第11話 2/2 王様? 友達だけど?

読む前に読んでいただきたい物にも書いた、地球で存在している地域の名前が入った食べ物や動物、特定の国の料理名で出します。と、ある様に、それっぽい物が出て行きます。


――


 アスターの愚痴を聞いた後は客間に案内され、教師用の寮を吹っ飛ばした事が頭の隅から離れなかったが、とりあえず城内って付加価値の付いた部屋を探索する。

「ココとココ、あー、あそこにもあるな」

 そして覗き穴を見つけだし、つま先で床を少し強めにつついて音の確認をする。

「空洞はないみたいだね。けど天井の模様に偽装して、ベッドとテーブルの上に穴が……」

「あるなぁ……。覗き専用の部屋かと疑いたくなる」

「一応お城だから仕方ない。で片づけられないよねー。あ、天井に誰か入ってきた」

 俺はため息を付き、【魔法】で出した矢をコンパウンドボウにつがえて耳を澄まし、わずかにする足音に集中する。多分中腰で気配を殺して歩いてる感じかな?

 そして止まった場所の真下に行き、コンパウンドボウを覗き穴に向けてニヤニヤする。

「なぁ、矢が天井を抜けるか試して良いと思うか?」

 そして弦を引き、穴のある場所を見つめるが、多分音の気配的に目が合ってると思う。

「良いと思うよ。殺さなければ良いってお墨付きもらってるし、覗いてたクソ共が苦情を言ってくると思わないし。お腹なら死ぬまでに時間がかかるから、城内なら治療なり回復魔法使いがいるでしょ」

 脅すって意味合いでも、可愛い女の子がクソとか言うもんじゃありません!

「同感だ。今から独り言を言った後に十数える。それまでに立ち上がる気配がない場合はこのまま射るぞ。仲間にも伝えておけ。じゅう、きゅう、は――」

 そこまで数えると、音も気にせずにガタガタと音がし、最初に音がした方に気配が戻っていった。

「また来ると思うか?」

「隣に来るんじゃない? あ、これ鳴らしたかったんだ」

 そしてプルメリアは呼び鈴を持ち、リリリンと高めの心地よい音を鳴らしてテーブルに戻したが、俺は窓を開けてレイブンを呼んで部屋に入れようとした。

「お呼びでしょうか?」

 そして直ぐにメイドさんが入ってきた。廊下で待機してた? 気配もなかったけど、この人やり手かな?

