第4話 1/2 面白そうな奴しかいない

 プルメリアに性的じゃない方で襲われそうになる事二回。指を切って血を舐めさせて落ち着かせているが、なんか舐め方がエロい。

 ドコとは言わないけど、おもわず反応しそうになるがどうにかして我慢した。あの表情とか、指先に這う様にからみつく生温かい舌の感覚とか。

 はい。控えめに言って、総合的に凄くエッチでした! ってか二回目なんか指の第二関節まで咥えやがって……。次は根本まで来るなコレ。

「元先生。入学式は何をするんでしょうか!」

 プルメリアはベッドに座り、元気良く手を上げて聞いてきた。小学一年生かな?

「ホールに集まって主席挨拶とか、教室に戻って担任の先生の挨拶。俺だったらクラス内で班分けするのに、簡単なテストをするな」

「ふむふむ。ならペンケースは必要ですね!」

「多分何か必要なら寮に戻って取ってくる時間があるから、最悪走れば間に合う。だからペンケースだけで良いと思うぞ」

 確かそうだったと思いつつ、俺も武器類は最低限だけ持って、届いた通知の教室に向かった。


「俺達は五組だったな」

 一クラス三十人で十組まであるので、一学年三百人はいるはずだ。ただ、進級できずにもう一年がんばったりする人がいるから、三百人よりは少し多い。

 これが二年生、三年生となると退学とかも増えて、どんどん数が減っていく。俺が三年生の時なんか、毎回百五十人くらいしかいなかったしな。

「んー。相変わらず最前列は人気がねぇなぁ」

 三人くらい座れる細長い机に椅子があるが、後ろに行くほど高くなってるという事はない。なので手元が見えない後ろの方が人気がある。地球の学校でもそんな感じだったはず。

 俺は最前列のど真ん中の席に座ろうと思ったが、教師で黒板が見えにくいので窓側の方に一個ずれて座り、隣にはプルメリアが座った。

「なんか、制服着てる人が全然いないけど、本当にここ学校?」

「心配するな。あそこにいるゴブリン族の奴なんか、半袖にハーフーパンツにスキンヘッドだぞ?」

 最前列の廊下側に座っていたゴブリン族を親指でさした。

 俺が数回の在学中だったり、教師をしていた時には一切見かけなかった種族だ。基本的に物理攻撃側に能力が寄っているので、学園に行かずに働いたり冒険者になっているのが多いと聞いている。

 一番の理由は種族的に短絡的で、勉強嫌いが多いだけなんだけどね。

 戦争なんかになると、難しい事はできる奴に任せて俺達はさっさと突っ込もうぜ! ってのが多いが、中には戦術や戦略が得意な奴もごく少数いたのが、基本は戦闘種族と言ってもいいくらいだ。

「おーい、お前等黙れー。俺がこのクラスの担任のディルだ。えーっと……カルバサ。お前が主席って事は、事前の通知で知ってるはずだ。ホールで主席挨拶があるから、お前はもう向かえ」

「わかりました」

 クラス内に主席がいるみたいなので、誰だろうと見回すとさっきのゴブリン族の男だった。

「ほう……。面白くなりそうだ」

 俺はニヤリと笑い、姿勢を戻して視線を担任の方に向けると目が合った。

「あー、お前は確かルークとか言ったな。話はがく――ゲフンゲフン。聞いている。悪いが色々手を借りたりするだろうが、その時はよろしく頼むな」

「はい」

 ディル先生は俺を指さし、そんな事を言ってきたので無難に返事をしておいた。多分学園長から聞いているんだろうが、皆の前で学園長の単語を言わないでくれて助かった。気を使ってくれたんだろう。

