第9話 試験官? 俺が本気で採点したら全員赤点だぞ?

ヒロイン分が少ない!


――


 俺は今、放課後に職員室で偵察任務系の試験の打ち合わせをしている。この前に学園長に言われた件だ。

 ちなみに、翌日の朝には回復魔法で首の傷は消しておいた。まぁわかってはいたけど、プルメリアは体力の固まりだったよ。まさか朝までコースとは思わなかったわ。

 聞いた話だが、血を飲んだのはティーカップ半分程度らしく、意識がボーっとしていたのは、唾液に含まれる弱い麻痺毒的な物か、媚薬的な物。もしくは魔法的な事で最初の頃は放心していたと俺は推測する。

 なんか誤魔化している様な雰囲気ではなかったので、無意識下でやっちゃってた気もする。後で唾液でももらって検査して、解毒魔法の構築しておかないと毎回酷い事になりそうだ。

 ってか、絶対に精力が上がる成分も入ってるな。勃ちっぱなしだったし。

「じゃあ、兵士として就職組の集団行動と、冒険者としての斥候組で日時を変えるのか?」

「あぁ。どっかの誰かさんのせいで、軍で求められる基準が跳ね上がってるからな。授業も任せたいくらいだ」

 元同僚の教師とテーブルを挟んで向かい合い、資料を持って確認しながら話し合っている。

「そう言われてもなぁ。今は生徒だし、それは勘弁してくれよ」

 俺は頭を掻きながら渋い顔で答えた。

「むしろ、なんで生徒として戻ってきた? まぁ、理由は聞いてるけどさ。エルフの暇つぶしって理解できねぇわ」

「長生きってのは、それだけで暇なんだよ。文句言うならこの間の飲み会の代金返せよ」

「それはそれ、これはこれ。んじゃ、軍用の設定と、冒険者としての設定は任せた」

「あいよ。一応事前に計画書の提出はするが、厳しい様なら少し採点を甘くする。んじゃ寮に戻るわ」

「あぁ、頼んだぞ」


 話し合いを終わらせ俺は寮に戻り、部屋にある小さめの机で設定を軽く作る事にした。

 といってもありきたりな設定だ。軍用のは森林を抜けた先に敵の補給地点があるから、偵察及び可能なら破壊か工作して撤退。冒険者用のは森林の中に魔物の集落があるから偵察して、詳しい情報を持ち帰る。

 薬草や野草取りもできる安全な場所なので、冒険者ギルドでランク2か3を十数名雇い、兵士や魔物に見立てて視認されたら場合により即終了。報酬は銀貨一枚、見つけた者は追加で銀貨五枚。っと。

「なんか楽しそうだね」

 そんな事を書いていたら、プルメリアが体を密着させて肩越しにのぞき込みながら、そんな事を言ってきた。もちろん少し柔らかいかな? って感じる程度だが……。

「んー、少しな。なんだかんだで、授業よりは暇はつぶせるし」

 俺はそう答え、紙に詳細を書いて計画書を完成させる。

「お兄ちゃんが授業に出ないと皆が困りそうだけど、学園長のお願いじゃ仕方ないね」

 そう言ってプルメリアは、この前噛みついた俺の首筋をいやらしく舐めているが、噛みついてくる様子はない。気だるくなったから注意したし。

 吸血鬼の性の手口ってのは、血を吸って気だるくさせてから。って可能性も出てきたくらいだ。

 本人の性格にもよるだろうが、血を失うって事は思考も悪くなるし、ぼーっとした状態で返事ができるくらいにまで吸えば、ある意味相手はふわふわ気分で気が付いたら終わってる可能性もあるしな。

 そこに唾液による麻痺だか媚薬効果も乗せれば、もう言いなりに近いさ。

「たまには、仲間内で授業の復習でもすればいいんだよ。俺のいるクラスは、わからない事があったらなぜか俺に聞きに来るしなぁ……」

 俺は椅子の背もたれに寄りかかり、上の方を見て答えた。

「先生よりわかりやすいし、なんだかんだ言っても教えてくれるし」

「まぁ……な。その辺は先輩の教え方を引き継いでる。自分の知ってる事は、本当にやばい事や物以外は惜しみなく教えるって方針で、少しでも後続を育てて、生存率を上げさせるって人だったから」

