遺跡

 戦前の遺跡。それは第三次世界戦争以前に作られた施設のこと。第4次世界戦争と三度の企業紛争で荒廃しきった世界でも生き残っている施設のこと。

 それはただのスーパーマーケットの時もあるし、研究施設や今でも動く工場の時もある。出たとこ勝負だ。


「ねえねえ、今度サクラシの大規模稲作地帯を拡張するために森を焼くんだって。ちょっと遺跡探索してみない?」

「拡張か、バイオ燃料の産出量増やすのかな? 第三次世界戦争で東京がコロニー落下で海に沈んでから、宇都宮周辺が重要区域になったそうだし、研究所や工場も北に移転してるかもね」

「ウツノミヤまで海が来てるからねー、凄い衝撃だったんだろうねー。じゃあ遺跡探しに行ってみるってことで!」


 衝撃ってレベルじゃないと思うんだけどって思いながら準備をすることに。

 遺跡はセキュリティシステムや内部を徘徊しているモンスターがいるので、パルスアサルトライフルや希ちゃんが使う電磁サブマシンガンのマガジンは多めに持って行く。

 ピックアップトラックには数日分の食料と豊富な機関銃弾薬を。森を焼いてもモンスターが残っている可能性があるからね。機関銃の弾薬は重要だ。

 最後に前回稼いだお金を使って全周囲防弾処理を施しておいた。お金はすぐに飛んでいくなあ……。


「そして私のハンマーハンド! これで大体の工業的加工はこなせるようになったわ。サイバネ義腕に仕込んだハンドチェーンソーも、指先から展開するハンドツールも、テックスキャナーハンドもある! アナライズアイもライトアイも装備してて完璧! バーナーは涼介が出してくれるもんね」

「チェーンソーの燃料もね。永久機関を持った人間は本当不思議だよな。どんな物質でも作り出せる」


 永久機関が作り出す物体は、車の弾薬痕に吹きかけて綺麗に消したり、バーナーとして高熱で噴射させたり、何かの燃料にすることが出来るのだ。しかも永久機関が作り出すから実質無限に産出される。正式名称はわからないので物体Xと呼んでいる。僕の体を構成しているのも物体Xが元になっている。