 さばさばしてる様に見えて、色々と気は使ってくれたみたいだ。多分そのうちばれるけどな。

「ってな訳で、今日の予定はこうなっている。ホールの方に移動しろ」

 ディル先生が黒板に今日の予定を書き出し、軽く説明が終わり移動開始となった。



「この学園に――」

 先ほど呼ばれたカルバサが、主席として入学生代表挨拶を済ませた。

 一応全校生が入れる広さがある体育館みたいな場所だが、この学校で体育みたいな事は闘技場でやるので、本当に何のためにあるのかが不明だ。

 雨天用に作ったのかもしれないが、雨でも関係なく校外授業をしたり闘技場を使うので、潰して第二闘技場でも作った方が便利な気がする。

「私が学園長だ。これから皆は共に学び、苦楽を――」

 学園長の挨拶が終わり、入学式は終了となるがかなり暇だった。ありきたりな代表挨拶と何回か聞いた学園長の挨拶。

 もう頭の中で、今後何するか妄想しかしてなかった。


「やーっと終わったよ……」

「んー。だるかったー」

 俺とプルメリアは廊下を歩きつつ、軽く愚痴を言って教室に向かう。

「あのカルバサ君ってさ、ゴブリン族なのに凄いね」

「あぁ。主席だから筆記も実地も学年一位って事だし、揉めるだろうなぁ」

「なんで? 実力があるし、文句は出ないんじゃない?」

「こういう時は、貴族の子供とかがぶつくさ言うんだよ……。無駄にプライドが高いから、平民風情に! って騒ぐのに、脳まで筋肉とか言われてる種族にトップに立たれてみろ? ほら……」

 廊下でゴミ箱を蹴って壁を殴っている、貴族服を少しラフっぽく着た生徒を俺は指さした。

「なんで僕が主席じゃないんだ! 自己採点では全て満点に近かったのに!」

「ほらな? 自分の実力を認められずに騒ぐ。公平に試験結果をだしているから、カルバサより確実に下なのにな。多分実地試験で点数的に負けたんだろ」

「おい! そこのエルフ! 何を見てるんだ!」

「こうやって突っかかってくるから、プライドの高い貴族のお坊ちゃまは面白い」

 俺は馬鹿な貴族に聞こえる様に言い、無視してそのまま通り過ぎて教室に入ろうと思ったが、肩を乱暴に捕まれて無理矢理振り向かさせられた。

 なのでそのまま首をつかみ、睨みつけながら壁に叩きつけて大人しくさせた。

「おい……。見られたくないなら目立つ所でやるな。見て下さいって言っている様なもんだろ? 俺は間違った事はいってないよな? お前は今まで甘やかされて生きてきたかもしれないが、ここは実力主義の学園だ。つまりゴブリン族のあいつより下だ、劣ってるんだよ。粋がるのは良いが、喧嘩を売ってきたのはお前だ。この際だから今からどっちが強いかはっきりさせておくか? ん?」

 俺は睨みながらどんどん力を強めていき、貴族のお坊ちゃまの首を絞めていくと苦しそうに暴れ出してせき込み始めた。

「このくらいも振りほどけないお子ちゃまが、自分に実力があると勘違いしてんじゃねぇよ。相手は選べ」

 なんか抵抗する勢いがなくなってきたので、手を離してやるとその場にうずくまった。

「貴様、後で絶対に勝ってやるからな!」

「なんだ。やる気はあるんじゃねぇか。だったら物に当たってねぇで、努力でもするんだな」

 俺はそのまま貴族のお坊ちゃまを捨て置き、プルメリアと一緒に教室に入ろうと思ったが、なんか囲まれた。さっきの奴の取り巻きの残りだろうか?

「モブリアム様に失礼だろう!」

「跪いて謝れ!」

「……最初に突っかかってきたのはそっちだろ? とりあえずお互い様って事で失礼する」

 モブリアム……ねぇ……。ウイリアムのモブ版だろうか? あと様付けだから、コイツはやっぱり貴族か何かか?

