第13話 お礼のお礼
「こ、こんにちは。」
陽葵は慌ててしまった様でうわずった変な声を出していた。
「こんにちは。この前はごめんね。急いでてちゃんと話できなくて。」
冬弥はそう答えると、目の前にはいつもの眼鏡、三つ編みの陽葵の姿が目に入ってきた。
「いいえ、いいんです。」
何かぎこちない感じで陽葵は答えた。
「で、今日はなにか?」
冬弥は首をかしげて陽葵の顔をのぞきこむようにして見ていた。
「あっ、この前のお礼をちゃんとしようと思って。」
「お礼なんて、そんなのいいよ。俺の方こそ本当に助かったよ、ありがとう。」
冬弥は大きく手を振った後、軽く頭を下げた。その後何故か会話が続かず、沈黙の時間が流れてしまうと、気まずく思った冬弥が切り出した。
「あっ、今日は学校やすみなの?」
「はい、今日はテスト休みなんです。」
「そうなんだ、そういえばテストどうだった?」
冬弥がそうたずねると、陽葵は少し難しい顔をして首を捻っていた。
(あれ、変なこと聞きちゃったかな?)
陽葵は少し考えた後、曖昧な感じで答えた。
「まあまあかな? いや、いつもよりよかっかかな?」
「そうなんだ、いつもよりよかったならよかったじやん。」
冬弥が合わせる様にそう言っている間も陽葵は首をかしげ続けてうつむき加減でいたが、急に顔を上げ言ってきた。
「まーもう終わったことは良しとして、それよりお礼させて下さい。」
「お礼って、俺がお礼に勉強みたのに、そのお礼って・・・。」
冬弥が言う様にもともと陽葵のテスト勉強をみたのは、鍵の件のお礼であったので、そのお礼となると何かお礼のループになりそうで変な感じであった。
「細かいことはいいじゃないですか。私着替えてかかますんで、この前のファミレスに行きましょう、わたしおごりますから。」
そう言うと陽葵は冬弥の返事も聞かずに部屋に戻って行ってしまった。
「ファミレスって・・・。」
冬弥は手に持っていたコンビニの袋を顔の高さまで上げ悲しそうな顔になっていた。
「好きなもの頼んでください!」
陽葵は張り切ってメニューを広げて見せていた。冬弥は差し出されたメニューを手に取ると、しばらく考えてからメニューの写真のひとつを指差した。
「じゃあ、これにしようかな。」
そして陽葵にメニューを返した。
「それじゃ私は・・・、うーん迷っちゃいますね。」
少しの間陽葵はメニューと格闘すると、冬弥がしたのと同じ様にメニューを指差していた。
「よし決めた。これにします。」
注文を終えると陽葵が聞いていた。
「冬弥さんも今日学校休みなんですか?」
冬弥は水をひと口飲んでから答えた。
「本当は今日も朝から授業あったんだけど、1限も2限も休講になって、休みみたいになっちゃたんだ。」
「そうだったんですか、通りで今朝は静かだなって思いましたよ。」
陽葵はイタズラっぽい顔をして言っていた。
「どう言う意味?」
冬弥は言葉の意味がわからなかった様で聞いた。
「だっていつも朝ドタバタドタバタ音聞こえてきてますから。」
「な、何それ? あのアパート、隣にそんなに音聞こえてるの?」
冬弥は驚いた感じで思わず陽葵の方に前のめりになっていた。
「ええ、でもその他の生活音は聞こえませんよ、だって私の部屋の音って冬弥さんの部屋に聞こえてますか?」
冬弥は斜め上に視線をやって考えた。
「確かに、音が気になったことなんてないや。」
「でしょ。だから冬弥さんの朝の準備の音が賑やかすぎるんですよ。」
陽葵は笑顔でそう言っていると、冬弥もややひきつった笑顔を見せていた。
「お待たせいたしました。」
しばらくすると店員がふたりの注文したものを運んできていた。
「わー、おいしそう。」
陽葵は待ちきれないように声を上げた。
「いただきます。」
「いただきます。」
間もなくしてふたりのテーブルに品物が並べ終わると、ふたりは声を揃えて言うと手を合わしていた。
「さあ遠慮しないで食べてください。」
今日は自分がおごるといっていた陽葵が冬弥に向かって少し鼻息荒く言っていた。
「それじゃ遠慮なく。」
冬弥はそう言って陽葵に軽く頭を下げてから、目の前の食べ物に手を付けたが、冬ひと口食べた後やはり何か申し訳ない気がして聞いた。
「でもおごってもらうのはやっぱり気が引けるな。」
陽葵はその言葉を聞いて口の中の食べ物を飲み込んでから笑顔で答えた。
「いいんですよ。そんなこと気にしないでどんどん食べてください。」
「でも、高校生におごってもらうってのも、それに陽葵さんひとり暮らしで仕送りとかしてもらってるお金でしょ。」
気にしないでくれと言われてもやはり冬弥は気になってしまっていたようで聞いたのだが、平然とした顔をして陽葵は答えていた。
「いいえ違います。仕送りはしてもらってません。私働いてるんで。」
「えっ、バイトしてるの?」
「まー、バイトみたいなもんです。今日もこの後仕事入ってるんで、夕方北条さんが迎えに来てくれます。北条さんって言うのはこの前車運転してくれた人です。」
陽葵はあっけらかんとした感じで答えていた。
「???」
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