 義勇兵時代に、正規兵でなんでも教えてくれる良い人がいて、その人から色々教えてもらって応用させてた事が多いし。

 魔法回路なんか、簡易爆弾の作り方や解除方法の応用だ。ここでこうなって、こうなるからこうだ! 的なのが多い。むしろ電子回路の方が細々した部品が多い分、そっちの方が難しいくらいだ。

「立派な人だねぇ。自分で練り上げた技術なんか、秘匿することが多いのに」

「今思えば利他的な人だったな。本当に感謝してるし、皆も尊敬してた。お世話になったから皆の奢りって事で食事に行ったのに、トイレに行くふりしてその隙に全員分の支払いを済まされてたしな」

 同じ車に乗ってたから、絶対に死んじゃってるだろうけど。

「聖人かな?」

「ごく限られた範囲内……。手の届く範囲の仲間にはそうだった。だから見習いたいって気持ちはあるな。さて、夕食の時間だ。食べに行こうか」

「そうだね。今日の夕食は何かなー」

 プルメリアは俺から離れ、帰ってきてから直ぐに風呂に行ける様に準備をし始めたが、なんか知らない下着が増えている。

 冒険者に襲われた翌日は、クラスの女子と買い物に行くとか言っていたからその時にでも買ったんだろう。友好関係が築けてて安心したわ。

 その日俺は、傷を治してから疲れてたからベッドでぼーっとしてたけど、プルメリアはそのまま買い物に行ったんだと思う。



「試験内容は以上だ。質問のある者は手を上げろ」

 その後書類を提出し、難なく通ったので色々準備をして、こうして冒険者用と兵士用で日にちをわけている。

 今は森に入る前に冒険者用の試験の説明をしているが、評価に関わるから皆真剣な表情だ。

「敵の規模はどのくらいですか?」

「それを調べに行くのが君達だ。違うか?」

「こちらの勝利条件は?」

「これはテストだ。言えるはずがない……が、強いて言うなら持ち帰った情報量次第だ」

「かかった時間等は評価されますか?」

「それは教えられない。一応門が閉まる一個前の鐘までだ。どう判断するかは任せる……。他にないな? 俺は先に森に入り監視しているから、次の鐘が鳴り次第入ってこい。以上だ」

 俺はリュックを背負って森の中に入り、上下深緑色の服に着替え、全身毛糸の様な紐が細かい網に大量に付いているギリースーツと呼ばれる物を着込み、化粧品店で購入した緑色や茶色、黒色の顔料で作った自作ドーランを顔に塗り、全身緑色のム○クみたいな感じにする。

 顔料の緑は、この為に買っていた様な物だ。まさか授業で使うより前に、上級生の試験で使う事になるとは思わなかったけど。


 俺は茂みに腹這いで伏せ、移動する冒険者組の動きを監視しつつ、手の平に収まるメモ帳にどんどん評価を書いていく。

 対人ではないので蜘蛛の巣を切ったりは評価しないが、枝を踏んで音を立てるのは減点だ。

 そして遠くから後ろを見守る様に追跡していくと、冒険者組の動きが止まった。

「お、おい。なんか土の壁ができてるぞ?」

「前にはなかったよな?」

「文字が書いてあるぞ? 丸太の壁……って書いてある」

「中が見えない前提か……。やっかいだな」

 そんな事を小声で話しだし、数人が周囲を見張りながらリーダーっぽい奴が相談し始めている。

 まぁ、壁は俺が魔法で作ったんだけどな。

 魔法回路で地面に線を引きつつ、範囲指定みたいな感じで土を盛り上げる魔法を使っただけだ。

「目立たない服の奴が木に上り、視認するしかない。行けるか?」

 リーダーっぽい奴は、身軽で線の細い痩せ形の男に声をかけた。

「あぁ」

「木に上らない奴は見張りだ。全員警戒を怠おこたるな」

 リーダーはそう言って行動し始めた。

 三番はリーダーシップに、現地での臨機応変可能っと……。一応メモは忘れない。

 壁の中には俺が用意した食料や酒があり、冒険者にはこの敷地内なら好きに飲み食いしてて良いと言ってあるので、どうなっているか……。一応こんな感じの試験で学校の生徒が来るから。程度には伝えてあるので、やる気があるなら見張ってる奴もいるだろう。