「え? なに?」

 とりあえず馬鹿は無視して教室に入ろうと思ったら、プルメリアの声がしたので振り向いたら少しまずい状況になっていた。

 取り巻きの馬鹿が、プルメリアの髪を掴んで引っ張っていた。

「馬鹿! 止めろ! 落ちつけ! な?」

「もう遅ぇよ! お前がこの女とずっと一緒にいたのを――」

 俺はプルメリアに言ったつもりだったんだが、何を勘違いしたのか取り巻きが粋がっていたら、掴まれている髪の毛を無視して振り向き、相手のこめかみを掴んで俺より強く後頭部を壁に叩きつけた。木材が嫌な音出してたし、瞳も赤くなってた。怒ってるんだろうなぁ……。

「あーあ。聞こえてるか?」

 俺は無言で三回ほど後頭部を叩きつけていたプルメリアの手を掴み、なんか血が出ている取り巻きを助けた。

「こいつが女の子の髪をさわったのが悪い」

 プルメリアが振り返り、無表情でそんな事を言った。瞳の色はまだ赤いままだ。ってかさわったって言うより、思い切り掴まれてた事に怒ってくれ。

 もしかして、掴まれたって言うより、さわられた程度にしか感じてない?

「そうだな。けどこのままだったら最悪死んじゃうから、手加減も覚えような? 初日で退学って笑えないぞ?」

 入学金も払っているし、馬鹿みたいじゃないか。昔同級生に一人いたけどさ……。入学式に出て、そのまま登校しないで辞めていった奴が。全員が顔を覚えてなかったなぁ。

「十分手を抜いてるけど? もっと抜かないと駄目?」

「血が出てる。木材の壁が割れている。ぐったりして手足がだらりとしている。完璧に気絶だ。人族は鍛えてないと脆いんだよ。いいから手を離せ。あと後頭部は色々不味いからな?」

「……わかった」

 プルメリアは納得したのか、その場で手を離してぐったりしている取り巻きが廊下に寝ころんだが、もう一人の取り巻きの顎に裏拳をたたき込み、一瞬で気絶させていた。

 やりすぎだって言ったばかりだろ? 何してんの?

 壁に叩きつけられた奴は、なんか白目を向いて痙攣けいれんしてるな。回復魔法が必要だな……。

 俺は取り巻きのおでこに屑魔石を乗せてから手を当て、ソレを媒介に魔力を込めて傷が再生するイメージをすると、傷が塞がったのか血が止まり、息使いも正常に戻っていた。


「軽い脳震盪くらいにまでは治ってるだろ、だけど。まぁ、これで死なないと思う・・。取り巻きに良く教育しとけ。こっちプルメリアは俺より凶悪だってな」


 俺がプルメリアを親指で指すと、頬を膨らませて軽く二の腕を叩かれたが、衝撃が滅茶苦茶重い……。


「あー。もう一人は失禁してるな。お前の子分なんだから、しっかり後かたづけしとけよ? それに、一緒にいる女の子を人質にする取り巻きとは、縁を切った方がいいぞ」

 そう言って教室に入ろうとしたら、超笑顔のディル先生が俺の肩を叩いた。

「何してんだ? ん?」

「こいつが突っかかってきたんで、少し教育? を……ですね」

「やりすぎだ馬鹿! 早速問題起こしてんじゃねぇよ! 俺も怒られるんだぞ! どうすんだよ壁ぇ!」

「壁の方が本音っぽいですね。良くわかりますよ、えぇ。職員室でしょうか?」

 問題を起こした生徒は、とりあえず職員室。学生時代も教師時代も変わらない校則だ。

「今から簡単な校則の説明だ。だからその後だ。とりあえずそいつ等は捨て置け」

 捨て置けって、教師なのに酷い扱いだな……。

「わかりました」

 俺はそう言い、気絶してる奴を回復体位にして教室に入った。

「あー。早速問題が起きたが、この学校のルールを教える。ルークとプルメリアは良く聞いておけよ」

 最初に座った席に着くと、ディル先生が俺達の方を見て力強く言った。

「とりあえず何かあったら事情聴取する事になってるから、陰険ないじめがあったら誰かに言え。報復が怖くて言えない事があるだろうから密告でもいい。ってかこれ最後の方に言う奴なんだが、最初に言わせんなよ……」

