一難去ってまた一難! 純白のユニコーンと漆黒の女

 さて、戦場はある意味死屍累々の様相を呈してしまった。恍惚顔を浮かべて眠る女性たちの中に一人、全裸男だけが、電マ片手に肩をすくめていた。


 「はぁ……なんだか疲れた……」


 体力というより気分の問題である。一般男子高校生にはあまりにも直截的ちょくせつてきかつ刺激が強すぎる求愛行動の連続をくぐり抜けたのだ。精神的疲弊も無理はない。


 (とりあえず、服を着たいな。さすがに全裸のままはイヤだ。だけど皆を置いて行っていいのかな? 良くはないよなぁ。じゃ、このまま皆が起きるまで全裸? この広い大空の下で? うぅ、イヤ過ぎる……)


 と、伝馬は一人葛藤し悩んでいると、


 「テンマ~~~~!」


 遠くからイジュの声。イジュがテンマの方へと走ってくる。


 「あ、イジュ!」


 伝馬はイジュが服を持ってきてくれることを期待したが、残念ながらその手には愛用の杖以外なにも握られていない。子供にそこまでの機転は期待できないものだ。


 「テンマ! あのね……」


 イジュは伝馬の側へと来ると、にこにこ笑いながら言った。


 「私、テンマにお別れを言いに来たの!」


 「えっ……」


 予想外の台詞に伝馬は困惑を隠せない。


 「私ね、わかったの。このままじゃテンマを私のものにできないって。だから決めたの。私、もっと強くなるって! もっと強くなって、ネリネからテンマを奪って見せる! テンマを独占できるほど強くなって帰ってくるから、それまで待っててね!」


 ついさっき似たようなことをシオンから聞いたばかりだ。そう語るイジュはどこか大人びていて、まっすぐに伝馬を見つめる目には伝馬の知らない奇妙な光があった。


 「え? え? え? え?」


 混乱する伝馬。


 「それってどういう――」


 詳しい話を聞きだそうとしたそのとき、伝馬の目に、イジュの背後から何かが近づいてくるのが見えた。速い。地上を土煙を上げ、あっと言う間にもう目の前。


 「はッ!」


 と伝馬が思った時、イジュはもう伝馬の目の前にいなかった。

 イジュは伝馬の頭上にいた。陽光をバックにそいつはいた。頭上、颯爽と跳躍する一匹の白い馬。角がある。ユニコーンだ。輝くたてがみの後ろには黒い仮面とローブの怪しい人物。イジュはその黒ずくめの人物の腕の中にいた。


 パカラッ……!


 蹄響かせ、伝馬の後方約十メートルほど先にユニコーンが着地した。伝馬は振り返り、油断なく電マを構えた。股間を気にしている余裕なんてなかった。おかげで下半身のヤシの木と二つの実がぶーらぶら。

 全裸に電マという伝馬の姿は実に愉快だが、反して緊張は高まりつつある。突如現れた謎の黒ずくめとイジュの不可解な言動に、伝馬の嫌な予感は止まらない。


 「イジュ、ちゃんとお別れは言ったかい?」


 黒ずくめが言った。女の声だった。やや低めの芯のある声。


 「うん、ちゃんと言ったよ!」


 「そう、偉いね」


 そう言うと、今度は伝馬の方を向いて、


 「テンマ、このコは私が預かる」


 断定口調であり『黙って私の決定に従え』そんな上から目線の威圧的ニュアンスを含んだ言い方だった。下のユニコーンも真っ白な歯と真っピンクな歯茎を剥き出しにし、伝馬を見下すように笑っている。


 「預かるって……あなた、一体何者なんですか? イジュをどこへ連れて行くんですか?」


 「闇の魔術の信奉者、といえば納得するか?」


 闇の魔術の信奉者、それすなわち闇堕ち。伝馬の嫌な予感は見事的中してしまった。


 「闇堕ち……! イジュを返せッ!」


 電マを構え、新たな闇堕ち、黒ずくめへと突撃する伝馬。

 黒ずくめは馬蹄を返すと、伝馬に背を向けてユニコーンを走らせた。ユニコーンの蹴り上げた砂が、伝馬を襲う。


 「ぶはっ! ぺっぺっぺっ……」


 さらにユニコーンは、


 「ブッヒヒーン! ブルヒヒヒーン! ブルル、ブルヒヒヒーン!!」


 高らかにいななきながら、


 ブモッ! ブリッ! ビチッ! ビチチチッ!! ブブブブッッブッチチチブリブリ!!!


「うぎゃーーーー!!!」


 大放屁とともに大脱糞!


 よく走りながらそんなことができるものだ。これもユニコーンという神獣の為せる技か。


 その後ろを追う伝馬はたまったもんじゃない。モロに浴びてしまった。たかが『おなら』と『うんち』と思うなかれ。『おなら』と『うんち』は言い換えれば『毒ガス』であり『毒物』である。これも立派な細菌兵器であり化学兵器である。時と場所によっては戦争犯罪モノである。


 (なにがユニコーンだ! これじゃウンコーンだよ! あの畜生め! 馬刺しにしてくれる!)