 そう思いながら俺も枝葉の多い木に上り、一応相手からの視認性は下げておく。

「何もしないで、飲み食いができて一日で銀貨一枚って楽な仕事だな」

「けど最初に誰か見つけたら、銀貨五枚だぜ? 金のない奴は、小屋って書かれてる土の上に乗ってるぜ」

「けど、あのエルフは見つけたら追いかけろって言ってたな。変な依頼だぜ」

 俺は集音マイクみたいな感じで、円錐状をイメージした聴力強化魔法を使い、指向的に声を拾う。

 数人は酒を飲んでおり、たき火を囲みながら肉を食っていた。

 タダって事にしておけば好きに飲み食いするだろうし、集落を作って好き放題している魔物に行動はなんとなく似るので、これはこれでちょうど良い具合の難易度になっている。

「この木からじゃ死角が多い。位置を変えて何回も上らないと、全体が把握できない。それと、家と書いてある四角い土の塊の上に、見張りがいるから気をつけろ」

「……わかった。小屋と書いてある土の数と、敵を想定した冒険者の数を数えよう。後は何かあれば報告しろ」

「わかってる。どうする? 今はこの位置にいて、ココとココとココに家があり、屋根にいた奴はこっちとあっち方面に体を向けていた。中央には焚き火、そこに五人ほど酒を飲みながら何か話して笑っていた。俺的には右手側に回った方がリスクが少ないと思うんだが」

 木に上った奴が簡単な見取り図を描き、家の場所と人が向いていた方向を矢印で説明していた。

 六番、説明が上手く、状況を知らせるのが上手い。っと。

「……そうだな。俺達は中の状況は知らない。指示に従おう」

「異議なし」

「同じく」

 数名が状況の説明を聞き、残りはきちんと見張りができている。他の奴も減点はないな。

 俺も後を追う様に、木を上ったり下りたりを繰り返し、両方の視覚に入らない様に気をつけ、どんどん評価をしていく。


「壁際に大きなわら人形なのが十個ほど転がっていた。その隣には縛られたわら人形が五個。これは襲った冒険者を殺したか、食っているって設定か?」

「確か魔物は、襲った冒険者を食うって授業で教わったな。多分そういう設定だろう。つまり十人は死んでて五人は生きているって事だ。俺達は偵察のみで、戦闘は避けろと言われている。後方には待機している大規模パーティーがいる事になっているから、今すぐに試験官の所に戻り、報告すれば助かる見込みは高いって事になるな。敵と言われてる冒険者の数は?」

「十二名は確認した。家としての土の塊は中に入れないが、実際なら中に入れるって事だろう。三つあるから三名追加で、敵が十五匹はいる事にした方が良いのでは?」

「そう……だな。最低十二匹、屋内に二匹いると仮定しても十八匹、生存者五名は確実ってところだろう」

 リーダーは口元を手で押さえながら、何かを考える様に言っている。

「女性冒険者が犯されている可能性は? そいう報告もあるだろ? 本来なら叫び声とかが聞こえれば一番なんだが」

 別の冒険者が、他の可能性も出してきた。良い感じに考えてくれている。

「んー。なら魔物は十五匹から二十匹、生存者は五名から八名って事にしておこう。もう少し詳しく調べたいが、救出前提で後続がいるならこれが限界だろう。引くぞ」

「「了解」」

 少し意見の違いで揉めると思ったが、意外にすんなり皆も受け入れたな。好評価だな。


「そこで止まれ」

 俺は皆を追う様に付いていき、帰りも歩き方や警戒を怠らないかを見つつ、森の出口で声をかけた。

「うお!」

「精霊か?」

「なんだこいつ!」

 うん。こういう反応されると思ってた。あと精霊ってのはある意味あってる。だって森の精霊とか言われてたアイツそっくりだし。

「試験官だ。とりあえず今までずっと近くにいたが、誰もこっちを気にしてる奴はいなかったな? 本来はこの程度まで求められる可能性はあるが、これは採点に入らないから安心しろ」

