第2章 妖精の羽ばたきで変わる未来

第18話 召喚獣の入手法

 召喚獣を手に入れる方法は、全部で3つ。もしかしたら俺が知らないだけで他の方法もあるのかもしれないが、あるかも分からない方法に思いを馳せても意味は無いだろう。逆に言えば、この3つの方法に関しては冒険者ギルドからのお墨付きがあるので確定情報と見て間違いない。


 まず1つ目。モンスターを倒すとそのモンスターのカードを手に入れる事がある……らしい。

 事前に『確定情報だ』と言っているにも関わらず語尾が怪しくなってしまったのは、実際にモンスタードロップで手に入れた人を俺が知らないからだ。それこそ、これまで何万とモンスターを狩っている俺でさえ1枚も出た試しが無い。

 要するに、冒険者ギルドからのお墨付きが無ければ都市伝説扱いされてもおかしく無い程のドロップ率なのである。


 続いて2つ目。他者との取引で手に入れる。

 これはお金さえあれば最も簡単確実な方法だが、愛玩程度にしか用途が無い召喚獣でもウン百万の値が付いたりする。その上、召喚獣と召喚術師には相性があるのだから下手したら宝の持ち腐れになりかねない。簡単確実ではあるが、大金持ちでもなければ使えない方法と言っていいだろう。



 つまり、この2つの方法はどちらも宛に出来たものではないので、俺が狙うべき方法は実質3つ目のみ。

 ドロップ・トレードと続いて最後の3つ目こそが庶民にとっての希望であり、或いは平等に見せ掛けた不平等。即ち……ガチャだ。



◇◇◇



 召喚術師との対戦を終えた俺は弥生さんから魔石の回収を済ませると真っ直ぐに家へと帰ってきていた。

 階層渡りの後に召喚術師とも戦っているので着くなりドッと疲れが押し寄せてくるが、それでも今は興奮が勝る。

 なにせ、俺の手元には階層渡りクラス3の魔石があるのだ。これさえあれば、恐らくは届く・・


(ハイクラスの魔石がもっと手に入り易くなればこんな苦労もしなくて済むんだけどなぁ。)


 クラス3の魔石は1個当たり5万~10万円程度であるが、勘違いしてはいけないのはこれは売値である事。魔石を購入しようとするなら、なんとこの5倍以上の金額になってしまうのだ。


 これだけ聞くと『いくらなんでも冒険者ギルドぼったくり過ぎじゃね?』と思うかもしれないが、そうとも限らない。

 需要に対して供給が追いついていないので、値段を上げる事で購入者を間引いている、らしいのだ。いや、それでもぼったくっている気はするが、実際にクラス3の魔石を供給できる冒険者なんてほんのひと握りなので、そう言われてしまえばぐうの音も出ない。


 中にはこの仲介マージンを嫌って自社で冒険者を雇っている民間企業もあったりする。俺も何度か誘われた事はある。魔石は自分で使いたいから断っているけども。

 自分で使いたいから・・・・・・・・・。そう、魔石には魔道具の電池として使用できる他にもう一つ、重要な使い道があった。



 魔石以外の荷物をそこらに放り投げると、室内に設置されている魔道具のスイッチを入れる。ウゥゥンと唸りをあげる鈍い音は盗聴防止の魔道具が起動した合図だ。

 安物なので効果範囲こそ限られているが、そもそも狭い室内なのでこれで十分。一人暮らしに過ぎたるハイスペックは必要ない。


(これで室内の様子が外部に漏れることは無くなった。)


 と言っても俺を監視している奴が居ると本気で疑っている訳では無い。そんなのは自惚れ以外の何物でもないだろう。

 ただ、魔道具を使えば容易に監視出来てしまえると言うのが問題なのだ。その不安を完全に拭えるのであれば、多少のリソースぐらい割いても痛くは無い。



 この瞬間をもっと味わっていたい気持ちと早く結果を見たい気持ち。相反する2つの感情を抱きながらも、俺は恋して止まない呪文を詠唱した。



召喚サモン!」


 掛け声に呼応するように目の前の空間がぐにゃりと歪んでいく。最低限の生活感しか存在しなかったリビングに、白と灰色を基調としたメカニカルな容器が出現したのだ。


 これこそがカードを所持していなくても召喚できるたった一つの例外。『ガチャ』と呼ばれているこの魔道具に一定量の魔石を捧げる事で召喚カードを含めた様々なアイテムを入手出来る。



(前回引いたのは何年前だったかな?)


 ガチャは引く回数を重ねるごとに次引くまでに必要な魔石の数が増えていく。その為、合計で何十回と引いている俺では次引くまでに数年分の魔石が必要だった。


 ここまでくると自分で引くよりも同量の魔石を他者に渡して代わりに引いてもらった方が試行回数は稼げるのだが、ガチャは引いた人と相性の良いカードが出易くなっている。

 であれば、ここまで来たならもう自分で引き当てた方が良いだろう。その結果であればどんな召喚カードが出ようとも納得出来る。

 それにやはり……この高揚を味わうなら自分で引いてこそである。



(っ! しまった、考え事してる間に召喚時間を過ぎちゃったか……。)


 空間が再度歪み、ガチャが呑み込まれていく。ガチャの召喚時間である10秒が過ぎてしまったのだ。


 ガチャはその召喚時間中に魔石を捧げないと自動的に召喚が解除されてしまう。10秒と言うと時間的には短いが、作業的には自身が所持している魔石を『捧げる』と念じるだけでいいので時間が足りなくなる事は無い。

 それに、召喚が解除されようとも再度召喚すればいいだけなのだから慌てる事なんて何も無い。


 だと言うのに……召喚術師と戦った時よりも、階層渡りに挑んだ時よりも緊張しているのが分かる。




「……ふぅ。」


 一度、落ち着こう。

 本当は分かっている。ガチャの召喚時間を過ぎてしまったのはウッカリではない。魔石を捧げてガチャを回して……良い物が出なかった時のことが怖いのだ。


 もしこれで良い物が出なかったら、また数年掛けて魔石を貯めないといけない……が、それよりも怖いのはレアが出てしまったら・・・・・・・・・・

 ガチャでは希少性の高いレアアイテムも排出されるのだが、その排出は何も良い事ばかりでは無い。一度レアが出てしまうとそれ以降、クラス1階層分の魔石が捧げられなくなってしまうのだ。俺の場合はクラス1の魔石がそれに該当する。



 クラス1の魔石が捧げられなくなると……流石にもうガチャを回すのは絶望的だろう。つまりレア排出と言うのは冒険者人生を賭けた一生に一度の大博打なのだ。

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