医者猫ミーニャはナゾトキしたい!

秋雨千尋

第1話 可愛いレッドと美しいマリアンヌ様

 あたしはミーニャ。医者猫族にゃ。

 その名の通り医者の猫。ピンク色のボブカットに黒いフサフサの耳が自慢だにゃ。褐色肌に浮かぶ金の瞳はどんな患部も見逃さないにゃ。


「ミーニャ、お願い。レッドが怪我をしたの」


 魔王城の一階にあるクリニックにやって来た大輪の薔薇のような美女。ウェーブのかかった長い深紅の髪に雪のような白い肌。長いまつ毛に彩られた瞳は意志の強さが表れていて、見る物を惹き付けてやまない。

 魔王ネイビー様の奥様、人間のマリアンヌ様にゃ。

 そして彼女が連れているのが──。


「ははうえ、われはケガなどしておりません!」


 4才になったばかりの魔王子レッド。

 真っ赤な髪と、きつめの大きな目で、とってもかわいいのにゃ!

 どう見ても膝がすりむいてるにゃね〜。


「転んだにゃ?」


「ころんでなどいない!」


 ミエミエの嘘をついてかわいいにゃね。でも手当てはちゃんとしないと危ないにゃ。

 よーし、ここはチョイ脅しでいくにゃ!


「うーん、すりきず程度なら今すぐ薬草で治せるにゃけど〜治療を怖がって出来ないなら、夜にネイビー様に報告しなきゃにゃね〜」


 ネイビー様は即死に長けた闇魔法の使い手で、それはもう怖いのにゃ。前にレッドが勝手にドラゴンに乗った時の怒りぶりときたら、城が壊れるかと思ったのにゃ。

 レッドは渋々、診察椅子に座ったのにゃ。


「ミーニャ、すまぬ……なおしてくれ」


 もおおお!

 すねた顔がかわいくて絶叫したくなるのを我慢して、医者としてしっかりお仕事するにゃ。

 薬草を塗り込んでいる間も悔しくてたまらない感じが伝わってくる。


「はい。あとは安静にするにゃよ」


 レッドはプイとそっぽを向いてクリニックの外に飛び出して行った。マリアンヌ様がお叱りになったけど聞こえていないみたいにゃ。


「ごめんなさいね」


「いいえ、あの年頃なら仕方ないにゃ」


「ふふ、あのね、本当は私を助けてくれたのよ。二人で歩いていたらいきなりスライムが襲ってきたの。あの子ったら無傷で守りたかったのね」


 半透明の楕円形ボディでぽよんぽよん跳ねているスライムからはダメージをほとんど受けない。すり傷の方がよっぽど痛いにゃ。


「マリアンヌ様にいいとこ見せたかったにゃね」


「ふふ、そうね。今日はいい天気だわ、歌ってもいいかしら」


 クリニックにマリアンヌ様の天使の歌声が響く。

 空気が清められて、部屋の中なのに虹がかかる気がする。鳥たちが遊びに来て一緒に歌い出す。

 はあ、心が洗われるにゃあ。


 幸せな時間は、ピシャリと開いた扉の音で終わってしまった。

 くうう、同じ医者猫族でクリニックの主任であるジーニャ先輩にゃ。


「王妃様、ここはステージではありません。病院です。お静かに願います」


「ごめんなさい」


 あああ、マリアンヌ様が謝ることなんて何も無いのにゃああ! そんな悲しい顔しないで欲しいのにゃああ! でも先輩には逆らえにゃい。

 ジーニャ先輩はフォレストキャット村の出身で、フサフサの大きな耳とサラツヤの白い髪が特徴で、まあ、あたしよりちょっと美人にゃけど……イジワルで嫌いだにゃ。


「ミーニャ!」


 イヤな雰囲気をぶった切ったのは、外に飛び出して行ったレッドだったのにゃ。

 バーンと元気にドアを開けて、あたしに黄緑と白で出来たちょっと不恰好な輪っかを突きつけてきたにゃ。こ、これは、花冠にゃあ!


「われは、かしをつくらぬ。うけとるがよい!」


 もおおお!

 マリアンヌ様のために怪我をして、あたしのために無理して花冠を作ってくれるレッド!

 大好きにゃのにゃあ〜!!!


 浮かれた気持ちに水を差すように、急に天候が崩れた。今夜は嵐になりそうだにゃ。

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