 頭の被り物を取り、ドーランの塗ってある顔を晒すと、皆は一応俺だと認識できたようだ。

「全く気が付かなかった……」

「偵察上位者はここまでやるのかよ……」

「どおりで見かけないはずだよ……」

「今後参考にしろ。偵察兵ならこれ以上の事もするからな。じゃ、ここで最終的な報告を聞こうか」

 俺はモサモサした腕を出し、指をクイクイとして、さっさと報告しろと体でも表すと、最終的な答えをリーダーが言ってきた。

「よし、それが偵察した結果だな? 試験は終了だ。このまま学校に真っ直ぐ戻れ。まぁ、別に寄り道してもかまわないが、問題行動を起こしたら全員試験に響くかもしれない事は覚えておけよ? 俺は冒険者に試験の終了を知らせ、あの場所を更地にしてくる。以上、解散!」

 俺は先ほど見ていた内容をほぼそのまま聞き、試験の終了を告げた。

 来る時は一緒だったが、帰りは仕方がない。試験後はどう動いても点数に響かないからな。

 そして冒険者の所に行き、試験は終わったから帰ってこの木の札を出して報告すれば、各自報酬が支払われると言い、土で作った物をどんどんへこませて平らにし、藁人形を燃やして処理する。

「あぁ、その酒や食べ物は好きにして良いぞ? 持ち帰るかここで処理しても良い」

「あ? もう終わりかよ。楽な仕事だな」

「ずっと家の上で見張ってたけど、それらしいのは見なかったぞ? いつ来たんだ?」

「少し前だ。悪いが本当だ」

 冒険者として警戒が甘くない? とは言わない。ランクが低いから、経験が圧倒的に足りないし、こっちの出した情報も少ないからな。

「ま、これで銀貨一枚なら文句はねぇよ。また何かあったらよろしくな」

「だな。酒も食い物もあるし」

「ここで飲み食いしても良いが、襲われても責任はとらないぞ? んじゃ、報告は各自済ませてくれ。今日は手伝ってくれて感謝する。俺はまだやる事があるから、これで失礼する」

 俺はそう言って、森を抜けた二百メートルくらいの所に行き、棒で地面に簡単な絵を描いていく。明日用の簡易物資集積所をイメージした物だ。

 そして森用の集落を作った時と同じ用に土を盛り上げて、物資集積所っぽい物を作った。

 高さ一メートル程度の土壁に柵と書き、敷地内に四角い土を荷物の様に積み上げて物資と書く。

「先行部隊の別働隊用の臨時的なもんだから、こんなもんか」

 ただ、物資集積所を見下ろす場所もなければ、森から姿を見せた時点で気が付かれる。よくもまぁこんな試験内容が通ったもんだ。



 翌日。俺は昨日と似た感じで冒険者に説明をし、森の中で待機していた十人いる生徒達の所に行って、試験内容を言った。

「以上だ。何か質問は?」

「どの様な手段を使ってもよろしいのですか?」

「戦争は、より汚い方が勝つ。綺麗事は抜きだ」

 多少ルールも存在するが、この世界にはあってない様な物だ。

「もう一度聞きますが、戦闘もありなんですよね?」

「あぁ。ただし相手は仮想の兵士だが、雇った冒険者だ。戦闘内容は評価するが、怪我は減点だ。弓を持っている場合はやじりの代わりに布を巻いておけ。今日はそのための木剣だ」

 相手の戦力や質を見るのにちょっと戦ってみようかな? ってくらいなら、威力偵察って言葉もあるくらいなので、少数の部隊がこういう物資集積所を襲って、食料とかを焼き払えば補給がなくなって士気が下がったり、後退させる事も可能になってくる。