「お茶が飲みたいんで、お願いしても良いですか?」

「かしこまりました。今ご用意いたします」

 メイドさんは一礼をして、部屋から出ていった。足音もなく。その後にレイブンが窓枠に一回停まり、椅子の背もたれに移動した。

「……足音しなかったね」

「メイドに偽装するなら、普段からの癖はどうにかしないとな」

『何があったんだ?』

「足音を素で消して歩いてるメイドが、呼んだら来た」

『獣みてぇな奴だな』

 そんな事を言いながら椅子に座ってお茶を待つが、二分くらいでワゴンを押してくる音が聞こえ、ドアがノックされた。

「はい。どうぞ」

 そして返事をすると、先ほどのメイドさんが部屋に入ってきて、お茶を注いで一礼をして出て行った。今度は足音を出しながら。

「聞こえてたみたいだね」

「あぁ。耳も良いらしい。多分裏の方の部隊か何かの人じゃないか? 存在は知ってるけど、内情は知らないんだよなぁ」

 そしてお茶に口を付ける前に香りを嗅ぎ、小指で少しカップの中に指を入れ、舌の上に乗せて味を確かめたり、持ち上げて縁をよく観察した。

「異物混入はなさそうだ。無味無臭だったらどうしようもないけどな」

「その時は私の命と引き替えに、この城を瓦礫がれきにするね」

「頼むわ。一応解毒できるけど、複合毒だと怖いし面倒だなぁ。ってか、命と引き替えにしなくてもできそう」

 そう言いながら頭に停まっているレイブンにクッキーを四分の一を渡し、カップに口を付ける。

「クソ。覗きの対象なのに、美味いお茶を出すのか。一応客扱いになってるのか?」

「美味しいんだから文句言わないの。素直にこの状況を楽しもう?」

「そうだな。ってか頭に食べカス落とすなよ」

 俺はレイブンがいるのに気にせず頭を下げ、食べカスを一応テーブルに落としてから隅に寄せておいた。


「美味いんだよなぁ……」

 夕食が運ばれてきて、毒とか気にせずに行儀良く食べつつ、レイブン用に細切れにした副菜の皿に色々乗せて、椅子の前に出してやる。

『うめー。卵の黄身や唐揚げよりうめー』

「お城の食事をそんなのと一緒にしたら、作った人が泣いちゃうぞー?」

「そうだな。カラスってのは雑食だけど、好みが分かれるからな。どれが美味かった?」

『肉』

「たまに野生のカラスって、その辺で死んでる動物の死体とか漁ってるもんね」

「食事中だぞ?」

 俺はため息を吐きながらフォークとナイフを皿の上に置き、ナプキンで口元を拭いてからレイブンの口も綺麗にしてやる。

『なんか隣が騒がしいけど、なんかやってんのか?』

「あそことあそこに覗き穴があって、たまにこっちを見てるんだよ。だからその時に物音が聞こえるんだ」

『行儀悪いな。脅かさねぇのか?』

「さっき叩いて確認したけど、厚さはこのテーブルくらいある。だと抜けない」

「もう諦めてるね。夜中に来たら……。ねぇ?」

 プルメリアは優しく微笑みながら、テーブル越しに俺の手に指を絡めてきた。わかりやすい誘い方だ。

「本気か? たまに覗かれてるんだぞ? 今も覗かれてるけど」

「だから見せつけてやろうって事になってたじゃん?」

「……俺は嫌だね」

 そう言いながら呼び鈴を鳴らし、食器を下げてもらおうと思った。

「入浴の準備ができております。お二人で入りますか?」

「いいえ」「はい」

「はい!」

 二人の声が重なり、その後でもう一度プルメリアが少し大きな声で返事をして押し切られた。


「んっふっふっ。お兄ちゃんと初お風呂ですなぁ……」

 プルメリアはオッサンの様に嫌らしく笑い、どんどん服を脱ぎ始めている。

「レイブンもいるけどな。あと百歳くらいの時に、何回も一緒に入っただろ」

 俺も気にせず服を脱ぎ、畳んで棚に置いていく。着替えがないからね。

 プルメリアは全裸になってから、畳んで同じように棚に置いた。なんだかんだで勢いで脱ぎ捨てておくって事はない様だ。

「動物は数に入らない。あと子供の頃は別ですぅー」

『人型の裸を見ても、何とも思わない』

 プルメリアが唇をとがらせ、拗ねた感じで言うが、レイブンが冷静に返している。

「繁殖期は春だっけ? 今頃は野生の番つがいの雛が育つ頃だなぁ。その辺はどうなん?」

『よっぽどの事がないと、もう野生には戻れないな。飯が美味いから』

 そんな事を言いながら俺の頭に乗り一緒に浴室に入るが、三メートル四方の一段低くなっている、温泉の内湯みたいな掛け流しで、常に適温のお湯が張ってある状態だった。

「物語とかにある、ライオンみたいな奴の口からダバーしてなくて良かったー」

「そうだな。来客用ならこれでも十分だろ。ってか仁王立すんな」

 プルメリアは湯船の方を見ながら、仁王立ちで立っていた。俺に尻を向けて。

「そのまま飛び込むなよ?」

「ないない。そんな事しないから。うむ。蛇口やシャワーの魔道具も当たり前の様にあるね。開発者に感謝感謝。加工するのにちょっと手間だし魔道具自体が高いから、なかなか普及しないんだよね」

 そしてプルメリアは桶を三つ取り、二個俺に渡してきた。

「レイブン用って良くわかったな」

「前に話してたでしょ」

「話したっけ? まぁいいや」

 俺は金で装飾された蛇口を捻り、適温のお湯を出して桶に溜めて横に置くと、頭から桶の縁にレイブンが降りてクチバシを突っ込んでからお湯に入った。

 一応温度を確かめたんだろうか?

