転生バンパイア幼女は冒険なんてしたくない

五月雨一二三

第1話 転生したら既に死んでました

【注意書き】

 ノートPCで基本的に書いていますので、文章はノートPC準拠です。

 一つの章は大体2500文字から3500文字くらい。多くて4000文字。


 設定は、基礎部分以外はわりとファジー。

 物語の核がブレない条件つきで後付け設定もアリアリでいきます。


 緩く読めたほうが良いと思い直したら最初だけシリアスになった件。



 ◆◇◇◆◇◇◆



 朦朧とする。意識は途切れ途切れ。消毒のニオイ。ガラスのシリンダー。


 私の周りでは、何人かがこちらを見下ろしていた。

 一体どうなっている? 私は横に――ベッドに寝かしつけられているのか。

 周りの誰かが、しきりにこちらに話しかけてくる。ぼやけた視界でそれを見る。

 何を言っているのか、私には微塵も理解できない……。


 彼らは誰だったか。そもそも自分自身についても、さっぱり思い出せない。


 思い出せるのは、私は青年期中期からとある難病を患っていたことくらいだった。


 たしか……そう。



『血管炎性ニューロパチー』



 周りの人々の言葉はさっぱりわからない。が、この病名を思い出した途端に意識が浮上しつつあるように思えた。ぼやけた視界が、若干、鮮明になったような。


 端的に言うと、この病気は細動脈に炎症が起こり、末梢神経に鋭い痛みを与えるのだった。血管版のリウマチみたいなもの、と医者から説明を受けた覚えがある。


 とまれ、珍しい難病であり、ステロイド剤を使って炎症緩和をしないととんでもない痛みに耐えなければならなくなるのだった。


 そして、ああ、思い出した――思い出してしまった。



 私、もうすぐ死ぬわ。うん、そんな感じ。



 となればここは病院か。そうだ、思い出してきた。ここは病院介護施設終のホスピタルだ。


 人間って、死ぬ直前にはどれだけ朦朧としていても正気に還るというけれど。


 実は私、ステロイド剤の副作用で、アルツハイマー氏病に似た症状を起こして脳を萎縮させているのだった。今この段階でも、脳は委縮を止めない。


 あの医者め、こんな副作用があるとはちっとも説明してなかったじゃないか。

 インフォームドコンセプトを怠るとは、医療ミス級の大失態だろうに。


 とりあえず、呪っておこう。あの医者の全身の体毛が中途半端にハゲますように。


 とまれ、大事なことなのではっきりさせておこう。



『ステロイド剤を炎症緩和目的に常時使用を続けると、副作用で脳が萎縮、アルツハイマー氏病に似た症状を表わす場合がある。医師はこれを説明する義務がある』


『しかしステロイド剤以外に、血管炎性ニューロパチーの苦痛からは逃れられない』


『つまりひとたび前述の症状を発症したならば、袋小路のドツボに嵌る場合が』



 以上、すべて事実と言い切る。リアルもリアル、ソース元は私自身。


 くそー、わが人生、往々にしてままならないなー。

 ケセラセラとか、なんくるないさなどと言える次元はとうに過ぎているし。


 おかげで人間のゴミ箱とも悪意的にも呼ばれるついのホスピタルで、私はただベッドに横になったまま糞尿を垂れるだけのボケ人間に成り下がってしまった。


 まあ、それももうすぐ、開放されるようだけど。死は目前に迫っている。



 ときに、私に家族っていたのだろうか。



 (おそらく病室の)ベッド周りで自分を見下ろしている複数人の彼らは――

 あるいは、私の家族なのだろうか。


 その辺り、何も思い出せない。本当に、全然。


 覚えていなくてすまない。しかし、ならば家族と仮定して言わせてもらう。


 迷惑かけた。本当に迷惑を。今の私は糞を垂れるだけの、死を待つ人間未満。人の姿をしただけのモンスターでもある。何せ、人として意思疎通できないし……。


 誰だかわからないけどステロイド剤だけは使わないで。誰だかわからないけど私のことなんてさっさと忘れちゃって。誰だかわからないけど私みたいにならないで。



 ああ……もう……意識がどこかに飛んでいきそう……。



 できれば、そう、生まれ変わりがあるなら。

 私に次の生があるのなら。



 血管性の病気に――いえ、そもそも病気にならない不死身のボディに、むしろ逆に生命や血を支配するくらいの存在になりたい。もはやほぼ神様みたいな感じ。


 あと、今生の性別がどちらか思い出せないけれど、次の生はぜひ美男か美女でお願いしたい。美は力。醜態を晒す人生の末路を見据えたからこそ、余計に思う。