「他に質問はないか? なら開始する」

 今日の俺は森の切れ目で待機しながら、どんな動きをするかを見ているだけなので楽っちゃ楽だが……。

 そう思っていたら、生徒達は何を思ったのか突撃し始めた。

「おいおいおい。偵察って言ったよな?」

 俺はそう呟き頭を押さえた。まさか即全力威力偵察するとは思わなかったわー。

 こういのはバレたらって思ったが、最初から威力偵察目的で動くとは思わないじゃん? だって斥候とか偵察志望だぞ? 強襲部隊の方が良いんじゃないか? あ゛ー、魔法まで飛んじゃったよ。危険手当増やさないと……。

「制圧完了! これから物資を焼き払うぞ!」

 とうとう兵士になる方の班は制圧を終え、物資を模した土に全員で各所に別れて油を撒いて魔法で火を放っていた。

 そして冒険者の方は低ランクなので、あっさり学園の生徒に負けてしまい、全員死亡判定で大人しく説明したとおり寝転がっていた。

 全員不合格にしようかと思ったが、手際が良すぎるし転換を進めておこう。

「試験は終了だ!」

 俺はそう叫び、【二酸化炭素】を魔法で出して消火しておく。こんなんじゃ森に逃げ込むまで待つ必要はない。

 そして冒険者も起き上がり、木剣が当たった所を手でさすっている。一応王立学校なだけあって、相手にはならなかったようだ。

 ちなみに倒れてる場所は、燃えてる場所から離れていたから、二酸化炭素で消化しても問題はない。

「よし、お前達は解散して良いぞ」

 そして昨日と同じ様に説明して解散させる。

「いやー正直すまなかった。あいつ等は偵察部隊希望で、その試験だったんだが、まさか強襲するとは思ってもみなかった。こっちの情報不足で怪我をさせてしまった」

「ってか王立学校の生徒って誰もがあんなに強いのか? 流石名門なだけあるな!」

「本当だぜ。お坊ちゃまやお嬢ちゃんばっかりだと思ったが、噂以上だったな」

「まぁ……そうだな。倍率の高い試験に一応受かってるし、進級するのにも実力と学力が一定以下だと落第だしな」

 文句が出ると思ったが、実力の差を見せつけられてそういう感情はないようだ。

「この木札を冒険者ギルドに出せば依頼完了だ。それとだな――」

 俺は言葉を切り、全員に銀貨を二枚配った。

「こっちの想定外の事態で、君達に少なかれ怪我をさせてしまった。これは追加の報酬って事で許してくれ」

「お、良いのかよ? ってかこんな打撲は、教官のしごきより優しいくらいだぞ?」

「良いんだ。それはこっちのミスだからな。俺の予想では、数人が囮で残りが死角方面からの接近。その後に物資を壊すか焼く、もしくは偵察だけして森に撤退だと思っていたんだ。依頼の想定外の事をさせてしまって申し訳ない」

 俺は謝って頭を下げた。元冒険者ギルドの職員として、冒険者への詳細な説明は必須だし、危険度は低いと言ってたからな。冒険者用の偵察の説明? アレは詳しく説明すると、魔物っぽい動きにならないから仕方ない。