『あ゛~。いいねぇ』

 オッサンみたいな声を出しているが、俺も人の事は言えないので黙っている。けど、声が理解できない人でも、なんとなく言ってる事がわかりそうな鳴き声になってると思う。

 俺はやっぱり金で装飾されたシャワーヘッドで全身を濡らし、洗髪剤で髪を洗い始める。

「そう言えばお兄ちゃんって、髪綺麗だよね」

「あぁ。毛先には回復魔法とか使ってるし、ガジガジ洗うのは頭皮だけで、あとは手の平で優しく洗ってるぞ?」

 ポニーテールにしているから、下ろしたら肩胛骨の下くらいになるし。学校にいる女性徒の半数よりは長いかもしれない。

 ヒースとマリーナ。こけしちゃんや肉屋ちゃんより長いのは確かだ。ツーブロックで側面はないけど。

「プルメリアは、結構乱暴に洗うよなー」

「何したって痛まないし。毛先が地面に付いてた頃ならボロボロだったけど、今なら枝毛すら見ないかなー」

 横を見るとワシャワシャ勢いよく洗っている。髪の短い男みたいな洗い方だなぁ。ってか腋が綺麗だな……。

 洗髪後は体を洗って湯船に浸かるが、やっぱりオッサンみたいな声が出た。

「オッサンみたい」『オッサンだな』

「オッサンみたいに髪と体を洗う女と、オッサンみたいな声を出す鳥には言われたくない」

 俺は頭にタオルを乗せ、風呂の縁に肘を乗せて魂の声が漏れだしたので目をつぶると、プルメリアが背中を預けるように俺に寄りかかってきた。股間は反応していない、なので個人的には問題ない。

「十分広いだろうが。なんで俺の股の間に座るんだ?」

「子供の頃みたいにね? ちょっと……」

「今のプルメリアがやると、イチャイチャしたいとしか思えないな」

 いや、甘えたいだけかも? まぁ城内だから控えるけど。

「揉んでも良いよ」

「揉むほどないだろ」

 そう言ったら胸板に後頭部をぶつけてきた。ちょっと痛かった。

「お兄ちゃんのだって、握れるほど太くないし長くないでしょ」

「俺のを初めて見た時に、フランクフルトだとか、細いズッキーニとか言ってたくせに」

「あー……。記憶にございません」

 政治家みたいな事言うなよ……。

「私は記憶しております。根本から両手で握ると同じくらい? とか――」

「胸に手を当てるとか、さするとか、摘むとか色々やりようはあるでしょ!」

 遮られたし、なかった事にしやがった……。女性の手幅の平均ってどのくらいだったっけ? まぁ前世より……。止めておこう。今は今だ。

「これで我慢してくれ」

 俺はお腹の辺りに腕を回し、少し抱き寄せる様にした。

「ってか、湯船に髪を入れるな」

 俺は腕をお腹から戻し、タオルを絞ってプルメリアの肩に乗せ、湯船に漂っている髪を纏めてからかるく丸める様に団子にして、崩れないようにタオルで巻いた。

「手慣れてるねー。ほかの女の人にもしちゃってたー?」

 なんかニヤニヤしてそう。嫉妬したりはないのかな?

「俺の髪の毛の長さって知ってる?」

 そう言ってからもう一度プルメリアのお腹に手を回し、少しだけのんびりとしようとした。

『クソエルフ。お湯が冷めたぞ』

 レイブンにぶちこわされた。

「良い雰囲気をぶちこわすな、クソカラス」

『人型の事情なんか知ねぇよ』

 仕方がないので湯船の近くにあった桶を湯船に沈め、縁に置いてやるとそっちにレイブンが移った。

『良いねぇ。凄く良い』

 レイブンは気持ちよさそうに目をつぶり、クチバシで胴の辺りをグシグシやっている。俺はなんとなく手でお湯を掬い、頭にかけてなでてやる。

『お、俺も頭を洗えってか。こいつは気持ち良いな! また機会があったらやってくれ』

「はいはい。のぼせる前に出ろよ」

 ってか俺以外にも、結構転生とか転移してきてる奴はいるんだろうなぁ。風呂文化とか他に比べると馬鹿みたく近代寄りで、日本人好みの作りをしているし。ってか装飾過多な狭い銭湯だよな、これ。


