第一話② やあ元気かい? 僕は元気さッ! さあッ! 今日の商品を紹介していくよッ!
「まずは、居間でくつろいでいるノアお姉ちゃんの写真よっ! 夕食後バージョンとお風呂上りバージョンの二つっ! セット価格は少しお安くしてあげるわっ! さあさあ、早くお財布から卑しいお金を出しなさいっ!」
「おれっ! おれに早くっ!」
「こっちにも売ってくれっ!」
お昼休み。給食を大急ぎで食べ終えたわたしは今、体育館倉庫でブツを取り出し、密かなお店を開いているの。会員制で不定期なわたしのお店。言うなれば知る人ぞ知る隠れ名店、ジェニファーカンパニーっ! 略してJCよっ! 略すとちょっといやらしくなっちゃうのが難点ねっ! 取り扱ってる商品はもちろん、ノアお姉ちゃんのオフショット写真よっ!
体育館倉庫には今、お姉ちゃんの写真を求めたお客さんが嫌という程に群がっているわっ! 男子だけじゃなくて、女子もいるのよっ! お姉ちゃんの美しさは、同性すら虜にしちゃうの。美しさの罪ねっ! 美罪よ、美罪っ! 微妙な罪に聞こえるのが悔やまれるわっ!
「はいじゃあ順番に並んでー。欲しい写真とお金を用意しなさいっ! お金はこの缶の中に入れてね。はい、じゃあ君からっ!」
「セットでっ!」
「お買い上げありがとうございまーすっ! HAHAHAHAHAHAっ!」
需要が止まらないわっ! お姉ちゃんの写真を仕入れるたびに、飛ぶように売れていくのっ! 家族写真って偽ってたくさん撮ってた甲斐があったわっ! 仕入れ値はゼロでスマホで撮った写真をコンビニで印刷してくるだけだから、利益率が有頂天よっ!
わたしって商売の才能があるのかもっ!? 目指せ億万長者っ! 札束のお風呂に入って優雅にアフタヌーンティーを楽しむのよっ! 淑女の嗜みってやつねっ!
「何してるのかな?」
と思ったら体育館倉庫の扉が開いて、優しい声が聞こえてきたわっ! ギョッとしたわたし達がみんなで顔を向けると、そこには優し気に微笑んでるルーカス先生がいたの。
「生徒間でお金のやり取りがあるかもしれないって職員会議で聞いてたんだけど。まさか私のクラスの生徒が首謀だったなんてね。ジェニー?」
優しい声で、先生はわたしの名前を呼んだわっ! 凄いっ! 微笑んでるのに怖いっ! 身体の芯を冷たい素手で鷲掴みにされたみたいな感覚があって、無意識のうちに震えてきちゃうわっ! 歯はかみ合わないし、冷や汗も止まらないのっ! 端的に言えば、げえっルーカス、ってやつねっ!
「私としても穏便に事を済ませたいんだ。今すぐ謝って、今後こんなことはしませんって約束してくれるなら、それで良いよ。ただし、少しでも抵抗するなら。もう二度と、朝日は拝めないかもね」
どうしましょうっ! このままじゃわたしに明けない夜がきちゃうわっ! 謝るのは別に良いんだけど、せっかく儲けたこのお金は間違いなく没収されちゃうっ! それは惜しい、惜しいわっ!
だってわたしが稼いだお金なんですものっ! 労働の対価として得たものまでお上に取られちゃうなんて、これが所得税ってやつなのねっ! 納税は国民の義務かもしれないけど、脱税したくなる人の気持ちも解っちゃったっ! 払いたくない、払いたくないわっ! ならばっ!
「バイバイ先生っ!」
逃げる一択っ! わたしは先生のいる扉の反対の窓を開けて外へと飛び出すわっ! 気分は大泥棒、ジェニファー三世よっ! あばよ~、ルーカスのとっつぁ~んっ!
「逃げるのか。良いよ、鬼ごっこといこう。逃げる君は獲物で、私が狩人だ……ああ、君たちはもう行って良いよ。全員、顔は覚えたから。後で職員室に呼ぶね、逃げちゃ駄目だよ? さあ、ジェニー」
窓から外に出る直前に、ルーカス先生はこんなことを言っていたわっ!