 ディル先生はめんどくさそうに頭を掻くと、次々と学校のルールを言い始め、途中で取り巻きの一人が意識を取り戻したのか、ばつが悪そうに教室に入ってきた。

 回復体位にしてたからわからなかったけど、貴族もこのクラスかもしれない……。後ろを振り向けばわかるけど。


「何かわからない事があったら後で聞きに来い。俺はルークとプルメリアを職員室に連れて行く。ギルモーブ。お前は後だ、わかったな」

 取り巻きの一人は同じクラスだったわ……。ってか、かっこいい名前だな。

「……はい」

「返事は聞こえる様に言え!」

「はい!」

 ふむ。あの様子だとある事ない事を言いまくるってのはなさそうだ。とりあえず俺は事実だけ言ってれば、問題はないな。


「というのが俺達の言い分です」

「はい、お兄ちゃんの言っている事と同じです」

「そうか。お前はここで教師をしてたからある程度信じられるが、一応向こうの言い分も聞くぞ?」

 ディル先生はメモを取り、確認する様に聞いてきた。

「えぇ、ソレも教師の仕事ですから問題ないです」

「お前ならその苦労を知ってるだろうが、かなり面倒くさいんだぞ? 押さえるかなんかできなかったのか?」

「押さえつけましたよ?」

「物理的にじゃねぇよ……はぁ……」

「胃薬を調合しますか?」

 薬師や錬金術師の資格もあるから、一応言うだけ言っておく。名目上は俺の教師だしな。

「いらねぇよ……。もういい、出てけ……。あー、教室に戻ったらギルモーブにも、職員室に来る様に言ってくれ」

「わかりました」

 ディル先生は覇気のない声で、動物を追い払うように手を振ったので、俺達は職員室から出て教室に向かった。


「ギルモーブ。先生が職員室に来いって言ってたから、出向いてくれ」

 副担任なのか、眼鏡をかけた坊主頭の人族の教師が教壇に立っていたが、話を遮ってとりあえず伝えた。

「ギルモーブ君。行ってきて良いですよ。ルーク君とプルメリアさんは席に着きなさい」

 俺は席に座り、黒板を見るとヨシダテルカズ六世と名前が書かれていた。先祖が日本人かな? こっちの世界に迷い込んでるって話はたまに聞くけど……。

「二人には自己紹介がまだだったね。私はヨシダテルカズ。本家の長男が成人すると、この名前を名乗る事が先祖代々の言い伝えで、本名は別にあるが、とりあえずこの名前で覚えてくれ。ちなみに副担任だから、こういう場合はディル先生の代わりをしているし、サポートもしている。何かあったら相談してくれるとありがたい」

「わかりました。それで……今は何をしていましたか?」

「説明に近い雑談かな。初日だし、難しい事は抜きで色々質問を受けてたんだよ。二人は何か聞きたい事はあるかな?」

「そうですか……。先生は名字持ちなんでしょうか?」

 貴族の様なお偉いさんしか、名字が持てないので一応聞いてみた。日本ではヨシダが名字だからだ。

「いえ、これは名前です」

「ありがとうございます」

 ヨシダ=テルカズではないのか……。なら略称で呼ぶのは失礼か? まぁ呼ぶ時だけ気をつければいいか。

「先生の担当はなんですか?」

 プルメリアは、なんかありきたりな質問をした。

 確かに気になるっちゃ気になるけど、風貌からは確かに把握できない。

「座学全般かな。得意な科目はないけど、全ての教科は高い水準で教える事は可能だと思っている。ディル先生はどちらかというと実習向きだから、勉強系は大抵私が関わるかもしれないね」

 ヨシダ先生はニコニコとしながら答えているけど、なんか笑顔が怖い。笑いなれてない?