「ふむ。服はそのままで、バスローブが用意されている」

「気配はなかったから、さっきのメイドさんかもね」

「多分置いただけだろ。服にさわったら落ちる様に置いた髪の毛が、そのままになってるし。ってかあのメイドさんなら、それにも気が付くだろうな」

 俺達は浴室から出て、全裸で体を用意されたタオルで拭きながらそんな事を話しつつ、テーブルに置かれた薄いレモンと氷が浮いているグラスを見る。

「サービスも良いしな」

「気配がないからできる事だね」

 そしてプルメリアは、牛乳を飲むみたいに腰に手を当ててレモン水を一気のみした。全裸で。

「はしたない。一応男の俺がいるんだぞ?」

「お兄ちゃんはそんな事で、女性に幻滅しないって知ってるから平気平気」

 そう言いながらプルメリアは、もう一つのグラスを渡してきたので半分ほど飲んでテーブルに戻した。

『俺にもくれよ』

「はいはい」

 仕方がないのでもう一度グラスを取り、傾けて濡れているレイブンの方に出すと、クチバシを突っ込んだので飲んでいるんだろう。

「はぁ。仕方ない。バスローブでいいか。どうせこの服だと布団とかシーツが汚れるとかだろ」

 着替えがないのでそのままの下着を穿き、プルメリアの着替えを待ってからスリッパの様な物を履き、脱衣所を出るとメイドさんが待機していた。

 多分真っ直ぐ部屋に戻らせる為に、待機していたんだろう。ってかばっちり聞かれてるなこれ。


「……寝るか。やる事もないし」

 レイブンをタオルで巻いて乾かし、痛みとかまったく関係なさそうに、ガジガジ髪をタオルで拭いていたプルメリアがベッドに座ったので、何となく言ってみた。

「ヤる事はあるでしょ」

「おいおいおい。本気で見せつけるのか? 移動しなければ足音が出ないから、ばれないと思ってる奴が、既に天井裏に風呂に入ってる時に一人潜んでるんだぞ?」

 気配はするんですよ。そういうのに敏感だから、息を潜めてるってわかるんだよなぁ。多分プルメリアは気が付いてても、口に出さなかっただけだろう。

「見せつけてやるって言った手前、見せつけてあげないと」

 そう言って二人で天井を見るが、特に反応もない。仕方がないので弓を持つと、ゴソゴソと音がして、足音をがして天井裏から出て行った。

 やっぱり弓を持ったら警戒するよな。誰だって痛いのはいやだろうし。

「はぁ……。その内盛り上がって、注意力散漫になってる時とか声とか出してる隙に、隣にも来るだろ?」

「その時は脅かしてみようか?」

「壁は壊して良いって言ってたしな」

 そう言ったら、いきなりプルメリアが襲いかかって来て、ベッドに押さえつけられた。

「こういう所じゃないと、できない事をしよう」

「……たとえば?」

「私偉い人。お兄ちゃんは性奴隷。逆らえない」

「んな使い古されたネタを……」

「じゃあ何が良いのよ」

 この世界ではゴブリンやオーク系は受けが悪いというか、マイナー過ぎるジャンルだし。

「捕虜と超偉い指揮官の泊まってる宿」

「それこそ使い古されたネタじゃん。ってか戦場じゃほぼ日常茶飯事らしいじゃん」

 確かに。こっちの世界の戦場じゃ、条約とかそういうのほとんどないしな。

「んじゃーもう普通で良いじゃん。まだそういう関係になって、浅いんだからイメージプレイする必要ないだろ」

『犬みたいな格好で拘束。そのまま交尾。あとは雄が座って雌を乗っけてた』

「……」

「それだ!」

 なんか動物からスゲー言葉が出たんだけど……。

 プルメリアも、それだ。じゃねぇよ。

「どこでそんなの覚えたんだ?」

『ルークと出会う前、森の中で人型の雄が沢山と、雌が三人くらいで交尾してた』

 後背位と座位の事か。本当カラスって記憶力良いな。

「多分盗賊と鉢合わせした冒険者か、討伐依頼が出てて返り討ちの奴だな」

「だろうねぇ。犬みたいになるのは、私が攻められないから駄目」

「……マジでするのか?」

 いまだに俺を押さえつけながら、そんな事を言っている。いい加減腕が痛いから、さっさとこのままするか、座ってするか決めて欲しいんだけど?

