南相馬から仙台へ

 南相馬市はお世辞にも栄えてるとは言えない都市だった。

 上級階層はもちろん一人もいないし、中級階層もあまり住んでいない。

 大半が下級階層で、それぞれが協力し合いながら細々と高品質バイオ燃料になる米を栽培している場所だった。

 ただ、スラム街は無い。みんなで一緒に頑張ってる。いや、スラム街を作る余裕すらないのかもしれない。

 それでも仙台までの中継地点には違いなく、宿泊には困らなかったけどね。


「やっぱりしっかりしたガレージがないとV八を取り除くのは無理ね。ここにはV八みたいな巨大エンジンを釣り上げられるガレージがないわ。センダイまでエンジンを積んだまま走るしかないか」

「輸送期日までに間に合うかな。あと二日で届けないといけない。一応忠菱武器ソリューションに連絡しておくね」

「そうね、そうしておきましょ。コンテナは無傷だから融通効かせて欲しいわ」


 忠菱武器ソリューションに連絡した結果、残り期日を三日伸ばしてもらえることになった。直線距離であと六十キロ、一日二十キロ走れれば間に合う。荒地を走るとはいえ何とかなるな。


 一泊したあと南相馬市から発つ。

 全ての重量をインホイールモーターで賄うためかなりの負荷がインホイールモーターにかかる。熱がすごく発生するため核融合出力は抑えて徐行運転で走ることになった。


「センダイから帰る際にもなにか積みたいから、安いバイオディーゼルでも一時的に積もうかしら……」

「採算取れるの? エンジンから各種パーツまで、大改造しないといけなくない?」

「バイオ燃料で使う貴重な部分は連結しないでバイオディーゼルを積んじゃうわ、幸いエンジンルームは広いしね。クランクシャフトに動力回すだけなら重いしデカいけどやっすいやつがあるのよ。ミトに輸送するにしても長距離輸送になるから、余程安い仕事じゃない限り採算は取れると思う。エンジンルームがかなり汚れるけどね。どうせウツノミヤで綺麗に清掃するから問題ないわ。いつ戻れるかわからないけど」


 V八エンジンのパワーがないので荒れ地の走行に苦労したけど、仙台市が管理している道路に出たらすいすい動くようになった。おかげで期限内に余裕を持って到達できた。


「じゃあ積み荷を運んじゃいましょうか」


 そう言って仙台市にある忠菱武器ソリューションへの道を走る。


 仙台市は大きい道もあるけども、殆どが細い路地で、人がごった返しており、店も路地の中で乱立していた。

 看板はそこら辺じゅうに立ち並び、建物は違法増築されたかのように複雑に建設されている。まるで似非アジア圏を再現したかのようだ。

 ただ、活気があるのは確かだ。人の声が車の中まで響いてくる。ここら辺の中核都市なんだろうな。


 忠菱武器ソリューションにコンテナを持ち込んで受け渡し完了。

 長距離輸送な上にバッドランダーズに遭遇しても守り切ったということで結構な額が希ちゃんの口座に振り込まれた。割に合うかは、うーん。輸送実績を積んでまた輸送の仕事を請け負えるための仕事だからお金が目的ではない、そう考えよう。


 仙台市には大型ガレージがあるということなのでそこへ向かう。

 ガレージでエンジンを取り外して内部を綺麗にする。


「エンジンには貴重な金属が使われているから買い取り屋を呼んで売り払ったわよ。鉄くず扱いだったけどそれなりの値段で買い取ってくれたわ。センダイには芳賀技術研工業の支社と工場があるそうだから、そこにこの子を持ち込んでエンジンを積んでみる。帰りも輸送しないとね、空気を運んでもしょうがないわ」

「そうだね、空気はお金にならないからね。じゃあ、仙台市を歩いてみようか」


 芋洗い場のような人だかりの繁華街に突入する。違法増改築された建物を見て壊れないものなのかと思いつつまずは食事。肉まんを売っている店があったのでそこで肉まんを購入。中華料理に外れはない。何でだかは知らないけどね。


「ジュワッと肉汁が溢れて美味しいな、これ」

「うん。私ピザまんも頼んじゃお」


 肉まんでお腹を満たした後はビールで乾杯。屋台の生ぬるいビールを味わう。これはこれで美味しいんだ。仙台、結構美味しい店が多いなあ。カップ販売している日本酒もあったので購入して飲んだ。キリッとしていて香り高く、とても美味しかったよ。北の酒は美味しいね。


「ねえすごーい! ここは何でも売ってるわ! 武器に、サイバネパーツに、電子回路に! ここにあるごった煮の店舗全部見てみたい! ここはお宝の宝庫よ!」

「一応区画に分かれてる感じだから、何かを中心に見て回ることができるね。僕はサイバネパーツを見ようかな」

「私は勿論車のパーツと電子部品ね!芳賀技術研工業に行かなくてもバイオディーゼルエンジンを作れちゃうかもしれない!」


 希ちゃんは僕と離れて電気街に進んでいく。僕はサイバネ街に。美味しいパーツが埋もれているかもしれない。


 サイバネを見ているうちでも希ちゃんからテレパシーで声が飛んでくる。『キャー! アサルトロボットのCPU回路よ! こっちには破損した車の制御回路! これ買って制御能力多重化させようかしら』とても弾んだ声だ。散財しなければ良いんだけど……。


 僕は僕で左腕に仕込む銃の基礎パーツを見つけて購入してしまった。故障しているだけで悪いものではないと思う。僕の腕だとサブマシンガンが挿入できそうだ。ハイミドルのボディなので電磁力はかなり上げられるのではないだろうか。エタニディウスを実弾化して弾倉に流し込む装置でもあれば流し込んで無限に弾を撃てると思う。熱管理が大変そうだけど。

 エタニディウス部分は、いつ帰れるかわからないけど宇都宮で作ってもらえば良いだろう。上手く作れれば太ももに隠している電磁サブマシンガンを不要な物にできる。長い目で育てていこう。


『車のエンジンはどうなってる?』

『そんなの明日明日。今日は電子部品を買い漁るわー。センダイはジャンクパーツの宝庫ね! 帰りはジャンクパーツを運べば良いかも』


 そして翌日。


「希ちゃん、確かに良いパーツを目にしたら買うのは大事だと思う。でもこの量は何かなー?」

「いやー、そのー、どれも大事で選べなくてー」

「だからといって荷台いっぱいに入る量を買って良いわけないでしょ! 水戸に帰ったら修復して売りに出すよ」

「ええ、これは車の制御に使えるし、これは強化骨格のサーボモータになるし、これは……」

「だからって同じようなパーツを複数買って良いわけではなーい! 売るからね! エンジン資金には手をつけてないよね?」

「ギクゥ」


 はぁ……希ちゃんは目の前にお宝があると見境が無くなるんだよね。


 芳賀技術研工業の支社に行ってエンジンを探す。ある程度の出力が出るバイオディーゼルエンジンを見繕って、搭載。これで帰りも荷物を積んで帰ることが出来そうだ。

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