「じゃぁ、今度は実習についてでも説明しようか。最初は校外学習についてだけど――」

 ヨシダ先生は、防壁の外に出て魔物を狩ったり、野営の仕方とかもあると、過去にあった笑い話を交えて説明してくれた。


「あぁ、ギルモーブ君が帰ってきたね。じゃ、簡単なテストをして班分けでもしようか。大丈夫大丈夫、知力テストじゃないから。時間はこの砂時計が落ちるまでね」

 ヨシダ先生がそう言うと、テスト用紙が配られた。

 村がゴブリン三十体に襲撃され、自分達はごく平均的な五人程度のパーティーのリーダーだとする。個人の強さは冒険者ランク5相当とし、時間をかければ全て安全に撃退できる戦力だが、村人や家畜、家屋には多少被害が出るだろう。自分達は偶然通りかかっただけなので、他に戦力は期待できない。君はどの様な行動をとるか答えよ。

 ふむ。こういうテストね……。適性検査みたいなもんか……。

 個人の思考とかモラル、何を切り捨てるかの選択。自分ではなく戦力が限定されている誰かってのが、答えがあってない様な奴なので面倒くさい。

 普通の人なら数人を囮にして、残りのメンバーが生き残っている村人を集めて逃がす。とか書くんだろうけど、最悪は村人を見殺しにして、ゴブリンも倒して金目の物を全ていただくってのもあるからな。

 俺は今まで通ってきた道の方角に逃げろと叫びつつ、メンバーを散開させて撃退させる様な事を書き、その後ギルドに報告しつつ、ギルドマスターを通して領主に兵士の派遣要請をし、見回りを強化させ、できるなら巣を見つけて全滅させる。とか元職員目線で書いておいた。

 他にも似た様な問題があり、特に印象に残ったのが、味方が倒壊したダンジョンの瓦礫に挟まれ、助け様とすれば助けられるが、助けている間に魔物が増えたり、その間に倒壊が進んで脱出がより困難になり、二人とも死んでしまう可能性がかなり上がる、それでも助けるかどうか。もし自分が瓦礫に挟まった時の事も答えよ。ってのが中々面白いと思った。

 見捨てる覚悟なのか、助ける勇気なのか、自分が同じ状況になった場合に助けを求めるか、見捨てさせるかってのが中々考えさせられた。

「ふむ。模範的な回答も多いですけど、面白い答えもありますねぇ……」

 ヨシダ先生は答えを見ながら机に紙を分けていき、全部で六つにした。

「はい。今から班分けを発表します。一班――」

 そして俺は六班だった。プルメリアも一緒だったが、カルバサも一緒だ。マジでこの一年は暇しなさそうだ。

 それよりも、答えがない問題を瞬時に解析して班分けできるものなのか? もしできるなら、ヨシダ先生はかなり優秀だな。

「んじゃ顔合わせとか自己紹介とかして良いですよ。お昼の鐘が鳴ったら今日の授業は終わりですので、雑でいいです。けど一応私はここにいないといけないので、本を読んでます。何かあったら言って下さい。あ、お昼は食堂で出ますよ」

 ヨシダ先生はそう言うと、ポケットから官能小説を取りだして読み出した。なんで教室でそんなのを読むんだ? 優秀だけど実は駄目な人かもしれない。

「おい六班。僕の所に集まれ」

 なんか貴族っぽいのが仕切りだしたので、とりあえず従っておく。貴族なら統率力や主導力リーダーシップもあるだろうし、何か間違いがあったら指摘すればいい。プルメリアも同じ班なので制御もしやすいだろう。

 俺は立ち上がり、プルメリアと一緒に貴族っぽい所に向かうが、なんかドヤ顔がひきつり始めた。

「安心しろ。特に理由のない暴力はしない。やられたらやり返してるだけだし」

 俺はそう言ったが、プルメリアを除く四人が、嘘だろ? みたいな表情になった。何でだろうか? 肩を掴まれただけで、あれだけやったからだろうか?

