第3話 好きな子の治療は難しい

 可愛いレッドが血だらけで寝ている。

 あんなに元気な子が、目を固く閉じたまま動けない。あたしは息の仕方を忘れてしまった。


 目の前の現実を受け入れられない。


 ──ウソにゃ、悪い夢にゃ。


「ミーニャ! あんた何ボーッとしてんの!」


 ジーニャ先輩が叫ぶ。

 そうにゃ、あたしは医者。治療をするのにゃ。

 治療を……。

 高所から叩きつけられたせいで骨を何本も折っていて、それが大事な器官を傷つけている。

 見て、触って、すぐ分かる。

 手の施しようがない。あと数刻で死んでしまう。



 ──どうしてにゃ。


 ──なんで、こんなことに。


 ──あたしに花冠を作ってくれたのに。



 動けないあたしを、ジーニャ先輩が殴る。でも全然痛くない。

 あたしは椅子に座らされ、治療は先輩が代わる。次から次へと降ってくる血の付いたガーゼを、うつろな目で見つめる。

 先輩にだって無理にゃ……。

 あたしはもう二度とレッドに会えない。


 うつろな目の前を、真紅の長い髪が横切っていく。


「ごめんなさい、邪魔はしませんから!」


 マリアンヌ様が手術台に近づく。

 レッドの足首に手に触れると、手術室は明るい光に包まれた。

 人間にしか使えない、回復魔法にゃ。


 その練度の高さに圧倒され、ジーニャ先輩の手が止まる。自分のポジションをマリアンヌ様に譲る。

 すごい。レッドの体が浮き上がって見える。


 永遠にも感じられた時間は、マリアンヌ様が意識を無くした事により終わりを告げた。

 あたしは彼女を抱きとめ、近くのベッドに寝かせた。


 レッドの状態は、治療できる範囲にまで回復していた。

 ありがとうございますマリアンヌ様。

 後はあたしたちに任せてにゃ!

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