「私から何処まで逃げられるかな? 少しは骨があると、期待してるよ」
本当にこっわーいっ! 威厳が一介の小学校教諭ってレベルじゃないわっ! 最早先生じゃなくてラスボスよ、ラスボスっ! 先生を倒したら音楽と共にエンドロールが流れてくるんだわっ!
どうしましょう、インターネットで攻略情報を検索しないとっ! 無策で挑んだら敗北イベントになっちゃうっ! わたしは走りながらスマホを取り出したわっ! 検索結果、ゼロ件っ! アメリカンガッデムっ!
「ここならバレないわっ!」
わたしは一階にあった別のクラスに逃げ込んだわ。木を隠すなら森の中。人を隠すなら人の中。つまり、人込みに紛れてれば早々に見つかる筈ないってことねっ! 昼休みで生徒がいっぱいいるここなら、わたしが居ても不思議じゃないっ! 違和感なく人込みに溶け込むことができたわっ!
これぞ圧倒的閃きっ! 虚空からざわざわ聞こえてきそうよっ! わたしったら天才ねっ!
「ここかい?」
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああっ!!!(清楚)」
と思ったら。あっさりルーカス先生が部屋に入ってきて、真っすぐわたしの元に歩いてきたわっ! こんなのホラーよホラーっ! 冷や汗が止まらないわっ! 年齢制限が必須ねっ! Rは十八でお願いっ!
わたしは清楚な悲鳴と共に、教室の窓から飛び出したわっ!
「ここならバレないわっ!」
次に隠れたのは職員室よっ! 先生方もお昼ご飯中の今なら、見咎められることなく忍び込めたわっ! まさか敵の本拠地に隠れるなんて、さしものルーカス先生でも天地がひっくり返っても思いつかないでしょうっ!
これが逆転の発想ってやつねっ! わたしったらやっぱり天才じゃないっ! これだけの思いつきがなせる自分の脳みそが一番怖いわっ!
「ここかい?」
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああっ!!!(清楚)」
またルーカス先生がやってきたわっ! そして迷いなくわたしの方に歩いてくるのっ! 訂正するわっ! わたしの脳みそよりも先生の方が怖いっ! 冷や汗に加えて鳥肌まで立ってきちゃったわっ!
わたしはまた清楚な悲鳴と共に、反対側の扉から職員室を飛び出したわっ!
「ほら。もっと逃げて、ジェニー?」
「にぎゃぁぁぁああああああああああああああああああっ!!!(清楚清楚)」
廊下を逃げるわたしを追ってくるルーカス先生。向こうはゆっくり歩いているのに、どうして走ってるわたしとの距離が縮んできてるのかしらっ!? 目から涙を出し、清楚に清楚を重ねた悲鳴を上げながら、わたしは校内を爆走するわっ!
でも、もう、駄目。足が、疲れちゃって。先生が、もうすぐ、わたしの元に……。
「こっちさ」
「っ!?」
そして階段を駆け上がって曲がり角を曲がった時、不意にわたしは引っ張られたわっ! 抵抗できないままに連れ込まれて、そのまま口元を手で塞いでくる人がいる。
「おや。何処へ行きましたかね?」
曲がった先にわたしがいなかった為か、ルーカス先生はそのまま歩いていっちゃったわっ! ゆっくりした足音が遠ざかっていくのが聞こえて、ようやく安堵の気持ちが湧き上がってくるわね。
逃げ込んだのは理科準備室だったわ。普段は鍵がかかってるから、流石の先生もここに逃げ込んだなんて思わなかったのでしょうね。助かったわっ!
「ぷはぁー。はーぁ、はーぁ。あ、ありがとうございま」
「やり過ごせたみたいだね。大丈夫かい、マイハニー?」
お礼を言おうとしたわたしは言葉を切ったわっ! だってわたしのことをマイハニーなんて呼ぶ人間の心当たりなんて、一人しかいなかったものっ! 急いで後ずさってその男を見ると。
「は、ハワードっ!?」
「そう、ぼくだよジェニファー。ああ、別にお礼は要らないよ。未来の妻のピンチに駆けつけるのは、未来の夫であるぼくの役割。当たり前のことをしただけさ」
クルクルパーマの頭を揺らしながら仰々しく言葉を吐いているハワードの姿があったわっ! ラスボスから逃げられたと思ったら、今度はストーカーと二人っきりっ! これがかの有名なアレねっ! 一難去ってまた一難っ! ぶっちゃけあり得ないわっ!
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