「依頼通り行くのは、薬草採取とかドブさらいくらいで、想定外の事なんか日常茶飯事だぜ? 気にすんなよ」

「そう言われてもな……。あー……。お前等の仕事は完璧だった。感動した。よって特別ボーナスを出す事にした。今夜は楽しく騒いでくれ!」

 俺は方向性を変えた。これなら受け取るだろう。

「あー、そう言う事ね……。ったく仕方ねぇなぁ。そう言われたんじゃ断る訳にもいかねぇか。依頼主が喜んでるんだからな」

 納得してくれた様だ。本音を言うなら、冒険者ギルドに行って報酬を変える手続きが面倒だからなんだけどね。

「っしゃぁ! 今夜はちょっと良い酒を飲むぞー!」

「「おぉー!」」

 うん。良かった。一応こっちからも冒険者ギルドに報告するけど、依頼者として悪評が出ちゃうと、ブラックリスト入りになるし。


「以上だ。まだ木札を持ってきていない奴もいると思うが、概ね内容は最初に記載した通りだ」

 俺は冒険者ギルドに行き、報告を済ませた。

「了解しました。多少依頼内容に差異はあったが、問題はなく冒険者とも折り合いは付いている。と……」

 受付の女性は水晶っぽい光る板に文字を打ち込み、今回の依頼は終了した項目にチェックを入れていた。

「以上で依頼は完了いたしました。今後もわが冒険者ギルドをご利用下さいませ。ありがとうございました」

 そして書類と認識票を受け取り、試験用の依頼は完璧に終わった事になった。

「あぁ、何かあればまた利用させてもらう」

 俺はそう言い、冒険者ギルドから出て学園に向かった。



 まだ皆はまだ授業中だが、公認欠席中なので職員室を使って報告書を仕上げる。

「事前に決めたルールなら、全員合格なんだが……。兵士組がなぁ……」

 そう呟きながら今日あった事を詳細に書く。どう報告して良いのかわからないので、本当にありのままだ。

 そして授業に出ていない元同僚が隣に座ってきた。

「……どうした?」

「いや、結果が気になってな。お前の評価の方法は信頼できるがんだが、やっぱり気になるだろ?」

「心配するな。全員合格だよ。ただ、兵士組がな……」

 俺はそう言い、書きかけの書類を隣に滑らせた。

「……あいつ等馬鹿だなぁ。何やったって良いからって、強襲をかけるんかよ」

「馬鹿だよなぁ。俺の予想してた結果にはなったが、過程がなぁ……」

 俺はため息を吐き、少し前の光景を思い出す。魔法こそあまり飛んでないが、本当に動きが少数精鋭の強襲向きだったからだ。

「書いてあるが、アレは転換させた方が良い」

「そうだな。これを読む限り、そうさせた方が良い。本人達にも進路担当にも伝えておくわ」

「そうだな。アレは思考的に隠密や偵察に向いてない」

「お前だったらどう動く?」

「ペットのカラスに探らせ、報告を聞いた後に火矢を視認外の森から放って物資を燃やす。確かに前提として、見つかりやすい状況にしておいたが、備考にもある通り、数人の囮を使って死角からの物資破壊を想定してたしな」

「エルフってずるいな……」

「その為に、この国は偵察部隊に最低一人はエルフを入れる事になってるんだよ。俺のせいでもあるけどな。まぁ、軍隊なんてのは想定外続きでどうなるかわからないもんだから、手持ちの駒でどうにかするしかないんだよ。状況は時間と共に変化するから、時間のかかる最良より、良を良しとする。ってのが理想だ」

 俺はペンを置き、自分で淹れた冷めたお茶を一口飲んだ。

「けどお前は、十日くらい使って砦を落としたよな?」

「あれはかなり敵陣の後方だったからだ。そもそも成功する方がおかしいとまで言われてた。落とせたらかなりの打撃を与えられるしな。少数で敵地を見つからない様に進み、念入りに計画を立て殲滅。前提が違う」

 俺は首を振り、もう一口お茶を飲んで書類を引き寄せ、残りを書き始めた。

「けどよ、冒険者組の判断は良かったんじゃないか?」

「あぁ、戦闘もせず、見つからない様に偵察。後方の味方に素早く情報を届ける。あれは延びるな」

 物資集積所が崖の下にあったり、見下ろせる場所にあれば兵士組の仮定も変わったんだろうけど、そんな場所にあるのは、きっちり作られた砦くらいだし、先行部隊の後方にある臨時集積所ってのが難しかったんだな。その事も書いておかないと……。



 俺は書類を書き上げて提出し、授業が終わっているので寮に戻った。

「おかえりー。どうだった?」

「まぁまぁ普通。今後こういう事はたまにでいい。試験官なんかやるより、実際にやった方がおもしろい」

「お兄ちゃんならそうじゃない? ま、そのうち私達も、この間のキャンプっぽい感じのが、どんどん難しくなってくんでしょ? このクラスメイトなら、おもしろくなるって」

「まぁ、男子連中を見てればそうなるだろうなぁ。この前なんか、酒飲んで騒いで怒られてたっぽいし」

 この学校の寮は、各階の四人部屋の前に小さなリビングがいくつもあり、部屋の中でなるべく飲み食させない作りになっているので一応飲食は可能だ。なので大きい時は一フロア全員で持ち寄って、各階にあるラウンジで飲み会になる時がある。もちろん購買も小さなキッチンもあるので、おつまみ的な物も作れるし。