「そ、そうか。ま、まぁ自己紹介からだ。得意な戦法やら武器、魔法の有無を僕から見て右のヒースから順に言ってくれ。見てわかるから特に必要だと思わないが、種族も言って良いぞ」

 そう言って貴族っぽいのは、右手で俺は名前を知らない女子を指した。俺達がいない時に自己紹介をしたのかもしれない。

「ヒースです。得意な武器は槍で、魔法は火属性をちょっと」

 真っ赤に燃えている炭の様な赤髪のショートカットで、活発っぽい印象がする褐色の女子だ。制服は着ていないが、前衛希望なのにスカートってどうなんだ? プルメリアもそうだけどさ。

「ちなみに留年してるから、ある程度の事は皆より詳しいと思っている。主席のカルバサがいるし、座学でわからないところがあったら遠慮なく聞きに行くぞ」

 留年してるってのを、堂々と言えるのって凄いな。しかも学力不足って言えちゃうのか。

「カルバサだ。知っての通り主席だが、驕るつもりはない。魔法は強化魔法を使う。主に自分用だから期待はしないでくれ。勉強は教えられる様に努力はする。きちんと理解していないと教えられないから歓迎だ」

 タフで知的ってのが、実践で本当にやっかいだったりするから、一緒の班だと頼もしい限りだ。ってか本当にゴブリンかこいつ?

「マリーナでーす。母が教会でシスターをしていたのでー、回復魔法なら得意ですねー。がんばって攻撃魔法も覚え様とおもってまーす。卒業後は教会でシスターになるつもりなのでーよろしくおねがいしますねー」

 んー、なんか凄くふわっふわした感じで眠くなる喋り方だな。ってか、その胸で聖職者は卑怯だろう。迷える子羊が交通渋滞を作るレベルだぞ? 悩みを聞いてもらっても、また最後尾に並ぶ系だわ。

 思春期の男の子とおっさんが意味もなく毎日教会に通って、お祈りするんだろうなぁ……。

 ゆったりとした修道服でもわかる、その胸ってどうなの? むしろそのまま授業するの? ミッション系? 毎日の服選びは楽だろうけど、これも制服みたいな物だしなぁ。

「プルメリアです。学校に興味があったから何となくで来ました。廊下の騒ぎを知ってるなら、近距離戦が得意ってのはなんとなくわかってると思います」

 おいおいおい。倍率高そうな学校に、なんとなくで入学しましたってのはないだろ……。しかも戦闘スタイルの説明があり得ないわ。

 ってか俺も酷い理由で入学したんだけどな。

「ルークだ。真面目にがんばって入学した皆には悪いが、プルメリアのお守りで入学した。戦闘スタイルは近接戦が他より苦手くらいで、中距離や遠距離もいける。それにある程度は何でもできるつもりだ。あ、見てわかると思うがエルフだ」

 皆も短めに挨拶してるし、俺もこのくらいで良いだろう。

「最後は僕だな。アッシュだ。先ほど騒ぎが起こっているのに、止められずに申し訳ない。将来皆の上に立つ者として恥ずかしい所を見せてしまったが、努力をしたのに主席を取れなかっただけで、あんなに暴れるのは同じ貴族として恥ずかしい限りだ。戦闘はとりあえず広く浅くで、戦術なんかもやっている。とりあえず地位とか名誉とか身分とか関係ないから、家名やら苗字は必要ないな」

「その事は気にしてない。多分実技で俺の方が上だったんだろう。アッシュの様なクラスメイトがいれば、お互いに意識しあって良い刺激になる」

 なにこのゴブリン。言ってる事が凄くかっこいいんですけど?


「ってな訳で軽い自己紹介は終わったが……。次はどうすれば良いんだ?」

 アッシュが頭を掻きながら、なんか困っている。貴族的会話ならできるんだろうが、クラスメイトとの話題性は乏しいようだ。

「趣味とか色々あるだろ? 後は掘り下げたい話題とかさ」

 ヒースが頬杖を付きながら、ニヤニヤしながらこっちを見ながら言っている。

 あぁ、わかってるさ。何が聞きたいのかくらいは。

「プルメリアの御守りだっけ? 私は結構酔狂な事だと思うぞ? 入学金も馬鹿にならないしな」

「エルフってのは意外に暇なんだよ。五十年旅をしてきて、久しぶりに実家に帰り、土産話をしたらプルメリアが通いたいってなってな。だから一緒に入学した訳だ」

 俺は椅子に浅く座り、後ろに体重をかけて椅子の前足を浮かせながら天井を見た。冒険者やったりとかの身の上話は、進んでしなくても向こうから聞いてくるだろうから今は言わないでおいた。

