第3話 グリム様の元に嫁ぎます

翌朝、いつもより早く目が覚めた。そうだわ、今日嫁ぐことを友人たちに伝えないと!


早速紙とペンを準備して、3人に手紙を書いた。きっと昨日の今日だから、かなりびっくりするだろう。でも、どうしても自分から3人には伝えたかったのだ。彼女たちには、この1年本当に支えてもらったものね。


早速手紙を使用人に届けてもらう様に託した。そして朝食を食べた後、ドレスに着替える。今日のドレスは、赤色だ。少し派手かと思ったが、実は赤は私とグリム様の色なのだ。


「マリアンヌお嬢様、今日のドレス、お嬢様の髪の色とお揃いで、よくお似合いですよ」


メイドたちが声を掛けてくれる。


「ありがとう。今日であなた達ともお別れだと思うと寂しいわ。今まで色々とお世話になったわね。皆、元気でね」


私のお世話をしてくれたメイドたちに、挨拶をした。


「お嬢様、そんな寂しい事を言わないでください。いつでも戻って来て頂いて大丈夫ですから。私たちは、伯爵家で待っておりますので」


「…ええ…ありがとう」


いつでも帰って来てもいいって…でも、それだけ皆が私の事を大切に思っているという事よね。うん、そう思っておこう。


ちなみにメイドたちは、誰も付いてこない事になっている。お父様とディファーソン侯爵家で話し合って、そう決まったらしい。その為、私は1人で侯爵家に嫁ぐことになったのだ。


さあ、準備も整ったし、そろそろ行かないと。


16年間お世話になった部屋を最後に眺めた。そして、玄関へと向かう。玄関には既にお父様とお母様、グラディスが待っていてくれた。


「マリアンヌ、今日のドレス、あなたの髪の色とお揃いにしたね。とても似合っているわよ。侯爵様と仲良くね」


「ありがとうございます。お母様もお元気で」


「姉さん、もしディファーソン侯爵が嫌になったら、いつでも帰って来てもいいからね。僕が姉さんを守ってあげるから」


「グラディスも随分と逞しくなったのね。ありがとう」


3つ下のグラディス。いつまでも子供だと思っていたけれど、いつの間にか身長も抜かされてしまった。私の大切な弟。そんなグラディスをギューッと抱きしめた。


「さあ、そろそろ行く時間だぞ。送ってやれなくてすまないな」


「大丈夫ですわ、1人で行けますので。それでは行ってきます」


両親とグラディス、さらに使用人たちに見守られながら、馬車に乗り込んだ。ゆっくり走り出す馬車。皆が手を振ってくれている。私も手を振り返した。姿が見えなくなるまで手を振った後、イスに腰を下ろす。


今日本当にグリム様の元に嫁ぐのね。なんだかまだ実感がわかない。でもグリム様のお嫁様になるという事は、きっとそういう事もするのよね。お母様や使用人たちから色々と教えてもらったけれど、やっぱり恥ずかしいわ。


私、うまくできるかしら!キャァァァ、なんだか緊張してきたわ、どうしましょう。


1人で妄想していると、馬車が停まった。どうやらディファーソン侯爵家に着いた様だ。ちなみにグリム様のご両親、元侯爵と夫人は、領地に住んでいるとの事。その為、このお屋敷には今、グリム様しか住んでいないと聞いた。


こんな立派なお屋敷に1人だなんて、寂しくないのかしら?もちろん、使用人たちはたくさんいるだろうけれど…て、大きなお世話よね。それに今日から私もこのお屋敷にお世話になるのだし。


早速馬車から降りると


「「「「ようこそいらっしゃいました、奥様」」」」


たくさんの使用人が出迎えてくれた。でも、その中にグリム様の姿はない。


「ようこそ侯爵家に。私は旦那様の専属執事をしております、クリスと申します。旦那様は中でお待ちです。さあ、どうぞこちらへ」


クリスに連れられ、屋敷の中に入る。そして、扉の前でとまった。どうやら客間の様だ。ここにグリム様がいらっしゃるのね。緊張からか、体が固まる。


「さあ、どうぞ中へ」


クリスに促され、中に入ると。


美しい赤い瞳が、鋭い眼差しで私を見つめていた。あまりの鋭い眼差しに、つい体が固まってしまう。


「そんなところに突っ立っていないで、座ってくれ。それから、この紙にサインを」


いけない、固まっている場合ではないわ。急いでグリム様の向かいの席に座った。そして、渡された紙に目を通す。どうやら婚姻届けの様で、既にグリム様の欄は全て埋まっていた。後は私がサインするだけだ。でも…


「あの…本当に私と結婚してもよろしいのですか?私は1年前、公衆の面前で婚約破棄をされた、惨めなおん…」


「あの事件だが、君に落ち度は全くない!そもそも、あの男がバカなだけだ。だから、そんな事は全く気にしなくてもいい。さあ、サインを!」


眉間にシワを寄せ、さらに鋭い目つきで私を睨みつけている。きっと普通の令嬢なら、震えあがるのだろう。でも、言ってくれている事は、どう見ても私を庇ってくれている。やっぱりこの人、とても優しい人なんだわ…


改めてそう思った。


「ありがとうございます。では、遠慮なくサインさせていただきますね」


早速紙にサインをした。これで私とグリム様は夫婦だ。その事実が嬉しくて、つい頬が緩む。


「それでは、これを早速提出してこよう。君は今から正真正銘、この家の主の妻だ。大きな顔をして、ここで生活をしてほしい。屋敷も好きなように使ってもらって構わない。それでは、俺は今から出かけるから、これで失礼する」


そう言うと、さっさと出て行ってしまったグリム様。あら?結婚って、こんなにあっさりしたものなの?

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