 それと、今生の世界にはそこそこ進んだ科学はあれど魔術や魔法などの心躍るロマンがなかった気がするので、実行力のある魔術や魔法のある世界に行きたい。


 以上の条件で、節度を持ったプチ私つえーな冒険でも楽しめれば言うことなし。



 まあ、死ねばすべては奈落の闇の底だろうけど……。



 ――よろしい。そなたの願い、叶えてやろう。病魔に屈する憂き身を味わったとはいえ、そなたは今生をそなたなりに精一杯生きた。ならばその願い、叶えてやろう。



 誰かが私の耳元で囁いた。

 男とも女とも言い難い声色。不思議と安心感のある、力強い言葉。

 神とは言葉であると誰かが言ってはいたけれども。


 こみ上げてくる充足感と安心感。


 そうか、私、精一杯生きてたんだ。自分についてまったく覚えてないけれど……。


 良かった、と安心した瞬間――

 私の意識は、奈落の底の、そのまた奈落の闇の底へと落ちていった。



 ◆◇◇◆◇◇◆



 ――で、なんか、ばっしんばっしん私、ブッ叩かれているんですけど。


 しかも鷲掴みに逆さ吊りにされているんですけど。


 超痛いです! 本気で痛い! あと怖い!

 具体的には背中が痛い。逆さ吊り、両足鷲掴みスタイル!


 何この、あまりにスパルタンな扱い。ばっしんばっしんが止まらない。


 ああっ、やめてください!

 そんなに背中をブッ叩かれては、私、死んでしまいます!


 相次ぐ殴打に耐えかねて、私は恥も外聞もなく、泣いてしまう。



「おぎゃあああああああああああっ、おぎゃああああああああああああああっ」



 まさにギャン泣き。自分自身が驚くほどの声量。パワフル&トルクフル。



「――お慶び申し上げます! たるわれらが不死者の主、ヴラド・ツェペシュ・ノスフェラトゥ公爵閣下! たる新しき星の御霊、不死者の主、閣下の奥方様、バートリー・エルジェーベト・ノスフェラトゥ公爵夫人、無事、お子様をご出産!」


「善きかな! そして善き産声である! うむ、女の子であるな!」


「まるで漆黒の祝福を受けた闇夜の月に臨むような、どこまでも深く澄んだ珠の如き女の子です! おめでとうございます! まことに、おめでとうございます!」


「うむ!」


「バートリーもよくやった! われらの愛の結晶ぞ!」


「はい、あなた……っ」



 えーと、どういうことですかね。私が泣いたら、喜ばれました。


 落ち着こう。まだ慌てるような時間ではない。どこぞのセンドーさんを見習うのだ。まずは冷静に状況を把握。繰り返すが、まだ慌てるような時間ではない。


 不死者の主、星の御霊(地霊のこと)、何より真祖、元祖と言っているところからうかがえるに、吸血鬼の夫婦に新生児が誕生した……でいいのよね?


 吸血鬼って誰かを咬んで眷属を増やすものだと思っていたけれど……?


 あー、うん。さっぱりわからない。理解の範疇を越えているわ。


 わかるのは、おめでとうの対象が私であり、おそらくは私は彼ら吸血鬼の夫婦の娘であり、私は私で前世の記憶を受け継いだまま転生してしまったことだった。


 というか、そもそも吸血鬼ってアンデッドだよね……。


 真祖の吸血鬼と、元祖の吸血鬼の間に生まれた赤ちゃん。


 ねえ、それってさ。


 その子供って……最初から死んでません? アンデッド×アンデッドだし。

 たぶん掛け算みたいに負の数×負の数で、正の数にはならないと思うの。


 死産ですか、そうですか。


 あっはっはっはっはっ、冗談はよしてほしい。

 ……え、何? そのウソホント? その子供がまさかの私自身とか。


 ところがどっこい、これが現実……っ。現実なのです……っ。

 て、あなたどこのイチジョーさんですか。一人でボケてツっ込むわ!



 如何ともし難い。圧倒的事実にギャン泣き(実はまだ泣いてる)も更にパワフル。



 やっぱり、ちょっと待って。

 タイム。ターイムです。タイムを要求する!

 バレーボールの監督みたいに、腕でTの文字を作りたい!


 生まれたら死んでいましたとか、嫌な方向にアグレッシブ過ぎませんか!!!

 私、どうなってるの!!? 生きてるの? 死んでるの?



 誰か、お願いだから、責任者を呼んでくださいーっ!!!!




【お願い】

 作者のモチベは星の数で決まります。

 可能でしたら是非、星を置いて行ってくださればと。

 どうぞよろしくお願いします。

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