第35話 外伝~空と空気の境目⑤~【完】

恋人に、駅まで迎えに来て貰った瑞野は。真壁と空井と別れ、彼と共に駅のホームを目指している最中。


「さっきの二人、友達?」


ちらりと、真壁と空井の姿を目撃していた恋人にそう尋ねられる。


「そう、友達! てか、女の子は万里だよ」


瑞野の言葉に、彼は“万里”が彼女の高校時代からの親友で。自分との交際を後押しする切っ掛けをくれた人物であることを思い出す。


「じゃあ、男の方は?」

「あの子は、万里の大学のお友達で。さっき、私も友達になったの。……あっ、大丈夫! 私との恋愛的なことは一切無いから!」


瑞野は、自分の彼女のことを狙っている男だったのではないか……と、懸念していた彼の心情を察したように言葉を続けてから。


「空井君は、私じゃなくて。万里のことが好きだから!」


そう強く言い切るのであった。


  ***


自宅アパートへと帰宅した空井は。自身の部屋ではなく、旭の部屋のチャイムを押した。


「陽太! アイス買って来たんだけど、一緒に食わね?」


インターホン越しの旭からの応答に、空井は明るい声でそう言う。すると、旭は小さく笑いながら。すぐに玄関の鍵と扉を開けるのだった。

それから、旭の部屋に入れて貰った空井はコンビニで買って来たアイスを二人で食べ始める。


「やっぱ、夏はアイスだよな~。まだ六月だってのに、もう暑くて溶けそうだし」

「確かに。東京の夏って、暑いよな……」

「陽太は雪国出身だから、余計に暑さが辛そうだよな~」


冗談混じりに、明るい声で空井は言った。

故郷で退屈な日々を送りながら、けれども狭い世界で満足していた空井が初めて得ることが出来た。生まれて初めての大切な友人なのだ……と、バニラの味を口の中に広げるアイスを味わいながら嚙み締める。


「そういえば、どうだったんだ?」

「ああ、合コン? いや~、もう最悪だったよ……高校の時の同級生居てさ、あと。真壁ちゃんも居た」

「えっ、なんで?」

「なんか、友達に頼まれたらしいよ。いつもと違って、スッゲーお洒落しててメッチャ美人だった!」


嬉しそうに語る空井に、旭は無表情で「ふーん」と相槌を打つ。


「あのさ、陽太」

「なんだ?」

「俺、好きな人出来た」


いつも通りの口調で、何気なく言った空井の一言に。旭は驚きの表情で、勢い良く彼を見た。


「陽太には、絶対一番最初に伝えるって決めてたんだ」


空井は旭の反応に、面白そうに笑いながら。


「陽太が先に、俺に陽太の好きな人教えてくれたからさ」


そう告げた。


「なあ、陽太……聞いてくれるか?」


少し照れ臭さと、気恥ずかしさを抱きながら。空井が旭に尋ねると、彼は戸惑いの表情から一変させて。穏やかで優しい笑みを浮かべ、頷くのであった。

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