【短編集】そのガチャには鬼が棲む

矢矧草子

三題噺シリーズ

1.まず「ツングースカ大爆発」を調べるところからでした

1-1.環状線を走らせればとりあえず物語も走る

No.2235苦笑

No.2153環状線

No.9375ツングースカ大爆発


「ねえ、もし明日地球が終わるなら何する?」

「なにそれ?」

「なにって、よくあるじゃん! もしものやつ」

「いや、あるけどさ。現実味がわかんっていうか」

「なんでよ?」

「明日地球が終わるってどれくらいの信用度なの?」

「は?」

「昔さ、ノストラダムスの大予言があったわけじゃん?1999年7の月に人類が滅亡するとかさ。でもそんな予言的中しなかったわけじゃん?つまり、明日地球が終わるとか言われても、いまいち腑に落ちないというかね」

「いいじゃん! じゃあ、もう確実に地球終わるってことで! そうねー、じゃあちょうど24時間後。だから、明日の夜8時24分!」

「だとしたら次にさ、なんで明日しか時間ないの?」

「もー、うるさい! いいから! 何するの?」


 夜の環状線を走る俺たちは、いつも通り何気ない、どこの大学生でもするような会話に勤しんでいた。


「ごめん、やっぱ現実感がわかん。真弓はなにすんの?」

「私? 私はー、たっくんといっぱいチューするー」

「明日地球が終わるのに?」

「明日地球が終わっちゃうからこそじゃん! 最後にいーっぱいたっくんを味わうの!」

「もっとなんかさ、こう、普段できなかったこととかさ」

「はい! 私は言ったよ? 次、たっくんの番」


 まずいな。ふられてしまった。もう時間稼ぎは限界か。あとちょっとなんだけどな。あと少し時間が稼げれば。


「ねえ、ちゃんと考えてる?」

「え、あー、もちろん」

「なんか笑ってる?」

「え」

「なんかニヤニヤしてる。なに?」

「いや、これは。そう! 苦笑い。あまりに真弓の考えが、その、あれで」

「あれって何よ」

「あれは、あれじゃん」

「あー、また私のことバカにしてるー!」

「バカにはちょっとしかしてないよ?」

「もー! でもちょっとはバカにしてるんじゃん!」

「でもバカにされる会話を始めた真弓も悪いんじゃね?」

「あー! それさいてー」

「だって、なんかもうちょっとさ」

「ツングースカ大爆発」

「え?」

「ツングースカ大爆発。100年くらい前にロシアで起きた隕石爆発の事故。そういうのが突然発見されたら? 現実味わくでしょ?」

「あー。なるほど。たしかに」

「はい! うだうだしてないで! 早く答える!」

「うーん」

「…………」

「…………」

「たっくん?」

「…………」

「たっくん?」

「ちょっと、もうちょっと待って」

「そういえばさ、どこ向かってるの?」

「もうちょっと待ってって」

「えー、やだー、おしえてー!」

「……。千里浜」

「え、まだ結構かかるくない?」

「あと、30分くらいかな」

「何しに行くの?」

「ちょっとね」

「え、なにそれ」

「いいじゃん、大丈夫だから」

「なにが!?」

「千里浜だから」

「え、なにが大丈夫なの!?」

「だー、もう! ついてからにしようと思ったけど」

「なになに?」

「……。地球の最後の日な」

「え、うん」

「俺、真弓のこと」

「うん」

「殺すかも」

「え?」

「地球最後なら、犯罪を犯しても捕まらないし。で、最愛の人が死んでも、どうせすぐ俺も死ぬんだろ?」

「え、ちょっと」

「たぶん、俺、真弓が好きだ」

「……」

「だからこそ、俺の手で殺してみたい。最愛の人を自分の手で殺した時、どんな感情になるのか知りたい」

「……」

「なあ真弓?」

「……」

「つきあおう」

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