いざ憧れへ

 冒険の後、私服を手にすることができた日から数日後。涼しい空気が私を包むように窓から入ってくる金曜日。ハンガーには私服と半袖の白いセーラー服が並んでいた。今日は夕方まで1人であることが分かっていたため、夏服の配達もこの日に指定していたのだ。まだ、ウィッグやメイクはもちろん、肌着、下着など服以外はなにもそろえられていない為、ただ着るだけだが今はそれでよかった。それでもイイと思えた。……まぁ現実的な話をすると、金銭的事情と保管方法に余裕がないというところだが。

 とにかくこの日は月と顔を合わせるまでのほぼ1日好きな服を着て過ごすと決めていたのだ。初めに持ったのは私服の方だった。やはりこの人生を歩もうと決め始めたきっかけ、憧れを少しでも味わっておきたかった。


「いつかはこんな服を着て街を歩いて、遊んで、買い物して。」


 その時には友達もいたらいいな、なんて夢物語を想像しつつ、今の自分の年齢や実家暮らし等がちらつき、せっかくのテンションを自分で下げてしまった事に自分を叱りながら手に取りなおす。スカートはウエストの調整方法がないものだったから不安だったが、何とかずり落ちることもなく履くことができた。今まで女性の肌着を見るようなことはなかった者でもブラウスをTシャツのように着るのは違うというのは分かった(そういうものもあるかもしれないが)。ここで、キャミソールがないことを後悔したが、普段着ている白い肌Tシャツの上の着ることにした。

 甘かった。試着は難しくとも胸に当てて大体のサイズは見たはずだったが、甘かった。またしても袖丈が足りない。さらには腕周りもキツく感じた。先駆者のアドバイスの1つに腕周りに注意するようあったことは覚えていた。とはいえ、袖丈はともかく腕周りは試着するほか確認するには難しいものであった。

 こればかりは仕方ない。そう自分を慰める。ウィッグもメイク系も揃えた時にとびっきりお気に入りの私服を見つけておいて着るようにしよう、そう思った。ということで、次は夏服に手をかける。こちらについてはオークションの詳細でサイズを念入りに確認した。腕周り以外は問題ないはず……

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