「……エルフってなだけで卑怯だな。んじゃ冒険者やりながら金とか稼いでたんだろ? 実戦も教えてもらえそうだ」

「近距離は苦手だから、教えられる事は少ないぞ?」

「それでも私よりは強いだろ? 今年は進学できそうだ」

「それはやる気の問題だな。それと付け焼き刃で学力が上がる事は期待するなよ? そっちは二人にしっかり教えてもらえ」

「はいはい。その辺はがんばるさ。他はなんか聞きたい事とかないのか? ないなら私がどんどんルークに聞いちゃうぜ?」

 なんで俺だけなんだよ。他にも聞きたい事とか色々あるだろ。カルバサは本当にゴブリンか? とか。肌がアメリカ的な漫画の緑色だから確実だろうけど。

「魔法は得意か? 俺は強化魔法しか使えないから、色々と教えてもらいたいんだが」

「いいぞ。どんどん聞いてくれ」

「なら早速。この強化魔法の魔法陣は既存の物を独自に使いやすい様に改変したんだが、わかるなら何か意見が欲しいし、わからないなら言ってくれ。すぐに消す」

 カルバサが魔法陣を展開し、俺に見せつけてきたので模様やら文字を目で追ってみるが、なんかごちゃごちゃしすぎている電子回路を見ている気分だ。

「ここはいらないな。この文字もこっちで重複してるから省略できる……。コレも、コレもいらないな。魔法回路も無駄が多いから、この辺をこうして……、ここはこうだな。んー……。多分これで魔力効率が七パーセントくらい良くなるはずだ」

「七パーセントといったら結構大きいな。これで多少魔力が温存できるから、他の事に使える」

「魔力カツカツでやってるのか? 屑魔石を媒体に運用も考えたらどうだ?」

「付与や吸収……錬金術の類は苦手で、前に試したがかなりロスが多いんだ」

「そうか。今後の課題だな」

 俺は魔法陣を指で追ながら見て、他に何か改善できないかを考えながら答えた。

「ここ、余った魔力分を別な文字に置き換えれば、筋力上昇率が上がるんじゃない?」

 プルメリアが魔法陣の模様を指さし、そんな事を言った。

 余った魔力で他に何かの魔法を使うとか言っていたので、別な案を出す事を放棄してたわ。意外にプルメリアって高性能なんだよなー。やらないだけで。

「運用はカルバサがするから、どうするかだな」

「元々これでやってきてたから、そのまま運用法方を変えずに性能が上がるし、難しい事を考えずに使うのが楽だな。二人とも感謝する」

 カルバサが改変した魔法陣を消し、頭を下げて感謝してきた。礼儀正しいゴブリンって本当珍しいな。

「気にするな。これからは同じ班なんだし、お互いできる事は支え合ってやった方が良い」

 俺達が魔法陣の改変をしていた時、残りの三人は口を半開きにして黙って見ていただけだった。魔法理論は苦手なのかな?

「二人とも凄ぇじゃねぇか! あんな複雑な奴をさらにいじくるなんてよ!」

「本当ですー。私なんか、既存の物をそのまま記憶して運用してるだけですよー? 見ててもちんぷんかんぷんでした」

「これなら班行動で学年一位も狙えるな!」

 ヒースの言葉で二人が再起動し、なんか盛り上がっている。これはこれで成功って事で良いんだろうか?

 それからはなんだかんだで、苦手な物をお互いにフォローしあって、色々と底上げしようと結論になったが、なんで全員俺に頼るんだ? 他の奴とも交流を深めてくれよ……。

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