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しゃっ
彼女はまた、困った表情を浮かべながら、手を止めた。
「あ、ごめん。言いたくない事なら…」
私の言葉を、彼女は身振りで制し、鉛筆を持った手を動かし始める。
勢いを増してきたせいか、しとしと、と立てる音を変えた雨音は、何処かすすり泣きの様にも聴こえた。
『お父さんは、可愛い娘を望んでいたの。でも、私はそうじゃなかったから、お父さんは出て行っちゃった。もう、顔も憶えてない。記憶にあるのは、出て行った時の服装と、コインランドリーの、柔軟剤みたいな香りだけ』
『だから、出て行った時と同じ、七つ下がりの雨の時に、記憶の中の特徴と同じ人が、家の前に現れたら、雨宿りしませんかって、声をかけるの。もしかしたら、お父さんかもしれないから』
「お母さんとか、他の家族の方は…?」
『皆、この街から出て行った。でも、ここは、お父さんが残してくれた場所だから。私は、離れなくなかったの』
「…お父さんとは?結局、会えたの?」
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