3

 学校へ走ってそのまま理科室に向かう。


 先生たちが朝礼中のいまがチャンスだ。


 理科室廊下側の下、前から三番目の引き戸を揺らす。カチリと音がして鍵が外れる。戸を引いて、なかへ潜りこむ。


 「フウ、どう?」

 て、廊下で見張っているハルカに、


 「いない、」

 「やっぱり、ね」


 黒板のよこ、ガラス戸の標本棚にはしっかり南京錠がかかっている。いつも通り、開けた形跡だってない。


 それなのに、


 何十年と児童を見守ってきた人骨標本 ベティちゃんの姿は、そこにない。


 「と、ゆうことはっ、」

 「教室だ」




 教室にまわり、ヤンの姿がまだないのを確認する。


 ヤンはいつも朝一番にきてる。

 いつもならもうきてる。


 預かりものだけまりちゃんに渡し、ランドセルを放りだして教室をとびだす。少しでも軽い方がいい。


 「どうしたの、朝の会はじまるよ!」

 廊下で担任 梅ちゃんとすれ違うけどごめんなさい!

 うしろから「きょう、休みます」て、ハルカの声と「き、き、緊急事態です!」て、シュウの忙しない言い訳が追いかけてきた。

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