「今のところ座ってするのが最有力候補」

「ってかそんな知識どこで覚えた」

「お母さん、おばさん、クラスメイト、エッチな本」

「……もう何も言えねぇわ」

 そんなやりとりをしていると、隣の部屋に何か気配がしたので、プルメリアの目を見てから壁の方を見る事二回。

 そうしたらプルメリアが軽くうなずいたので、それらしい演技を続ける事にする。

「いい加減腕が痛いから退いてくれ。そして座ってしよう」


 俺は魔法を使いたいので、手首を曲げたり手を閉じたり開いたりしたら、プルメリアが察してくれたのか俺の上から退いてくれたので、壁の方を向いてベッドに座り、膝をポンポンと叩くと大人しく座って首に手を回してきた。

「んっふっふ。ベッドが柔らかいから良く跳ねれそう」

 そして鼻と鼻が触れそうな距離で呟いた。

「いまからするってって時に、その笑い方は止めてくれ。それと、もっと尻を前に出して密着してくれ」

 俺はプルメリアの腰に左手を回し、軽くキスをしながら右手を壁の方に向け、魔法で圧縮した【空気】を覗いてる奴の顔の横三つ分くらいの場所に放つと、顔が少し入るくらいの縦長の穴が開いた。割れたって言っても良いな。

「余計な事はするなよ?」

 そう耳元でつぶやいてプルメリアに退いてもらい、笑顔で開いた穴に顔を突っ込んで覗き穴のあった方を見る。もうこれアレだな。シャイ○ングの有名なワンシーンだ。

「覗きはいけないなぁ……。これはお仕置きが必要かなぁ?」

 そう言った瞬間にプルメリアが壁を突き破りながら隣の部屋に突っ込み、指と首をコキコキ鳴らしながら尻餅をついていたメイドさんに近づいて行ったが、白目を剥いてカーペットを濡らした。

 メイドさんに近づく時に顔が見えたけど、こっちの部屋の明かりで瞳が真っ赤なのが見えた。コレは怖いな。

 余計な事するなって言ってあったんだけどな……。ってか俺これ知ってる。昔やったアクションホラーゲームの強敵が、壁ぶち破って出てくるシーンそっくりだ。

「やりすぎちゃった?」

 プルメリアが瞳だけ向けている俺に、首を傾げながら聞いてきた。

「知らん。覗く方が悪い。ま、このままだと可哀想だから、誰か来る前にシーツでも掛けておくか」

 俺は気を失っているメイドさんにシーツを掛け、椅子に座ってわざとらしく足を組んだが、背もたれにプルメリアが肘を付いて寄りかかっているっぽい。即興でわざとらしい悪役のできあがりじゃん?

 覗きは好きにして良いって言われてるから、俺のやりたい事を察してプルメリアもノリノリになっているみたいだ。ってかどうすんのこれ?

「何があった!」

 そして兵士が部屋に入ってきたので、足を組み直して肘掛けを使って頬杖を付いた。

「この女が、俺達の夜のお楽しみを無料で覗き見しようとしてたからな。少し脅かしてやっただけだ」

「高い見物料になっちゃったわね。一応覗き見は殺さなければ何をしても良いって言われてるから、お城では味わえない体験をさせてあげただけよ?」

 そう言ったら兵士は、壁の方を見て口を開けた。

 厚さ三センチくらいの木材に穴が開いてたり、一部が吹き飛んでたらそんな顔にもなるよな。

 ってかプルメリアさん? 少し悪女風に言うの止めてもらって良いですかね? 普段そんな口調じゃないでしょ?

