第9話 さあ、勉強!

「お待たせしました。さあ行きましょう。」

 アパートの前で待っていた冬弥のもとに着替えを済ませた陽葵がやってきた。手には勉強道具一式が入っているであろう大きなバッグを持っていた。

「うん。」

(この子って何か・・・、なんだろう、どこかで・・・、いやそんなことはない。でもなんだろう。)

 冬弥はやってきた陽葵を見てうなずきながらそんなことを考えていると、急かす様に陽葵は言い、冬弥を追い越して小走りに進んで行ってしまった。

「どうしたんですか? 時間ないから、さあ早く!」

「ちょっと待ってください。」

 冬弥もすぐに陽葵の後を追いかけて走り始めると、前を行く陽葵が家から持ってきたバッグを重そうにさているのが見えた。冬弥は陽葵に追いつき、手を差し出しながら言った。

「バッグ持ちますよ。」

「すみません。」

「あっ!」

 陽葵は肩からバッグを外し冬弥に手渡そうとすると、バランスを崩してよろけてしまった。すぐに冬弥は手を伸ばして、陽葵を支えようとしたが、陽葵はバッグを地面に落としてしまい、ちょうどその上に腰掛けるような感じで尻もちをついてしまった。その拍子に陽菜の顔から眼鏡が外れてしまい、冬弥の足元に転がってきていた。      

 冬弥はそれを拾い陽葵に差し出していたが、何故か陽葵は顔を下に向けてうつむいたままでいて、差し出されていた眼鏡に気づかずに、両手で自分の顔を隠すようにしていた。それはまるで自分の素顔を見せないようにしているかのようであった。そんな陽葵を見て冬弥は、不思議に思いながら声を掛けた。

「どうしたの。はい眼鏡。」

 再度冬弥が眼鏡を差し出すと、ようやく陽葵は片手を冬弥の方に出してそれを受け取っていたが、もう片方の手はまだ自分の顔を隠すような感じにしながらうつむき加減のままでいた。陽葵は慌てながら眼鏡を片手で受け取り、下を向いたまま冬弥に礼を言っていた。

「ありがとうございます。」

(どうしたんだろう? 眼鏡外した顔見られたくないのかな・・・?)

「はい。じゃあそのバッグ俺が持っていくから。」

「あっ、ありがとうございます。」

 冬弥は地面に置かれてるバッグに手を掛け片手で持ち上げようとすると、予想以上の重さを感じ少しよろめいてしまった。

「えっ! ちょっとこれ何入ってるの?」

「勉強道具ですけど。」

 陽葵はしっかりと眼鏡をかけ直してから、不思議そうな表情を浮かべてそう答えていた。

「勉強道具って・・・? 学校のテスト勉強でしょ、教科書と辞書とノート、それに筆記用具ぐらいでいいんじゃないの。ほかに何入ってるの?」

 そう言われて陽葵は再びバッグを冬弥の手から引きずるように奪い取って中をのぞき込むようにしていた。

「何ってそんなもんですよ。えーと教科書、辞書、ノート、参考書、参考書、あと・・・、もうひとつ参考書。それに辞書もう1冊、それに・・・。」

「わかりました。もういいですよ。」

 冬弥はあきれた顔をして言っていたのだが、言われた陽葵は何故か笑顔でその言葉を聞いていた。



「私はお弁当食べてきたんで、軽く・・・、えーと、これにしようかな。」

 陽葵はデザートの写真がいくつもあるメニューを開いてその中のひとつを指差していた。ふたりは家からそれほど離れていない冬弥の実家へ向かうときに通った大通りにあるファミレスに来ていた。

「はいどうぞ!」

「ありがとう。」

「俺はこれで。」

 陽葵からメニューを渡されてると、すぐにそう言って冬弥はメニューをテーブルに置いた。

「ピンボーン!」

 陽葵がデーブルの上に置かれた呼び出しのベルを押すと、店内にその音が響いていた。店内は平日の夜ということもあって空席が目立って意外と静かな空間となっていて、勉強しに来ていたふたりにはいい環境の様だった。間も無くして店員がふたりの席にやってくると、それぞれ先ほど決めたものを注文をした。

「じゃあ早速始めましょう、お願いします。」

 注文が終わって店員がふたりの席から離れていくとすぐに陽葵がそう言っていたが、かねり前のめりになっていた陽葵をなだめるように冬弥は言っていた。

「食べてからでいいんじゃない。すぐに品物来るだろうから、初めてすぐに中断しても集中できないでしょ。」

「そうですか・・・。まあそう言われればそうですね。やっぱり集中してやらないと、時間もあまりないですからね。」

 素直に陽葵は冬弥の言うこと聞いて水をひと口飲んでいた。

「じゃあ、飲み物とってくるよ。何飲む?」

 冬夜はセットのドリンクを取りに行こうとして、陽葵に聞くと、陽葵は立ち上がりながら答えていた。

「私も行きます。」


 ふたりか席に戻ると、冬弥が言ったように注文した品物はすぐ運ばれてきた。

「いただきます。」

 冬弥はお腹がすいていたため、席に着くとすぐに食べ始めた。すると向かいに座っていた陽葵がパフェをほおばりながら冬弥のことをじっと見ていた。

「な、なんですか?」

 冬弥は視線を感じてそう聞くと、陽葵は笑顔で言ってきた。

「よっぽどお腹すいてたんですね。」

「うん。お昼学校で食べてから何も食べてないから・・・。」

「そうだったんですか。」

「すぐ食べちゃうから。ちょっと待っててね。」

 冬弥はそう言うと、再び自分お前のカレーライスにスプーンを運んでいた。

「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。私もこれ食べてますから。」

 陽葵もそう言い、ふた口目のパフェを口に運んでいた。

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