第4話

午前の授業が終了した正午。

私と日向葵は、食堂にて昼食をとっていた。


「日向、今日もガッツリいくつもりなのね……」


私は日向が持ってきた盆に乗る、大盛りのカツ丼を見て脱力した声を出す。


「小食なんだから、そんな無理するなって」

「いや、今日は食べ切れる気がするんだ!」

「それ、昨日も聞いたから」


日向は男子にしては小柄で華奢な身体付きをしている。

本人がインドア派なのと、運動があまり得意で無いのが合わさり。さらに、体質的に筋肉も付き辛ければ脂肪も付きがたく。胃が小さいのか食欲は私よりも少ないという、女子としては大変羨ましい体質の持ち主であった。

けれど、本人はその全てがコンプレックスで。何とか少しでも、どこかしら大きくなろうと食事を多く取るのだ。

まあ、大体食べ切れなくて、私が毎回のように残飯処理をする羽目になっているが……。


「あっ、ヒナちゃんだ! ヤッホー!」


すると、日向に明るい声が掛けられる。

声の主は同学年でも顔の広い陽キャな男子であった。

……名前は覚えて無いけど、良く教室等で数人のグループが固まっている時に中心となっている人物である。

金に近い色の茶髪に染めて、メンズ系のファッション誌に載っていそうな今時の装いをした。オタである私にとって一番縁遠い男子だ。

そんな彼が、明るい笑顔と。そして、旭陽太を連れて私達の座るテーブルへとやって来る。


「隣良い?」

「って、もう座ってるじゃん」

「ああ! 確かに!」


言いながら、陽キャ男子は日向の隣……ではなく、一つ空けた隣の隣の席に座り。日向の横には、旭君が腰を降ろした。

日向の向かい側の席に座る私は、その様子を見て。


(よっしゃー! 陽キャナイスっ!!)


内心でガッツポーズと共に、陽キャに賞賛を送る。

旭君はイケメンモテ男だが、染髪をしたりチャラついたアクセサリーやファッションもしておらず。いつもシンプルな装いをしているため陽キャな彼と一緒にいる姿は良く目撃するが、何とも友人同士にしては趣味趣向の合わなそうな二人だなー……と思っていたが、案外そんな事もないのだろうか?

ぶっちゃけ、旭君のモテ具合のおこぼれにたかろうとしているハエか何かだという認識であったが。今の一連の動作だけで、私の彼への好感度はかなり上昇した。


「ヒナちゃん、見かけによらず結構食べるんだね~!」

「ヒナちゃんって呼ぶな! 別に良いだろう。どれくらい食べようが、俺の勝手だ」


日向は見かけのか弱さを気にしているので、かなり乱暴めな口調で話す。


「ねえねえ、真壁ちゃん!」


げっ、話し掛けてきやがったよ……私の事は壁かなんかだと思って放っておいてくれよ……。

男子が苦手な私は、心の中で悪態を吐きながら「はっ、はい?」と伺うように返事をする。


「ヒナちゃんって、いっつもこんな食べるの?」

「あー……まあ、見栄張って」

「ちょっ、真壁っ!!」

「本当のことじゃん」


本当は私より食べない癖に。


「華奢なの気にして、小食な癖にいつも多めに食べようとして。結局、食べ切れなくって私が尻拭いしてあげてるんだから」

「へぇ~、そうなんだ!」

「そう。けど今日は、食べ切れなくっても手伝ってやらないからね」

「ちょっ、何だよいきなり。今日は食べ切れる自信があるんだってば!」

「あー、はいはい~」

「オイっ!!」


日向の根拠のない自信に、私が呆れ混じりに生返事を返すと。彼はムスっとした表情を私に向けた。

けれど、既に六割程食べ終わった私に対し。日向はまだギリ半分くらいしか食が進んでおらず、今日の完食も絶望的だろうな……と、私は思う。


「日向」


すると、旭君がそっと日向を呼んだ。


「食えなかったら、俺が手伝う」


そして、優しい口調でそう告げる。


「ヒナちゃん! 陽太は結構食うから、安心して頼ってオッケーよ!」


陽キャこと、友人Aが言った。


「そうだね、旭君にお願いしなよ」


何ならこれからも末永く色々とさ……と、私は心の中だけで付け足す。


「だから、今日は食べられるんだって言ってるだろ!」


そう眉を吊り上げる日向に、私も含めて旭君も友人Aも。「あー、はいはい」「分かった分かった」という感じで、笑みを浮かべながら相槌を打つのであった。

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