「別な部屋を用意しろとは言わないが、覗き見だけは止めてくれ。じゃないと反対側にも穴が開くぞ?」

「ちなみに、馬鹿でかい穴を開けたのは、わ、た、し」

 おいおいおい、余計な事言わないでくれ。プルメリアまで危険人物になっちゃうだろ?

 表情は見えないけど、多分妖艶ようえんな笑みを浮かべてるんだろうな。

「来たついでだ。そのお漏らし女を回収してくれないか? じゃないと廊下に放り出す事になるんだが」

「窓から中庭に捨てても良いわよ? 一階だし死にはしないでしょ。夏だから凍死はしないけど、虫さされで酷い事になっちゃうんでしょうねー」

 いやー。外は酷いんじゃないっすかね? 

「ってな訳だ。顔見知りじゃなくても回収してくれ」

 俺はメイドさんを指さし、外に出す様に振ると兵士がお姫様抱っこで回収していった。

「……やりすぎ」

「ごめんごめん。ちょーっと楽しそうだったからさ、参加したくなっちゃった」

「はぁ……まぁ良いけどさ。で、するの? しないの?」

「なんかそんな気分じゃなくなっちゃたから、今日はいいや。別に豪邸風の一室ってなだけだから、今度高そうな宿に泊まれば同じでしょ」

「そんなもんか」

「そんなもんっす」

 そんなやりとりをし、椅子を元の場所に戻して穴は無視して二人で一つのベッドに入った。



 翌日。朝食後に来たアスターに、まさか本当にやるとは思わなかったとか言われた。

 壁に開いた穴の大きさ的に、修理費は報酬から天引きって事になったが、まぁまぁ一日の稼ぎとしてはかなり良いほうじゃね? って額だったよ。思った以上に壁の穴が大きかったらしい。

 ちなみに朝確認したら治ってたらしいので、俺的には良かったと思う。

 ついでに整えてた下の毛が、全て生え揃ってたってメイドさんから教育係にたれ込みがあったらしいが、そんなの父親に伝えんなよ。

 教育係は娘の些細な変化も、報告する義務でもあんの? まぁ、いいか。

 ってか、剃ってる毛が生えるって事はハゲにも効くって事だろうか? これは変な副作用として記憶しておかないと。


 そして馬車で学園まで送ってもらい、寮に戻ると見た目だけは元に戻っていた。あの後直ぐに窓枠とかガラスの張り替えでもしたんだろう。

 で、寮母さんがすんごい良い笑顔で変な殺気を放っている。

「次は追い出しますよ? 今回は事情が事情なので許しますが、両隣と上の階に住んでいる方に本人がいないので説明だけしておきました。謝罪に行って下さいね?」

「……はい」

 マジで怖いんですけど? 流石家に住み着くキキーモラって種族の精霊だ。家が傷つけられたら、ここまで殺気を放つ物なのか。今後気を付けないとな……。

 ちなみに日記は無事だったが、インクの入った瓶が吹っ飛んでいて駄目だったわ。



○月××日

 いきなり武装した兵士が部屋に入ってきたので、魔道具で部屋全体を吹き飛ばしたら王様の近衛兵だった。死者はでなかったが物凄く睨まれた。

 むしろこの日記の方が心配だったが無事だったから良かったと思う。俺にとって知らない奴より日記の方が重要だ。


○月××日

 城の客室に一泊したが、覗き穴が多く嫌になったので王様の許可もあったから脅しておいた。

 覗いてたメイドさんが漏らしたり、天井裏でゴソゴソしてたから弓で脅したり、足音と気配のしない暗部の人がメイドさんになったり、城の中はいろんな意味で魔境だなぁ。まぁ、良い経験だったよ。

 帰ったら帰ったで、キキーモラの寮母さんが滅茶苦茶殺気飛ばしてきてて怖かった。


――


フランクフルトが出てきますが、前書きや読む前に読んでいただきたい物にも書いた、地球で存在している地域の名前が入った食べ物や動物、特定の国の料理名でだします。って感じでわかりやすくしております。

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