奥様、奥様を勝手に連れ出してはいけません」


「あら、どうして?ちゃんとマリアンヌちゃんの許可はとったわ。とにかく私たちは急ぐから」


そう言うと私の手を引き、足早にクリスの元を去っていく。


「お待ちください。大奥様は、本当に聞き分けのない人ですね。どうせロープでも伝ったか、壁を伝ったかして奥様の部屋に侵入したのでしょう。とにかく、私もお供いたします」


クリスも急いで私たちの後を付いてくる。それにしてもクリス、どうしてロープで伝って来たとわかったのかしら?さすが長年執事をやっている人は違うわね。


そのまま馬車に向かうと、もう1人お義母様付きのメイドも一緒に乗り込み、4人で街に出発したのだった。

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