「あー、あったねぇ。男子達がほぼ全員辛そうにしてたし」

 一応この世界での標準的な成人は十五歳なので、入学できる年齢になれば酒は飲める。もちろん種族内での十五歳だ。なので俺は百五十歳までは飲めなかったが、十年くらいは誤差だよ。

「っていうか、お兄ちゃんは部活に入らないの?」

「もう入ってるよ。活動してないだけだけど」

「いつのまに……」

「そういうプルメリアは入らないのか?」

「面白そうなのがないし。格闘系の部活を見に行ったけど、お遊びって感じだった」

 プルメリアはベッドに寝転がり、足をパタパタさせていた。黒い下着が見えているが、気にしてないみたいだし、誘っている感じもしないので無視しておく。

「そりゃ……プルメリアにしたらお遊びだろうが、やってる方は本気だと思うぞ?」

「まぁねぇー。ちょっと体験って事で、その場で動かず利き手じゃない左手一本で、全部どうにかできたし、反撃も簡単だったよ」

「相手が可哀想だな。何やったんだ?」

「手を左右に振って縦の攻撃は反らして、横とか斜めの攻撃は掴んでた。その時いた一番強い人なんか、必死になってたけど最後は肩で息してたし」

 うん。プルメリアの近接戦はやべぇわ。種族的な物と積み重ねてきた年期が違いすぎるから、相手になってない。

「クラス対抗と学年対抗の大会があるけど、出ないって言っておけよ? じゃないとワンサイドゲームになって大会が盛り上がらない」

「その辺の分別はあるよ? けど指名されたら……ねぇ?」

 プルメリアは仰向けになり足を高くあげ、下ろす時の反動で上半身を起こし、ニヤニヤしていた。

「俺は面倒くさいから、腰抜けとか色々言われても出ないけどな」

「私とお兄ちゃんが戦ったら、どうなると思う?」

「何でもありならある程度どうにかなるかもしれないけど、試合運びやらルールが決まってたら俺が簡単に負ける」

 鼻に頭突きをしても鼻血も出ずに怯まないし、服に魔法耐性が付いてそうだし。

「……そっか。んっふっふ。そうなんだ。ふーん」

 なんでそこで嬉しそうにするんだ? ってか笑顔が気持ち悪い。

 えーっと、ドアまでの障害物はないが閉まっている、そして俺は椅子に座っている。鍵も閉まっているドアで廊下まで逃げられそうにないな。とりあえず俺はため息を吐く。

「まだ明るいんだからな?」

「大丈夫大丈夫。その辺は聴覚でどうにかなるし? 両隣は夫婦で教師だから、まだ帰ってきてないよ」

「はぁ……。全然大丈夫じゃない。なぁ、レイブン?」

『夕食の時間まで、ムーンシャインのところに行ってくるわ』

「動物なのに変に気を使うな。おいこら、プルメリアは窓を開けるな」

 そしてレイブンはプルメリアの開けた窓から出て行き、カーテンだけを閉めてこちらを向き、微笑を浮かべながらゆっくりとこっちに近づいてきた。

「おまえ……。一回振り切ってから積極的になりすぎじゃね?」

 飛びかかられても面倒なので、俺はため息を吐きながら椅子から立ち上がった。

「いつも通りに、エッチな事が追加されただけだって」

「その一個がでかいんだよ……」

 そしてプルメリアに抱きつかれ、最初はまくっていた前腕に甘噛みされた。

 吸血鬼の最初は、甘噛みからなんだな……。

 その後は、まぁ……。うん。夕食に遅れなかった。



〇月××日

 今日は三年生の試験の試験官を務めた。冒険者組の方はキッチリ斥候していたが、兵士組は強襲という名の全力での威力偵察だった。

 なので色々と報告が面倒だったが、個人的には面白かったよ。

 それとプルメリアに襲われた。今日で二回目だが、なんで再生してるの? 前回が初めてって言ってたし、確かにそんな感覚はあったけど二回目もあった。

 追記:あとで聞いたが、傷として再生したのかも。とか言ってたので、吸血鬼すげぇ! って思った。

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