 準備もすんだので、国が森を焼くまでのんびりと過ごし、森が焼かれたらフルスピードで焼かれた森に突っ込んでいった。


 まだまだ燃えた木などが残っている中をピックアップトラックがガンガン進んでいく。

 全周囲防弾処理を行っているからちょっとやそっとのことじゃあパンクもしないし、車体に傷もつかない。破損してもすぐに希ちゃんが直すしね。


「あ、道路を発見したわ。ナノマシンがまだ動いているのかもしれない。遺跡は近くにありそうね」


 ニューロリンクで機関銃と接続し、機関銃のカメラで全周囲を探りながら進んでいく。


「あー、あそこ、前方左かな、道路が繋がって建物が残ってる。大きな四本腕のゴリラが徘徊しているけど」

「機関銃で落とせるかしら?」

「目玉を潰せばどうと言うことはないよ」


 そういうわけで四本腕のゴリラを機関銃で撃つ。怒った四本腕のゴリラがこちらに向かってくる。


「げえ、機関銃の弾が効かない!」

「に、逃げるわよ!」

 ニトロを使い猛スピードで逃げる僕たち。四本腕のゴリラは途中で追うのをやめて、建物の近くへ戻っていった。


 どうしようかと悩む僕たち。

 接近すれば僕の近接攻撃で消し飛ばせることは間違いないのだが、ゴリラの生物的強さを舐めてはいけない。外したら反撃で死ぬ。


「やるしかないよ。遺跡を易々と見逃すわけにはいかない」

「私が機関銃で牽制するわね。絶対仕留めてよ」


 こうして簡単な作戦が始まった。


 希ちゃんが機関銃でゴリラに適当な弾丸を放つ。僕ほどニューロリンクが得意じゃないのでこんな物だろう。

 四本腕のゴリラが接近してくる。

 その懐に入り込むように僕が猛ダッシュで突っ込む。永久機関の出力が向上する。

 四本腕のゴリラは僕を潰すかのように腕を振り下ろす。


 その腕が途中で止まった。桜色の光線が舞う。


 僕の左手は左腕が折れ曲がって構造が見える状態になり、そこから物体Xが純粋なエネルギーとなって噴出していた。簡単なセイバーとでも言おうか。

 永久機関の出力はどんどん上昇し続ける。

 僕自身の身体能力も向上し、押し合いに負けなくなってくる。

 セイバーの出力も向上し、腕を溶かし始める。

 四本腕のゴリラは一旦下がって体勢を立て直そうとする。させるか。

 下がったのについていってセイバーを頭に突き立てる。心臓を狙いたいけど、モンスターの心臓はどこにあるかわからない。


 四本腕のゴリラは悲鳴を上げながら頭が消えていった。

 体は痙攣した後おとなしくなった。



 勝った。



 僕は左手を元に戻して息を整える。永久機関も出力を上げた状態で長時間行動すると過剰な負荷がかかるのだ。


「はぁ、はぁ」

「さすが涼介! よくやったわ。うーん、今日は車内で休もうか?」

「数時間で落ち着くから大丈夫。準備して中に入ろう」


 内部への扉は閉まっていたため、ニューロリンクから扉のコントロールをハックして開ける。これくらいのことは朝飯前だ。なんたってノイマン型と量子型をハイブリットしたバイオコンピュータなんだからね、僕の脳は。


 内部のセキュリティは動いていたため、僕の亜空間接続を使って遠隔ハックしながら進んでいく。亜空間接続なんてものを今の時代出来る存在は、僕と同年代に生きた生物や機械くらいだろう。


「私の出番がなーい」


 と希ちゃんは言うけれど、所々錆びていて動かないドアなんかがあって、そのときは希ちゃんの出番だ。ハンドツールとチェーンソーでごり押しで進んでいく。


 そして動いてる施設にたどり着いた。コンソールを叩いて情報を取り出していく。


「ここは研究機関と工場だったみたいだね、このぶら下がっている人型の袋、ここに永久機関を搭載して永久機関人間を作っていたみたいだよ」

「そうね、ネイティブすぎてあまり読めないけど記録からはそう読めるわ。ここが新型の体を作っていたみたいだし、作り替えたら? まだ工場部分は生き残ってるわ」

「まずはよく調べてからね。工場が誤作動を起こして僕がいなくなったら大変でしょう?」


 コンソールにもニューロハックが出来たのでハックする。ここのニューロ空間は階層構造になっていて、奥に進むほど情報がありそうだ。電脳トラップが一杯張り巡らされていて普通の人なら電脳死してしまいそうだな。トラップを解除しながら進んでいく。

 最奥には施設全体のコントロール権限があったのでセキュリティを解除してから工場の点検を命令する。――個別の改良装置ならまだ動かせそうだ。緊急停止も生きているし大丈夫だろう。


「大丈夫みたいだし、ちょっと行ってくるよ。バージョンアップとしか説明がないんだけど、どんな改造になるかな?」

「ご安全に!」


 個別の改良装置に入り、起動。永久機関の動作がほぼ止まって意識が失われる。


「……じょうぶ? 大丈夫!? エラーが出て止まったんだけど」


 希ちゃんの叫びにも近い声でたたき起こされる。


「ん、ああ。おはよう。特に異常はないよ。右腕に違和感があるかな。コンソールでどういう結果になったか見てみよう」


 コンソールを見ると、赤い文字でエラー! エラー! というサインが出ていた。エラーの原因を探ると……。


「自己進化型永久機関はこの工場では対応できません、だって。へえ、自己進化型なのか、僕の永久機関は」

「そんな重要なこと知らないで生活していたの!?」

「僕は元々は人間だったからね。知らないうちに永久機関の人間になっちゃったんだよ。説明もなしに一〇〇年眠っちゃったし。結構知らないことが多いんだ」


 それでコンソールで交換できたことを調べると、

 両指にエタニディウスフィラメントワイヤー。

 右腕に超高速エタニディウス速射砲。

 全身に皮下装甲。

 身体能力向上。


「以上。ここは軍事用との施設だったのかな。完璧に軍事用途の装備だよ」

「エタニディウスって物体Xの名称なのかな」

「おそらくそうだろうね。変な名前」

「ちょっと試し撃ちとかしてみようよ。いざというときに使い方わからないと意味ないし」


 というわけで使ってみる、マニュアルは頭の中にインストールされているようだ。


「まずはエタニディスフィラメントワイヤーから。これはどうやらナノサイズの繊維を出してピアノ線のように使えるみたい。極めて細いから切断もできるようだね。太さが変えられるし手首を外して発射も出来るみたいだから、太くしてグラップルワイヤーみたいなこともできるっぽい」

 そういってエタニディスフィラメントワイヤーをしならせて近くにあった手すりを切断した。戦前の安全器具だというのに。凄い鋭さだ。


「超高速エタニディウス速射砲は右腕に搭載された速射砲みたい。ここで撃つのはまずいから外で撃とうね」


 そう言って外で試射する。

 威力は化け物級で、着弾した地点にクレーターが出来た。


「つ、強すぎる……」

「威力調整頑張るよ……。でも市街地では使えないかもね、威力が凄すぎて僕の犯行ってすぐにわかっちゃう」


 かなり強くなった僕。これだけ強くなったらいけるのかなあ。正田愛理のところへ。

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