 さすがの伝馬もブチギレだ。ガスにまかれ、汚物に塗れ、彼の硬い堪忍袋は緒どころか袋ごと爆発四散した。かの邪智暴虐の文字通りクソ畜生を叩きのめさなければ気が済まない。


 「待ちやがれこのヤロー!!」


 アウトレイジのばりの啖呵たんかを切って走る汚物まみれの全裸電マ少年。※一応お断り申し上げますが、当作品はスカ○ロでアダルトな作品ではございません。


 スカ○ロ食らっても伝馬は怯まず、電マを使った跳躍で黒ずくめの後を追う。ユニコーンは速いが、伝馬の電マも伊達だてじゃない。徐々に距離を縮めてゆく。


 「流石だな。の勇者よ。ならば、これでどうだ?」


 黒ずくめは右手を高々と空へ掲げ、指をパッチンと鳴らした。指先から飛び散った火花が地面へと落ちた。すると、何体もの骸骨兵士スケルトンが雨後の竹の子のごとく地中から這いずり出て、伝馬の前に立ち塞がった。


 「な、なんだこいつら……!?」


 伝馬は嫌な顔をした。伝馬はホラーが苦手なのだ。汚物まみれの全裸電マ少年VS.骸骨兵士軍団。新ジャンルスカトロホラーAVの撮影ではない。状況は異様だが、これはれっきとした命がけの戦いなのであり、当の汚物まみれ全裸電マ少年はいたって真面目だ。


 「からからから……」


 「かくかくかく……」


 「かちかちかち……」


 骸骨兵士たちは骨と歯の鳴らして奇妙な音を発した。かつては眼球のあった部分に怪しい光を湛えた生ける屍たちがまるで笑っているようだ。いよいよ伝馬は不気味と嫌悪と恐怖を覚えた。


 瞬間、骸骨兵士たちは一斉に伝馬へと襲いかかってきた。


 (うぇ~、気味が悪い! でも、ビビッてる場合じゃない! 早くイジュを助けないと!)


 襲い来る骸骨兵士たちの中に、伝馬は電マで突っ込んでいった。


 ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!


 「からからから……!」


 「かくかくかく……!」


 「かちかちかち……!」


 骸骨兵士たちはなぜか先程より一オクターブ高い音を発し、バラバラなって地面に転がった。中には骨が砕けるやつもいた。腐っていたのか、それともカルシウム不足だったのか、とにかくあっけない。


 (こいつら思ったより弱い! 気味が悪いけど全然弱いぞ! 弱いけど、だけど……!)


 伝馬は次々と骸骨兵士たちを電マで薙ぎ払っていった。骸骨兵士たちは電マにほんの少しでも触れられただけで昇天。ほんのり頬骨がピンクに染まって散ってゆく。

 たしかに弱い、しかし、数が減らない。それは機械がネジを作るように、黒ずくめが次々と新たな骸骨兵士をポコポコ生んでいるから。


 (多すぎるッ!! まずいぞ! このままじゃ……! まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい………………!!!)


 伝馬と黒ずくめの距離が次第に離れてゆく。どんどん離されゆく。ぐんぐん離されてゆく。骸骨兵士のせいで伝馬跳躍の頻度は減り、適切なタイミングも遅れるせいだ。


 (こうなったら……!)


 伝馬は屈み、勢いよく地面へと電マを叩きつけた。


 ヴヴヴヴヴイイイィィ~~~~~~ンンンンンン……………!!!!


 地面に電マを押し付けることで、地面を通して間接的に電マの振動を敵へと食らわせる作戦だ、


 が、


 「あっ……!」


 地面が波打ち、砕ける骸骨兵士たちの先で、ユニコーンが大跳躍しているのを伝馬は見た。つまり黒ずくめたちは空中にある。空中では、電マの振動は届かない。


 「勘違いするなよ、テンマ。これは誘拐じゃないんだ。これはイジュの意志なんだ。わかったら、クソ塗れになりながら全裸で女性を追っかけるなんて非常識かつ恥知らずで異常性癖で変態的な真似はやめて、大人しくノびてるヤツらとスカ○ロ乳繰り合っとけ。あははは」


 はるか遠くから伝馬を嘲笑しながら黒ずくめは更に加速。あっという間に見えなくなってゆく。


 「くっ……」


 既に黒ずくめは電マの射程外。焦る伝馬。伝馬は電マ跳躍をしようとした。しかし止めた。地平線へ朧気な影となって消えてゆく黒ずくめの姿を見た。次の瞬間にはもう黒ずくめの影も形もなかった。


 ぽつんと残された全裸の電マ少年。黒ずくめに逃げられ、イジュを連れ去られ、汗と土とスカ○ロい汚れたその姿は酷く無惨で無様だった。


 「くそっ、なんなんだよ……」


 珍しく悪態をつく伝馬。文字通り死屍累々の中、鳴り響く電マを止めるのも忘れて、イジュの消えた彼方を悔しさと哀れさで泣きそうな顔でいつまでも見つめていた。


 ヴヴヴ……。

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