第7話 コウスケ、ベテル奉仕を断念する

 コウスケを凍り付かせた質問-「あなたは同性愛の傾向がありますか?」


 エホバの証人は、聖書をよく読んでいます。新世界訳という版を使っていますが、世間的には独自解釈の聖書と言われたりしているようです。が、言い回しが違うだけで内容は同じだと僕は思っているのですが。


 そして、その聖書の中では、同性愛はきっぱりと非とされています。同性愛行為、要は性的関係は悪とされています。異性間でも婚前交渉を非としているので理解は出来るのですが。


 高校を卒業し、正規開拓者になり、奉仕の僕として任命され、公開講演(日曜日の集会で45分に渡る聖書の話をする)もこなすようになっていました。

 こうなると次のステップとして、当時の若い男性信者は幾つかの進路がありました。


 ・必要の大きな所に任命される(海外を含む)

 ・ベテル奉仕

 ・宣教訓練学校(MTS)


 もちろん、地元の会衆で仕えることもありますが、独身男子はより動きやすいということで、これらの特権をとらえるように勧められました。(当時のお話なので現在は変更があるかもしれません)


 必要の大きな所とは、言い換えれば、エホバの証人の数が少なく、まだ宣教活動が十分になされていないところ。そういう所に引っ越しして、奉仕活動をしましょう、エホバの証人を増やしましょう、そんなイメージですね。


 宣教訓練学校、別名MTSは、宣教や他の信者をまとめる人として訓練を受け、勉強するところ。卒業後、地元に戻る人もいれば、必要の大きな所に任命されて異動することもあります。


 そして、ベテル奉仕。簡単に言うと、日本支部で働くことです。世界本部はニューヨークのブルックリンにあります。日本支部は神奈川県の海老名にあります。各地の会衆をまとめたり、宣教に使用する本や小冊子の印刷、製本、発送などを行っています。そこで24時間365日、エホバにお仕えする、という場所です。


 宗教の総本山に入る、と言うと、常にお経をあげているとか、お偉いさんにお仕えしている、そんなイメージですけど、たぶんベテルは違いますね。若い奉仕者に与えられる仕事は、掃除、食事係、製本、発送、等々、体力仕事と聞いていました。3食の食事はささっと食べきる。朝食の時には、短い聖書の研究があったはず。そして、他の信者と同じように、週に3回は集会に出席する。宣教活動にも携わる。シャワーをしたあとは、お風呂の壁に水滴がついていないように拭きあげてから出ないといけないので、また汗をかくなんて聞くほど、几帳面な場所です。


 一切、外の社会と遮断された世界だと思います。宣教中に会う家の人くらいじゃないでしょうか。テレビもほとんど見ないと思いますし。今はスマホやタブレットで好きに外と繋がれますが、どうしているのか疑問ではありますが。


 当時の僕は、次の段階として、このベテル奉仕を漠然と目標にしていました。まぁ、宣教活動が嫌いだったというのもあります。外で知らない人に聖書の話するよりも、ベテルで掃除や洗濯、食事、あるいは本を作る仕事をしている方が自分に合っているように思いました。


 そして、ある時、巡回監督に相談してみました。ベテル奉仕に興味がありますが、どのようにすればよろしいでしょうか。答えは、ベテル奉仕の申し込み書を渡してくれる、というものでした。当時、ええ顔が得意な僕は、とても霊的な、模範的な兄弟に見えていたはずです。自分で言うのもなんですけど。まぁ、世間知らずで外面はニコニコと良かったので自信はありました。


 この先の進路、もっと神にお仕えできる場所へ行くには、そしてみんなにチヤホヤされる道に行くには、これが最適だろうと思っていました。


 その申込用紙に目を通していき、辿り着いたのが、先ほどの文言。


「あなたは同性愛の傾向がありますか?」


 -がっつりあるやんけ!!


 そうですね。ベテルには多くの若者男子が集まります。女性の信者は、当時は結婚している人のみ。夫がベテル奉仕者でその妻のみ入ることができました。そして、若者男子の共同生活。神の家で同性愛行為が起これば、恐ろしいことになりますね。


 ここでようやく理解。同性愛行為をしたことはない。けど、その傾向があるだけで排除されるようになるんですよね。その時以来、急にエホバの証人を精力的に続ける気力が失われたように思います。今から思えば、行かなくて本当に良かったですけどね。

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